「特許はイノベーションを阻害する」という意見が聞かれます。特許制度がなければ、裁判などに惑わされることなく、アイデアが自由に流通し、イノベーションがどんどん生まれるはずだという考え方です。
しかし、もし本当に特許制度がなくなればどうなるでしょうか? まず、苦労してイノベーションを生み出すよりもそれを模倣して安価に製品化した方が有利になってしまいます。結果的に才能ある人がイノベーションを行う動機付けがなくなってしまいます。一部の新興国の人は喜ぶかもしれませんが、日本の国益は大きく害されるでしょう。
また、特許制度がない世界で模倣を防ぐにはアイデアを秘匿化するしかありません。アイデアを秘匿化すると他人のアイデアから学んで改良していくことが困難になります。結果的に多くの企業が閉鎖的なやり方で技術開発を行ってしまうことになるでしょう。特許制度の意義は、独占権の付与とアイデアの公開のバランスにあるという、冒頭の説明を思い出してください。特許制度には、良いアイデアを積極的に公開させるという効果もあるのです。
もちろん、現状の特許制度に問題がないわけではありません。当たり前の(つまり、新規性・進歩性を欠く)アイデアが特許化されると、特許権者の権利が強過ぎて問題になり得ます。また、長年の度重なる改訂によって、制度がいたずらに複雑という問題もあります。しかし、これは時間をかけて改善していくべき問題であって、特許制度をなくせば解決するものではありません。特許制度をなくせば、それ以上の問題が生じてしまうでしょう。
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