続いて、実際にIBMのテクノロジーを活用してSystems of Interactionの取り組みを進めている3社の企業の事例紹介が行われた。
1社目は、韓国のロッテカードにおけるモバイルアプリケーション活用の事例だ。
このアプリケーションの開発を担当したFinance All SolutionsのCEO、クリス・J・チャン氏によれば、開発の際にはマルチプラットフォーム対応や開発期間・コストの圧縮など、さまざまな要件や課題に突き当たったという。
モバイルアプリ開発で避けて通れないのが、多様なプラットフォームに対応し、かつ同じユーザー体験を提供することだ。個別のプラットフォーム向けに開発を進めるために、複数の類似プロジェクトを走らせてはコストが膨らみ過ぎる。
その解決のために同社が導入したのが、IBMが提供するMEAP(Mobile Enterprise Application Platform)製品「IBM Worklight」(以降、Worklight)だった。
Worklightは、プラットフォームごとの差異を吸収しながら、複数のプラットフォーム向けネイティブアプリケーションやHTML5アプリケーションの作成を支援する統合開発環境。IDEであるWorklight Studioと開発プロジェクト管理ツールであるWorklight Serverがあり、各種デバイス用ランタイムやコンソールが用意されている。
同社は、Worklightによってモバイルアプリケーション開発の生産性と保守性を向上させ、ひいてはロッテカードにモバイルを活用した新たなITの価値とビジネス機会を提供することができたという。
2社目の事例は、東京海上日動システムズにおける「IBM Operational Decision Manager(ODM)」の導入例。ODMは、ビジネスイベントの発生に応じて意思決定とビジネスアクションを自動実行するためのソフトウェア製品である。
東京海上日動システムズでは、保険業界における商品開発・提供スピード向上の要請に応えるために、システム開発期間を50%削減する「Challenge50 Start」プロジェクトに取り組んでおり、その一環としてODMを採用した。同社 エグゼクティブオフィサー 営業戦略推進本部長 土屋寿明氏によれば、ODM導入によりシステム開発期間の大幅短縮が実現できたとともに、ビジネスプロセスを業務現場の担当者が柔軟に変更できるようになったことで、市場ニーズの変化に迅速に対応した顧客サービスを提供できるようになったという。
3社目は、パイオニアにおけるカーナビシステムの事例。パイオニアでは、同社のカーナビブランド「カロッツェリア」の製品を搭載した自動車の走行情報を集め、各ドライバー間でリアルタイムに共有する「スマートループ」というサービスを展開している。
これを実現するためのビッグデータ収集・分析基盤として、同社では「IBM PureApplication System」を採用している。パイオニア カー事業戦略部 情報サービスプラットフォームセンター PaaS担当部長 野崎隆志氏は、「IBM PureApplication Systemはハードウェアとミドルウェアが一体化しているため、PaaS基盤としてのコストパフォーマンスに優れ、かつ開発・運用に必要なアプリケーションサーバ、データベースなどのミドルウェアがあらかじめ組み込まれているため、開発工数削減の点でもメリットが大きかった」と述べ、同製品の導入効果を高く評価した。
これら3社の導入事例を踏まえ、三戸氏はSystems of Interactionのあらゆる領域において、IBM Websphereブランド製品が先進的なソリューションを提供していることを強調。特に事例紹介でも挙げられた「モバイル」「ビジネスプロセス」「アプリケーション基盤」の3分野について、あらためて具体的な製品の紹介を行った。
モバイル分野については、前述の「IBM Worklight」がクロスプラットフォームのモバイルアプリケーション開発実行プラットフォームを提供する。この他、モバイルデバイスと企業内データセンターの間を結ぶメッセージング基盤として、メッセージングゲートウェイ製品「IBM MessageSight」と、メッセージングプロトコル「MQ Telemetry Transport」を提供している。
ビジネスプロセス分野に関しては、前述のODMのほかにも、ビジネスプロセスの開発・実行プラットフォーム製品「IBM Business Process Manager」や、ESB(エンタープライズサービスバス)製品「IBM Integration Bus」を提供している。これにより、顧客志向の高度かつ柔軟なビジネスプロセスの開発・運用をサポートしているという。
また、アプリケーション基盤を提供するアプライアンス製品「IBM PureApplication System」については、その開発を担当した米IBM フェロー CTO ジェイソン・マギー氏が登壇し、その魅力をアピールした。
「企業のIT部門は現在、新規ITプロジェクトのスピードアップや、既存システムの運用負荷の軽減、クラウドへの対応といった大きな課題に直面している。こうした課題に対してIBM PureApplication Systemは、全てのシステムコンポーネントをあらかじめデプロイ・最適化した形で提供することによって、ITライフサイクルの全ての局面において手間とコストを大幅削減するとともに、複雑なアーキテクチャやタスクに関するIBMの知見をベストプラクティスとしてあらかじめ組み込むことで、ユーザーにまったく新たなITの価値を提供する」
前述のPureApplication Systemはいわゆる垂直統合システムであり、各種コンポーネントのセットアップ自体を自動化、フェイルオーバー構成やプロキシサーバ設定などの細かな部分も自動実行する。同社アプリケーションサーバの他、Apache TomcatのようなOSSプロダクトもコンポーネント化の対象だ。また、仮想マシンとハードウェアのマッピングなども自動最適化が行われ、運用状況を鑑みながら随時構成を自動で最適化していく仕組みになっている。これにより、新しいシステムの立ち上げや運用に掛かる工数を削減することが期待できる。「パターン」として事前に定義されたコンポーネントが用意されており、設定はこれらパターンを組み合わせていけばよい。詳細は過去の記事「IBMのシステム新製品『PureSystems』はどこまで革新的か」も参照してほしい。
午後の個別セッションでも登壇したマギー氏によると、間もなく「SAP Business Suite」のパターンも公開予定だという。
(文責:原田美穂,@IT)
IBMでは、この数年の買収成果を含め、拡充が進むWebSphere製品ポートフォリオのラインアップおよびRational製品群と、アプリケーション実行基盤の革新によって、ビジネスアプリケーションの開発・運用、アプリケーションモデルそのものの変革期――「第3の波」への準備体制を整えつつあるようだ。
「Systems of Interaction」は、企業システムとしての実績に支えられた、スピードと安定性、コスト優位性を持つ道具が受け持つことになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.