2月17日、Life is Tech ! 主催「Edu×Tech Fes 2013 U-18」が開催された。そこで行われた「驚異のプレゼンテーション」をレポートする。
本連載では、Life is Tech ! が主催するイベント「Edu×Tech Fes 2013 U-18〜驚異のプレゼンテーション〜」をレポートする。Edu×Tech Fes 2013 U-18は、テクノロジーから教育を考え、教育からテクノロジーを考えるイベント。天才中高生が語るゾクゾクする3時間を、全7回の連載でお届けする。
千葉県立千葉中学校に通う山本恭輔氏は、彼のCTデータから作られた模型「スケルトン」を横に置き、プレゼンテーションを行った。彼は、なんとまだ中学3年生だ。
山本氏は、3〜4歳のころからCGに興味があり、Pixarの映画が大好き、将来は「Pixarでアニメーション映画を作りたい。そして、夢の大切さを世界に発信したい」と語る。千葉県立千葉中学校に入学後、中学のゼミでCGの研究を始めた。ゼミでは、デジタルハリウッドや日本のPixarを目指すマーザ・アニメーションプラネットで働く人の話を聞き、研究発表を行った。すると、ある先生が全校生徒の前でこんなことを言ったという。――「CGなんかの研究をして、何の社会貢献になるんだ」――。このひと言が、彼の心に火を付けた。単なる娯楽の話だと思われてしまったのが、悔しくてしょうがなかった。
彼はそれ以来、世の中の役に立っているさまざまな分野のデジタル技術について調査し始めた。そうしているうちに辿り着いたのが「ITで医療を変える」という記事だった。記事には、Mac OS XおよびiOSで動作する画像処理ソフトウェア「OsiriX(オザイリクス)」を使った医療技術が記載されていた。患者のCTデータをもとに3Dデータを構築し、構築された3Dデータから3Dプリンターで身体の中が見えるような造形を作るという技術だった。彼は、この技術に興味を持ち、開発者である神戸大学の杉本先生にメールで質問をした。杉本先生からの返信は、山本氏の質問に真剣に答えてくれたものだった。ますますその技術に興味を持った彼は、先生の講演が東京であることを知ると、今度は直接会いに行った。話を聞くと、この技術は実際に手術室に持ち込んで活用したり、手術用ロボットのシミュレーションにも使われていることが分かった。そして、最近では、本物の臓器のようにウェットな質感の素材を使った模型を作れることも知った。
山本氏は最先端の技術を学び、この技術を学校の友人と共有したいと思った。彼は、杉本先生に学校で講演してもらうことを思い付き、その思い付きはすぐに実現した。講演の最後に、杉本先生から山本氏にサプライズプレゼントが渡された。彼のCTデータから作られた40%サイズの模型「スケルトン」だ。模型をプレゼントされたときの気持ちを、同氏は「このスケルトンを自分だけの宝物にして、終わりたくなかった」と話す。
杉本先生の講演後、山本氏はアイデアを広めるための研究を始めた。先生の講演の中で、世界のアイデアを共有する「TED」や、魅力的なプレゼンテーションについて書かれたベストセラー「プレゼンテーションzen」の紹介があったことがきっかけだった。彼は、TEDで世界中のアイデアを聞き、自分の生活の中に取り入れた。そして、アイデアを生み出し、発信する大切さを学んだ。また、プレゼンテーションzenに感銘を受けた彼は、著者 ガー・レイノルズ(Garr Reynolds)氏がいる関西まで会いに行った。ガー氏は、「日本の『禅(ぜん)』の文化をプレゼンテーションの準備段階から取り入れることで、よりシンプルで伝わるプレゼンができる」というアイデアを発信している人物である。会いに来た山本氏に、ガー氏はこんなことを教えてくれた。――「大切なのは、プレゼンテーションスキルよりも、伝えたいという熱意・パッションなんだ」――。
そして、山本氏にもアイデアを広めるための機会が何度かやってきた。1度目は、ある企業が主催する「日本一の夢」を決める大会。2度目は、NHKスーパープレゼンテーションというイベントだった。これらのイベントをきっかけに、彼はさまざまな場所でプレゼンテーションを行うことになった。
校外だけでなく、学内でもプレゼンテーションを行った。しかし、学校内での活動に規制は付きもの。特に、スマートデバイスに対する学校側のスタンスは、「百害あって一利なし」というものだった。プレゼンテーションでどうしても動画を見せたかった彼は、iPadの活用を予定していたが、あえて許可をとらず本番で使ってしまったという。山本氏は、「新しい風を吹かせたかった」と当時の心境を語った。実際、学校で初めてiPadを使用したことで、多くの先生や生徒が興味を示してくれたそうだ。そして、一週間後、英語科に1台iPadが導入された。
だが残念なことに、英語の先生はiPadの効果的な活用方法が分からなかった。すると山本氏は、次のゼミの時間にある行動をとった。教育現場でiPadを活用している先生たちをインタビューし、無料電子書籍作成アプリiBooks Authorでまとめ、公開した。彼がまとめたインタビューは、たくさんの人に読まれ、のちに日本のICT化を率いる人たちと彼は出会うことになる。
スケルトン模型を手にしてから1年半、山本氏に変化があったという。自分で得たものを自分の中で消化し、何らかの形で発信することが楽しくて仕方がなくなった。「自分たちが日ごろからICTを使って発信することはもちろんだが、リアルにつながることで自分たちのアイデアやパッションをシェアし、それが世界を変えていく第一歩になる。リアルにつながるというのは、空間を共有するということ。それをこれからも大切にしていきたい」と彼は語る。
最後に、山本氏は「これからの中高生に必要な3つの力」を紹介した。1つめは、常に最先端のものを視野に入れておくこと。「デジタルネイティブ世代は、SNSやインターネットで常に最先端のものに触れられるチャンスを持っている。だからこそ、社会が向いている新しい方向を、常に知っている必要がある」と述べる。2つめは、その分野のプロフェッショナルの人たちとリアルにつながること。「僕たちはICTを使っていろいろな現場の人たちとつながれるようになったが、実際に会って話をしなければ信頼関係は生まれない。僕の経験からも分かるように、世の中には中高生に手を貸してくれる大人がたくさんいる。だからぜひ、リアルにつながってみてほしい」と語る。3つめは、自分の得たものを広く伝えること。「どんなにすばらしいアイデアがあっても、それを人に伝えて分かってもらえなければ価値は生まれない。僕が最初にCGの研究発表をしたとき、あのような酷評をされたのも自分に伝える力が足りなかったからだ。内に秘めているアイデアでは、人々に影響を与えない」(同氏)。
「社会は、若者が行動を起こすことに期待している。私たちがそれを『可能』だと定義すれば、世界を変えることができる。だから、皆で最先端を見据え、リアルにつながり、アイデアを伝え、一緒に世界を変えたい」と中学3年生の少年は聴衆に訴えた。
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