マネージャ職の人々にこのようなアドバイスをすると、「そもそも、仕事が予定よりも遅れているのに、報告してこない方が悪い!」という反応が返ってくることがあります。
その気持ちはよく分かります。何か問題が起こったなら、影響が軽微なうちにマネージャに報告すべきですし、そうしてくれれば対応策が取りやすくなります。ですから、理想として、そう「あるべき」なのは間違いありません。
しかし、現実は理想どおりにはいきません。「プチ隠ぺい体質」のように、あまり報告したがらない心理がありますし、仕事の遅れを取り戻すことに必死で、報告する余裕を失ってしまうメンバーだっているでしょう。特に、仕事の進め方に成熟していない若手メンバーほど余裕を失いがちです。
ですから、メンバーから上がってくる「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」だけに頼ることは危険です。PMからも進捗を聞いていく「逆ホウレンソウ」の精神を持ちましょう。
ただし、毎日毎日、仕事の進捗を細かく聞くのは賢くありません。メンバーだってうんざりして、まともな答えを聞けなくなります。質問は、タイミングを押さえて聞きたいものです。
では、適切なタイミングとはいつでしょうか?
仕事の進捗を確認するための効果的なタイミングは、前回でもお伝えした「仕事のスタートの時点」(スタートした直後)です。ここでうまくスタートが切れたかどうかの違いはとても重要です。しかし、重要ですがつい見落としてしまいがちな部分でもあります。
もう1つのタイミングとして、期日の少し前(1〜2日前ごろ)にも、確認しておいた方がいいでしょう。期日が来てから「できていません」と衝撃の告白を受けては、打つ手が限られてきます。少し前の段階で状況を把握すれば、対処手段をより多く確保できます。
特に日数のかかる仕事でなければ、この2つのタイミングで進捗を確認するだけで構いません。これを行うだけでも、チームとしての仕事の進み方の面で、そしてPM自身が安心できるという面で、大きく違ってきます。
とはいえ、新任のPMにとって、各メンバーの仕事の状況をつかみ、タイミングよく質問やアドバイスを行うのはかなり難しいことでしょう。無理のない進捗管理を行うためには、各メンバーの仕事状況が頭に入っていなければいけませんが、仕事が忙しくなると――特に、自分自身が何か作業をしなければいけない状況では――なかなかそこまで頭が回りません。
この問題を解決するためには、「自分自身の記憶を当てにしないこと」、つまり記憶に頼らなくても運営できる仕組みを構築することが有効です。
「記憶に頼らなくても運営できる仕組み」というと、ちょっと大げさな感じがしますが、それほど難しいことではありません。先ほどの進捗を確認するタイミングを、あらかじめ自分のスケジュールに組み込んでおけばよいのです。
ポイントは、ガントチャートやToDoリストではなく、自分のスケジュールに「進捗管理」というタスクを入れておくことです。PMとはいえ、自分の仕事が忙しくなってしまうと、プロジェクト全体のスケジュールに気が回らなくなってしまうこともあります(本来はあってはいけないことかもしれませんが、現実にはこうなる人が大半だと思います)。以下、具体的な方法を紹介しましょう。
まず、プロジェクトのガントチャートができたら、全工程(難しいようなら、特に気になるメンバーの工程だけでも)における「2つの日程」をチェックします。
確認したら、“自分のスケジュール”の上記2つの日付にそれぞれ、「○○さんの進捗確認」というタスクを記入します。
ちょっとした頼み事など、ガントチャートに載っていない仕事の場合は、その仕事を指示した時点で、自分のスケジュールにタスクを記入します。この場合、仕事をスタートするタイミングは本人に考えてもらってください(アドバイスするのは構いませんが、あくまでも本人の主体性を尊重すべきです)。
このように自分のスケジュールに入れてしまえば、いつ、何の進捗確認をするのかを忘れてしまっても心配ありません。そもそも、忙しいなかでは記憶力なんて当てになりませんし、「覚えている」ということ自体がPMにとって重いタスクになります。ここは意地を張らずに、素直にスケジュール管理ツール(PCや手帳)の力を借りましょう。
自分のスケジュールは確実に毎日見るものですから、たとえすっかり忘れていても、当日が来たらスケジュールが思い出させてくれるので、問題ありません。PMの仕事の負担を減らすコツは、これらのちょっとした習慣です。
さて、タイミングを押さえて進捗を確認していくと、メンバーに対して仕事の進め方を指導しやすくなってきます。前回も述べましたが、仕事が遅れる原因の多くは、スタート時点ですでに発生しています。その時点で問題を見つけた方が、より有効な指導ができます。
逆に、期日が過ぎてから「なぜ遅れたんだ!」と問い詰めたとしても、あまり効果はありません。なぜなら、当人自身が、仕事が遅れた本当の原因を把握しきれていないことがままあるからです。
仕事が予定より遅れると、終盤にバタバタしてどうにか事態を収束しようと試みます。当然、メンバーの記憶には「終盤の印象」が強く残ります。すると、どうなるかお分かりですか。メンバーが「問題がどこにあったのか」を見失ってしまうのです。仕事が遅れた本当の原因は「スタートでの出遅れ」だったのに、終盤に起こったささいなトラブルが原因だと思い込んでしまいます。こうなると、問題の原因が見つけられず、当然仕事の改善もできません。
仕事の進め方に関して未熟なメンバーを指導する際には、自分流のやり方を押し付け過ぎないように気を付けてください。仕事の進め方について、ささいな部分まで細かく干渉したり、やり方を押し付けたりするのは「マイクロマネジメント」です。これは、メンバーの主体性ややる気を奪いかねません。
また、仕事のスタート時点で進捗を確認した際に、「なぜスタートできてないんだ!」と叱責しても、かえって問題は解決しにくくなります。
そうではなく、スタートできなかった理由を確認し、その問題を解決するのを手伝うというスタンスで取り組んでください。場合によっては、PM自身が予定外の仕事を振ったせいで、本来予定した仕事をスタートできなかったということもあり得ます。一方的に叱責するのではなく、共に問題を解決するという姿勢で取り組みましょう。
「頑張ればいい」「大丈夫と言ったら大丈夫にしろ」という精神論では、問題は改善しません。PMの皆さんがそのことを意識してくれれば、自分も部下も楽になれるのです。
水口和彦
(有)ビズアーク取締役社長。タイムマネジメントの研修講師・コンサルタント。
石川県金沢市出身。大阪大学大学院理学研究科修士課程修了後、住友電気工業株式会社を経て現職。
製品開発や品質管理のエンジニアとして「仕事に追われるバタ男状態」を経験。それをタイムマネジメントの研究により克服したことをきっかけに、現職に至る。
新刊『世界で一番ゆるい 王様の時間術』(ダイヤモンド社)など著書多数。
Webサイト:時間管理術研究所
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.