なるほど、経営に直結するようなシステムの場合には、経営企画部門が中心になり、商品やサービスの宣伝につながるようなシステムの場合には、広告やマーケティングの部門が中心になるわけですね。
一方、開発に関わる企業も多様化しました。まず、ユーザー企業の多くが、経営課題を解決する手段として情報システムを導入するようになったことから、そもそもどのような経営課題・業務課題があり、それを実現するための手段には何があるのかを「見える化」する役割を、コンサルティングファームが果たすようになりました。また、Webの技術革新が進んだ結果、ユーザー企業が業務システムのクライアントとしてWebを利用し、さまざまなインターネットシステムを導入するようになると、以前は企業ホームページの構築などを手掛けていたWeb開発会社が、こうしたシステムの開発を手掛けるようになります。
つまり、発注側も受注側も多様になったということですね。
でも競合会社が増えている一方で、クラウドサービスが今後さらに広まると、システム開発会社が淘汰(とうた)されるといわれているじゃないですか。要件定義すると自動的にプログラムが出来上がるツールも出ているみたいですし、今後、うちみたいな会社は生き残っていけるのですか。
ううむ、厳しい指摘ですね。確かに、クラウドによって、これまでシステム開発会社の売り上げの多くを占めていた「ハードウェアの費用」「システムを安定運用するための仕組み作りのコスト」の部分が削られていくことは間違いないでしょうね。また、運用管理の手間も格段に減るので、その部分の売り上げも下がると思われます。
しかしその半面、先進的なシステムや付加価値の高いシステム、リスク管理やセキュリティ管理が求められるシステムの開発において、われわれに求められる役割は変わらず存在すると思います。システム開発会社の売り上げの比率自体は、長い目で見れば変わっていくとは思いますが。
クラウドといえば、最近、大手システム開発会社がさかんに営業をかけている「プライベートクラウド」というのは、何なのですか。
あれは、特定企業向けのクラウドサービスです。一定規模以上の企業の場合、全国あるいは全世界の事業所や工場、事業部門ごとにさまざまな情報システムが存在します。それらを1つのクラウド環境上で動かすことで、企業全体としての情報システムの運用管理コストを大きく削減できるのです。これはシステム開発会社にとってある意味、大きなチャンスです。すでにプライベートクラウド環境を構築・提供しているユーザー企業に対して、さまざまな新しい先進的なシステムを付加価値として提供できるチャンスが生まれるのですから。
でも、クラウドサービスの設計・構築には高い技術スキルが求められるのですよね。スーパーエンジニアじゃないと、活躍できないのですか。
確かにインフラ部分の設計・構築は、誰もができるわけではありません。しかし、クラウドでもこれまでと同様に、顧客が求めることを顧客以上に理解し、それをシステムとして設計・提供する役割は求められます。いや、技術のハードルが下がるからこそ、これまで以上に求められる可能性も高いと思っています。
そのためには、どうすればいいのですか。
正解は1つではないと思いますが、ある人がいっていたのは、「情報システムの価値を考えるに当たっては、顧客だけを見るのではなく、顧客の顧客を見ろ」ということですかね。技術力も確かに重要ですが、「顧客」や「顧客の顧客」が日ごろ何をして、どんな問題を抱えているかを理解すれば、おのずとITによって提供できる価値が見えてくるはずです。
何か、深いですね。
技術というのはしょせん、道具にすぎないわけですから、それを顧客のためにどう使うべきかが重要なのです。さて、次回は最後の講義です。今回も少し話題に出たシステム開発会社のもうけの仕組みについてお話ししたいと思います。
イノウ
さまざまな業界や会社のことを、Webと書籍の連動で「分かりやすく」解説することを目指しています。さまざまな業界の企業を業態やキーワードごとに検索可能なWebサイト「業界地図 2012」を近日オープン予定。
『世界一わかりやすい IT(情報サービス)業界の「しくみ」と「ながれ」』 (amazonへのリンク)
イノウ 編著
行貝くん、江水くん、冠里さんをはじめとするキャラクターが解説するさまざまな業界の「入門書」。IT業界を「分かる」ために必要な「業界の知識」「会社の知識」「業務の知識」「基本の知識」を提供。
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