中学1年生、取締役社長が語る「マグカップ論」ゆとり世代が問う「好きなことをやって何が悪い!」(3)

2月17日、Life is Tech ! 主催「Edu×Tech Fes 2013 U-18」が開催された。そこで行われた「驚異のプレゼンテーション」をレポートする。

» 2013年03月19日 11時33分 公開
[太田智美,@IT]

本連載では、Life is Tech ! が主催するイベント「Edu×Tech Fes 2013 U-18〜驚異のプレゼンテーション〜」をレポートする。Edu×Tech Fes 2013 U-18は、テクノロジーから教育を考え、教育からテクノロジーを考えるイベント。天才中高生が語るゾクゾクする3時間を、全7回の連載でお届けする。

中学生社長の尽きない好奇心

 中学1年の米山維斗氏は、ケミストリー・クエストの代表取締役社長。ケミストリー・クエストは、2011年7月20日に設立されたシステム開発などを手掛ける会社だ。なぜ彼は、中学1年にしてここに至ったのか。

米山維斗氏 米山維斗氏

 米山氏は、幼いころから興味を持った事柄を探求するのが好きで、幼稚園のときは太陽系に興味を持っていた。彼の通っていた幼稚園では、自然科学の教育に力を入れており、太陽系に関する授業があったという。米山氏は、天文学の本を読みあさり、どのように惑星ができたのか、惑星は何でできているのかなどを調べたそうだ。また、家の近くにあるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の相模原キャンパスで行われる一般公開イベントや博物館などにも通った。

 こうして宇宙について調べていると、「地球のでき方」について書かれているページを見つけた。「地球ができていくときに重要なのは生命だ」ということを、彼はこのとき知った。これがきっかけで、小学校2年生の米山氏は、生物が好きになっていた。特に心を奪われたのは、アンモナイト。頭の中がアンモナイトでいっぱいになってしまった彼は、Wordを使い「アンモナイト図鑑」を作っていたという。

 米山氏が次に興味を持ったのは、鉱物。実は、アンモナイトの化石は殻本体ではなく、殻に鉱物がしみ込んでできているそうだ。好奇心旺盛な彼は、鉱物について調べ始めた。そして、いつの間にか鉱物が好きになっていた。鉱物は、形や成分など多種多様で、分類の仕方も多くあり、調べていてとても興味深かったという。鉱物について調べていると、今度は「組成式」というものにたどりついた。

 組成式は化学式の1つで、鉱物がどのような元素でできているかを表す式として使われている。彼は、化学が好きになった。こうして、無機化学である鉱物の次に興味を持ったのは、生物に関係の深い有機化学。米山氏の興味は留まるところを知らず、テストの点が良かったときに科学雑誌ニュートンを買ってもらったり、誕生日にビーカーや試験管などの実験道具を買ってもらったりしたという。

 さらに、彼がよく早起きをして遊んでいたのが、分子の立体模型がいじれるパソコンソフト。分子は原子が結び付いたものであり、米山氏の興味は原子に向かうことになる。「原子は、何でできているのか」、続いてたどり着いたのは「素粒子」だった。世の中の大半の物質が、3種類の素粒子からできていることに驚いたという。さらに彼が驚いたことは、素粒子を見るためには、全長3キロ・直径1キロもある「加速器」という巨大な円形の装置を使わなければならないということ。米山氏は、「絶対に目に見えない世界を見るために、こんなに大きな機械を使っていることに驚いた」と話す。彼は、5年生になると、今度は宇宙工学に興味を持つことになる。

「マグカップ論」

 米山氏は、自分の興味について、次のように述べた。

 「あるところに、マグカップがいくつか並んでいるとする。マグカップ1つ1つが、自分の興味だ。このマグカップの中の1つに、自分が船に乗って浮かんでいるとする。マグカップは不透明なので、中にいると周りが見えない。そこに、『興味』という名の水を注いでいくと、マグカップに入っていた水はあふれ、船からは周りの世界が見えるようになる。そして船を漕げば、隣のコップに進むこともできる。しかし、昔使った水が減ってしまっていたら、先へは進めない。そのため、情報を常にきちんと仕入れていなければならない」(米山氏)。

 さらに、彼はこう続ける。「一人で船旅をするのは寂しいし、動ける距離も限られてくる。だから、仲間を作る。すると、動ける範囲が増え、1度にたくさんの方角を見られるようになる」(同氏)。

「戦わないカードゲーム」を広める手段としての“起業”

 小学3年生のころ、学校の友だちが神経衰弱のようなカードゲームを作っていた。米山氏は、自分もカードゲームを作りたいと思い、早速カード作りに取り掛かった。コンセプトは、「戦わないカードゲーム」。カードゲームといえばバトルものが主流だが、彼は仲間に加われるようなゲームにしたいと思ったそうだ。当時、化学が好きだった米山氏は、「結合」を取り入れたカードゲームにすることを思い付いた。

 「化学のカードゲームを作れば、化学の楽しさを友だちと共有できるかもしれない」と米山氏は期待した。自分にとってとても楽しいものである化学を、友だちが嫌いになってしまうのを「もったいない」と感じていたのだそうだ。そして、彼の計画は成功。作成したカードゲームを友だちに遊んでもらうと、「面白い」と言ってもらえた。また、分子を作っていくゲームであったため「この分子は何?」と興味を持って聞いてもらうこともできた。

 米山氏はさらに、このカードゲームを広めるため、イベントでの出店を行った。初めは、小学生や幼稚園の子どもに「ただのカードゲームだよ!簡単だよ!」と言って無理やりやらせたそうだ。すると、不思議なことに、大人は「難しい」と言うのに対し、幼い子どもたちはいとも簡単に楽しんだ。彼は、このときの現象を「ルール自体は化学と関係がない。原子ごとに色分けされているため、色と数さえ分かればできるゲームだ。小学生や幼稚園生は単純にルールだけを見ていたため、できたのではないか」と分析する。このゲームは、初めはただのゲームだが、カードに分子の名前などが記されているため、ゲームをやっているうちに自然に化学に触れ合ってもらえる仕組みだという。

ケミストリークエスト

 米山氏はこのアイデアを広めるため、会社を立ち上げ、商品化を試みた。その会社が、ケミストリー・クエストだ。あくまでも「アイデアを広めるための会社」であるため、家族の協力を得て登記。オフィスを構えているわけでもない。「カードのアイデアがあり、それを広めるために『法人』という手段を選んだ」と米山氏は言う。現在、約5万部売れているカードゲームだが、彼は「売れたかどうかよりも、広まったことに嬉しさを感じている」と述べる。

 しかし、このカードゲームが世界に広まるためには、カードでは不十分だった。このあと、ケミストリークエストはiPhoneアプリとして登場することになる。

 昨年の夏、米山氏がシンガポールに行って現地の子どもたちに英語でゲームを教えたときのことだった。シンガポールの子どもたちも、ゲームを通じて化学に興味を持ってくれた。しかし、実際に世界中を回るのには時間がかかりすぎてしまうということに、そのとき気が付いたという。何とかして、世界中の人に瞬時にゲームを届ける方法を見付けなければいけないと、彼は思った。そこで、Life is Techのキャンプに参加し、iPhoneアプリ「CHEMISTRYQUEST」を作成した。「アプリは現在、3600ダウンロード程であるが、その中には海外からのダウンロードもあり、世界へ広められたことを実感している」と、米山氏は語る。

iPhoneアプリケーション「CHEMISTRYQUEST」 iPhoneアプリケーション「CHEMISTRYQUEST」

新たな関心は鉄道

 米山氏が現在最も興味を持っているのは、鉄道。特に、京王電鉄が好きだという。彼は、京王線の中でも、特に明大前駅で後続の列車が迫っていることが多いことに疑問を持った。なぜそのようなことが起きているのか。彼は、調べ始めた。

 調べていくと、軌道の作りに特徴があることが分かった。京王線は、鉄道の軌道を上り列車用と下り列車用にそれぞれ1線ずつ(計2線)敷く「複線」という、車でいうなら片側1車線のスタイルをとっていることが分かった。それに対し、他の会社では、鉄道の軌道を上り列車用と下り列車用にそれぞれ2線ずつ(計4線)敷く「複々線」というスタイルをとっている。複々線の方がたくさん電車を走らせられるように思えるが、京王線はほとんど複線で頑張っているという。なぜ、京王線は複線で頑張れるのか。

 それは、昔、輸送量を増強するために、国が補助金を出したことにまで遡る。他の会社は、複々線を作るのにその資金を使ったのに対し、京王線は、井の頭線を除くすべての駅に、10両編成の列車が止まれるようにするプラットフォーム改良工事に資金を使ったそうだ。その結果、京王電鉄は朝ラッシュの時間には10両編成の各駅停車を走らせ、輸送力を確保しているのだという。また、電圧を任意に変える「VVVF」という装置を100%採用しており、それによって45%の節電効果も出ているという。

 彼の鉄道に関する興味は1年半ほど続いているが、その理由は「仲間がいるから」だと述べる。幼稚園のころ太陽系に興味を持ち始めて以来、小学校2年生では生物が好きになり、アンモナイトに興味を持ったことがきっかけで鉱物に詳しくなった。鉱物を調べていたら、組成式という化学式に辿りつき、化学を学び、有機化学を知った。分子、原子、素粒子を経て、宇宙工学に興味を持った。そして今、中学1年生となった彼は、システム開発などを手掛ける会社の社長でありながら、鉄道の研究をしている。

 彼は、言う。「1年後、5年後、10年後、いったい自分がどのようなことをしているのかは、分からない。しかし、1つだけ確かに言えることがあるとすれば、好きなことをやっている自分がいるということ。誰に何を言われようと、自分が興味を持ったことにひたすら突き進んでいると思う」(米山氏)。


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