51.5つの世界を旅するものたちよ
ジョエル・スポルスキーはソフトウェア開発を5種類に分類しました。私はきのこ流に「Web」「ゲーム」「アプリケーション」「組み込み」と4種類に分類して、それぞれの特徴と、Web以外の開発者がWebプログラマを目指す際の注意点をまとめます。
52.ゲームの時間ですよ
主に家庭用ゲームを開発する仕事を「ゲームプログラマ」と呼びます。技術力は高めですが慢性的に就業時間が長く、業務外のアウトプットはあまりしない傾向にあります。勉強会やカンファレンスなどでもあまり見掛けることはありません。技術力が高いイメージがあるため、Web系企業では歓迎されることが多いようです。
53.ゲームの時間は終わりですよ
ゲームプログラマは、まず「ゲーム開発という仕事を捨てる」という覚悟をする必要があります。ゲームの開発は大変楽しく、仕事そのものが報酬とさえ言えます。そんな楽しい仕事から離れるということは、思ったよりも困難なことなのです。
54.覚悟したら進むだけ
「覚悟」が完了したら、あとは進むだけです。しっかりキャリアを積んでいれば基礎的な力は相当高いはず。Web開発について一通り勉強すれば、Web系企業でも十分通用するでしょう。また、スマートフォンアプリを開発している企業であれば、そちらの開発でも力を発揮する場面がありそうです。
55.Visual系アプリケーションプログラマ
パソコン(主にWindows)で動く「デスクトップアプリケーション」を開発するプログラマを「アプリケーションプログラマ」と呼びます。市販されているパッケージソフトウェアを作る場合と、顧客専用の業務アプリケーションを作る場合があります。C++ / C#などの言語と「Visual Studio」を使って開発することが多く、Microsoftの製品に特化した知識やスキルを持つ傾向があります。
56.吹き荒れる危機感
みんな大なり小なりこの先のキャリアに危機感を持っているようで、転職希望者は急増しています。ベンダ主催のセミナーに参加する延長でカンファレンスに出てみたりはしますが、積極的に技術的なアウトプットをしているのはまだまだ少数派です。
57.右手に業務外活動、左手に業務知識
Web系企業では、キャリアそのものは「ミスマッチ」の一言で切り捨てられがちです。業務外でLAMPなどOSSプラットフォームでの開発を行い、成果と学習意欲をアピールしましょう。また、業務知識がマッチする場合は大きな武器になります。
58.世界は組み込まれたソフトウェアで動いている
ハードウェアを制御するソフトウェアを書くのが「組み込みプログラマ」です。工場や交通機関から携帯電話やカーナビ、家電など応用範囲は広く、現代社会の生活には必要不可欠な存在です。
59.吹き荒れない危機感
製造業に元気がないせいか、組み込みプログラマからもあまり景気のいい話は聞かれません。「レイオフ」とか「営業に転籍」、「早期退職」など、エンジニアとしては寂しくなるようなキーワードばかりが聞こえてきます。そのわりに切迫した危機感を感じないのは、大手メーカーのソフトウェア部門にいるプログラマによく見られる特徴です。
60.切り札はどのカード?
経験をそのままWeb業界で生かせることはあまりありませんが、数少ない例外としてスマートフォンアプリの開発経験があります。そうでない場合はひたすら業務外活動でアピールあるのみ。C言語の経験を生かして、Web系でよく使われるOSSそのものに詳しくなってしまう、という戦略もあります。「PHPのエクステンションが書けます」なんていうアピールは有効でしょう。
61.インフラさん、いらっしゃい
インフラエンジニアはプログラマほど細分化されてはいませんが、それでもWeb系企業への向き不向きや、キャリアのマッチングは企業にとってのチェックポイントです。歓迎されるスキルを挙げてみます。
62.右から左へログを受け流すだけの簡単なお仕事……ではありません
Web系企業では「ひととおりできること」「トラブル対応できること」が要求されます。サービスを安定運用するためには、迅速なトラブルシューティングが不可欠です。そのためには、ネットワークやハードウェアなど低レイヤからサーバで動くミドルウェア、そしてその上で動くアプリケーションまで、スキルの幅が広いほどよいのは自明ですね。
63.合言葉は「負荷」と「運用」
Web系企業では「負荷対策」と「運用経験」が重視されます。実際に高トラフィックや大容量データと戦い、サービスを継続的に運用していくのがWeb系企業ですから当然ですね。設計書を書くだけ、構築するだけではなく、日々サービスの面倒を見てきた経験が強い武器になります。
64.行こか戻ろかWeb業界
Web業界に行ったからって、すべてがバラ色になるわけではないのは先ほどお話した通りです。冷静に考え、そして自分の「手持ちカード」を分析し、戦略的に転職活動(もしくは転職しない活動)をしましょう。
65.諸君、本題はここからだ
ここまでは総集編っぽく、前回までのおさらいをしてみました。ここからが最終回の本題。「ソーシャル転職」「面接」、そして「新人エンジニアの心構え」についてお話しましょう。
66.ソーシャル転職って知ってますか
エンジニアライフのコラムニスト @regtanさんは、2011年12月に転職しました。転職エージェントを使っても希望する条件の求人には巡り会えず、結局ソーシャルメディアの縁で転職を果たしました。このような「ソーシャル転職」は、今後ますます増えていくことでしょう。
67.ソーシャル転職? なにそれ、おいしいの?
今までの連載で、なんども「業務外活動を行い、それをアピールせよ!」というお話をしてきました。ソーシャル転職とはまさに、「業務外アピールだけで転職する」ということに他なりません。求人する企業にとっても、応募するエンジニアにとっても、普通の転職よりずっとメリットがあります。
68.お前の看板、しかと見届けた
業務外活動のアウトプットやソーシャルメディアでの活動からは、転職サービスのエージェントが送ってくる情報よりずっと、エンジニアが持つスキルとポテンシャルが伝わってきます。これは求人する企業にとって大きなメリットです。また、転職サービスに掛かるコストのお話も、以前したとおりです。
69.芝生の色、何色ですか?
応募するエンジニアにとっては「中の人」、特に現場で実際に働くエンジニアと直接話せることが最大のメリットです。社風や業務内容、組織の体制や開発環境など「転職先の芝生の色」を事前に知ることができるのは、ソーシャル転職ならではのメリットです。
70.実例をもう1つ
同じくエンジニアライフのコラムニスト@daiksyさんも、ご自身の転職活動では「業務外活動がキーになった」というコラムを書いています。「SIerのキャリアを書いた書類は通過しない」→「業務外活動をアピールしたら通過するようになった」という体験は、菌類の主張を裏付けてくれました。
71.フォークできるのは、コードだけじゃない
そして、ソーシャル転職をサービスとして提供する事例も出てきました。まもなくリリース予定の「Forkwell」というサービスです。私は縁あってサービスの内容を直接聞くことができたのですが、新しい転職の形として企業にもエンジニアにもメリットがあり、とても期待しています。
72.備えあれば、うれしいな
エンジニアにとって業務外活動を行い、そしてそれをアウトプットすることはもはや「必須」と言えそうです。今すぐ転職するつもりがなくても、プロフェッショナルとして自分の腕前を磨くために、業務外活動に取り組んでみましょう。そしてそのアウトプットが、転職の最適な準備となります。
73.おお、エンジニア! ゆうしゃのちをひくものよ! そなたのくるのをまっておったぞ。
ここまで準備をしてきたら、きっと書類審査は通過するでしょう。次のステップは「面接」です。通常1〜3回程度行われ、人事担当者、現場のエンジニア、管理職や役員クラス、場合によってはCTOや社長など、さまざまな立場の人たちと話す必要があります。あとは、あなたの実力次第……なのですが、できるだけ準備を整えるほうが望ましいでしょう。
74.企業があなたを面接するとき、あなたもまた企業を面接しているのだ
まず忘れてはならないのは、面接とは「一方的に品定めをされる場ではない」ということです。企業はあなたがマッチするかどうか、活躍するかどうかを見極めようとします。あなたも同様に、マッチできるかどうか、活躍できるかどうかを見極めましょう。「企業を面接しているんだ」という気持ちが大切です。
75.うそつきは泥棒のはじまり
面接では自分を売り込むのが主な目的ですから、質問にもできるだけ肯定的な答えを返したいものです。だからといって、うそや誇張はいけません。そんなものはいずれバレます。未経験のこと、分からないことは正直に答えましょう。
76.プレゼンテーションMEN
当然のことながら、面接とはプレゼンテーションの場でもあります。あなたの能力ややる気、人間性といった特徴を効果的にアピールするためには、プレゼンテーションとしての質を上げるのも重要なことです。自己紹介と自己PRぐらいは下書きをして、リハーサルをしておくとよいでしょう。実際に声に出すことが重要です。
77.ヒトカラの意外な用途
会社でも自宅でも、自己PRを声に出すのは難しい場合もあるでしょう。そんなときおすすめなのが「ヒトカラ」。カラオケボックスに1人で行って、面接のリハーサルをしてしまいましょう。声を出しても平気だし、誰かの目や耳を気にする必要もありません。恥ずかしかったり緊張したりで失敗するのは、面接の本番より事前に1人で済ませておいた方がよくないですか?
78.看板の準備はできてるか?
応募書類ではしっかり業務外活動をアピールできましたか? 面接の場では、その実物をアピールする準備もしていきましょう。アピールの話になったら「実物を見ていただけますか?」と切り出して、持参したノートPCやスマートフォンなどで「実物のアピール」をするのはとても有効です。
79.ソフトウェア技術者採用ガイド
私の会社では必ず、面接のときにコードを書いてもらいます。簡単なお題を出して、その場でホワイトボードに書いてもらう、というスタイルです。エンジニア(特にプログラマ)を採用するのだから、当然ですよね? ところが結構な割合で「えっ、今すぐですか?」と驚かれます。むしろコード書かせずに採用しようという企業の方が、私には驚きです。
80.コードを書いてもらう目的
面接は時間の制約があるため、お題もシンプルで小さなものであることがほとんどです。また、細かい文法や関数名の正誤よりも、コードを書くときの考え方や名前のつけ方、引数やデータ構造の設計など「プログラマとしての基礎体力」を知るのが目的です。小さな間違いを恐れずに手を動かし、普段のコーディング風景を正直に見てもらいましょう。
81.シャイな言いわけ 仮面で隠して
面接官の立場としては、まず書いてもらわないと実力を計ることもできませんし、話を膨らませることもできません。ところが、「書けませんすみません」とギブアップしてしまうエンジニアが意外と多いのです。書いてさえくれればコードレビューをすることができますので、「まずは書く」という気持ちを忘れないでください。
82.FAQ(よくあるお題)
面接のときに書いてもらうネタとしては、「FizzBuzz」「ハノイの塔」「ユークリッドの互除法」など有名なお題があります。また、数値と文字の変換や文字の並べ替えなど「文字列操作」のお題も少なくないようです。ヒット率はあまり高くありませんが、有名なお題は予習しておくといいかもしれません。たとえ面接では用なしだったとしても、あなたの基礎体力がちょっぴり上がりますから無駄にはなりません。
83.お待ちかねの質問タイム!
面接の時にはたいてい、質疑応答の時間が用意されます。「何か質問はありますか?」と言われたら、そこからがあなたのターン。しっかり的を射た質問しなくては、「あなたが企業を面接する」という目的は果たせません。また、質問タイムはアピールタイムでもあるのです。有効活用しないともったいない!
84.不安にさよならしておこう
まずは、あなたが仕事する上で一番重要視していることについて聞いておきましょう。人間関係? 就業時間? 福利厚生?給与収入? 評価制度? 開発言語? 転職するきっかけはなんだったのか、転職してどんな環境に身をおきたいかを事前に整理しておき、優先度の高い方から聞いていきましょう。うやむやにしたまま入社しても、双方が不幸になるだけです。
85.質問でもできる自己アピール
質問タイムはあなたの疑問や不安を払拭する時間であるとともに、その面接をどう感じたか、その企業をどう思っているかを伝える時間でもあります。面接官の立場から言うと、意欲的な質問を返す候補者には意欲的な答えを返したいものです。その結果、面接官にあなたを印象づけることができますし、より真実に近い情報を引き出すこともできます。
86.他の候補者には、ナイショだよ!
「面接官がされてうれしい質問」というのは、確実にあります。企業秘密なのであんまりお教えしたくない…のですが、1つだけバラしてしまいましょう。それは、「あなたが面接官にされて一番面白かった質問を、逆に面接官にぶつけてみる」というものです。特に面接官が現役のエンジニアだと、面白い答えが返ってきたり、企業の実情を知ることができたりもします。
87.そなたのことは エンジニアの面接として かたりつがれてゆくであろう!
ちょっと長めに、面接についてお話ししてきました。「できる準備はしておく」「お互いに面接している」「質問タイムはアピールタイム」。これらを忘れずにいれば、悔いのない面接ができるでしょう。そして、もしあなたが受ける面接の面接官がきのこっぽくても、そのことには触れずにいてあげてください。
88.新兵諸君に告ぐ
この連載は「転職」がテーマですので、学生さんや若手エンジニアが読んでいる確率は低そうです。しかし、IT業界を目指す学生さんから3年目あたりまでの、若いエンジニア(とその卵)の皆さんに知ってほしいことが山ほどあるので、ここで少し書いておきます。
89.SIerでこの先生きのこるには
SIerでは「自分でITによる問題解決ができない人材」が増えると話してくれたのは、ござ先輩こと湯本氏。行程の分断が元凶なのですが、ヤングが打ち破る壁としては高く分厚いものです。上流から下流まで身に付けるには、業務以外の自助努力が不可欠なのです。
90.Web系企業でこの先生きのこるには
Web系企業では「目の前の問題を解決する」のが最優先なので、「戦略的でゆとりある新人教育」といったものはほとんど行われていません。若手でも成果を出せる人間はどんどん重用されていきますし、ボサッとしたままいつまでたっても低スキルの人間には、やりがいのある仕事が回ってくる可能性も低くなります。つまり、ここでも自助努力が不可欠なのです。
91.新人がIT業界でこの先生きのこるには
ソフトウェア開発は、仕事そのものが報酬になるほど楽しくやりがいのある仕事です。しかし、自助努力を重ね第一線で戦えるスキルを身につけていないと、日に日に苦しさだけが積み重なっていきます。毎日の忙しさに負けず、エンジニアとしての目標を高く持ち、その目標に向けて努力する気持ちを忘れないでください。
92.たけのこには負けていられない
全8回にわたってお付き合いいただいた「きのこる先生のエンジニア転職指南」、そろそろおしまいが近づいてきました。この連載では菌類の誇りにかけて、エンジニアのみなさんが転職する際の心構えやテクニック、そしてWeb業界とSIerを比較することで「隣の芝生の色」についてお伝えしてきました。
93.教科書は何も教えてはくれない
ソフトウェア開発には、プロジェクトの数だけ事情があります。あなたがどこに行けば力を発揮できて、どこに行けば幸せになれるか。教えてくれる人はいないし、教科書にも書いてありません。この連載は、それでも理想の環境を求める人のためのものです。
94.明日のことなど誰も分からない
そして、ソフトウェア開発も日進月歩の業界です。今はWeb系企業が話題になることが多くなっていますが、それが未来永劫続くわけではありません。変化に対応し、エンジニアとしてどう生きていくか。それを実現するためには転職した方がいいのか、しない方がいいのか。私も、皆さんも、真摯(しんし)に考え続ける必要があります。
95.ありがとうさようならともだち
ネタになってくれたコラムニストの野口さんと粕谷さん。連載にお付き合いいただいた読者の皆さん。遅筆な菌類の原稿を気長に待ってくれた編集担当さん。そして、すべてのシステム開発を少しでも良いものにしようと日夜奮闘する、ソフトウェアエンジニアの皆さん。ありがとうございました。
96.さよならは別れの言葉じゃなくて
連載は今回でおしまいですが、菌類は今後も活動を続けていきます。ぜひ、エンジニアの皆さんも、どしどし活動してください。皆さんが充実した仕事をして、その成果としてのソフトウェアが世界を変えていくのを、少しでもお手伝いしていこうと思っています。どこかでお会いできるといいですね!
97.転職したいエンジニアがこの先生きのこるには
「理想のエンジニア像」を自分の中に持ちましょう。そして、理想に近づくための行動をしましょう。
そのためにはどうしたらいいか? 私の大好きな「ロールプレイングゲーム」という記事を紹介して、最終回を締めくくります。
いつかどこかの勉強会や、もしかしたら面接の場で、「理想のエンジニア」を目指している皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。それでは、また!
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