次期Server OSであるWindows Server 2012 R2のリリースが間近に迫ってきた。今回はWindows Server 2012 R2の機能概要についてまとめておく。
「Windows Server 2012 R2パワーは、2013年10月から出荷が予定されているWindows Server 2012 R2の注目機能について解説するコーナーです。
※本記事はPreview版をベースにした以前の記事をベースにリライトしたものです。
Windows Server 2012のバージョンアップ版であるWindows Server 2012 R2の開発が完了し、製品の提供開始が2013年10月18日に決まった。これに伴い、本フォーラムでも新たにWindows Server 2012 R2の解説連載を開始する(Windows Server 2012をベースにした以前の記事については連載「Windows Server 2012クラウドジェネレーション」参照)。今回は販売開始が近づいた、Windows Server 2012 R2のリリース時期や価格情報などのほか、機能の概要をまとめておく。
クライアントOSであるWindows 8.1は2013年10月18日に販売開始されるが(連載「Windows 8クロスロード」参照)、Windows Server 2012の新バージョンであるWindows Server 2012 R2もRTM版が完成し、リリース間近になった。ボリューム・ライセンスなどのユーザー向けのリリースが2013年10月18日、一般向けのパッケージ販売が2013年11月1日からとなっている。Windows Server 2012 R2と同時に、System Center 2012 R2やWindows Intune新版のリリースも同時に行われる予定である。
Windows Server 2012 R2は現在TechNetサブスクリプションやMSDNサブスクリプションなどのチャネルを通じてすでに提供が開始されているが(Windows Server 2012 R2のEssentialsやFoundationもすでに利用可能)、一般のユーザーが利用できるWindows Server 2012 R2の評価版は後日公開される予定となっている。
Windows Server 2012 R2のエディション構成はWindows Server 2012と同じで、汎用のServer OSとしてはDatacenterとStandardエディションが提供されている。この2つのエディションは、仮想化インスタンス権や価格が異なるだけで、機能的な差(追加できる「役割」や「機能」などの差)や、サポートされる最大物理メモリ・サイズや最大サポート・プロセッサ数などの違いはない。ライセンスや参考価格などの詳細については、以下の情報を参照していただきたい。
エディション | Datacenter | Standard | Essentials | Foundation |
---|---|---|---|---|
概要 | データセンターやプライベート・クラウドなど、特に大規模仮想化環境に対応したサーバOS | 非仮想化環境もしくは小規模仮想化環境向けサーバOS | 25ユーザーまでのスモール・ビジネス向けサーバOS。以前のWindows Small Business Server Essentialsの後継 | 15ユーザーまでのスモール・ビジネス向けサーバOS |
機能 | 全機能が利用可能 | 全機能が利用可能 | 機能制限あり | 機能制限あり |
仮想化インスタンス権 | 無制限の仮想化インスタンス権 | 2つまでの仮想化インスタンス権 | 仮想マシン上でWindows Server 2012 R2 Essentialsを1つだけ実行可能 | 仮想化のインスタンス権なし。物理マシンへのインストールのみ可能 |
ライセンス・モデル | プロセッサ+CAL*1 | プロセッサ+CAL | サーバ・ライセンス。CAL不要。最大25ユーザー/50デバイスまで | サーバ・ライセンス。CAL不要。最大15ユーザーまで |
サポート物理プロセッサ数(ソケット数) | 1ライセンス当たり2物理プロセッサまで | 1ライセンス当たり2物理プロセッサまで | 2物理プロセッサまで | 1物理プロセッサまで |
参考価格 | Windows Server 2012の参考価格(92万5000円)より28%アップ | 17万円 | 9万6200円 | OEM提供(サーバ・マシン同梱)のみ |
CAL価格 | 5CALで3万2600円(Windows Server 2012の場合の参考価格) | CAL不要 | CAL不要 | |
DatacenterとStandardエディションではプロセッサ・ライセンス方式が採用されており、いずれのエディションでも、1ライセンスあたり2物理プロセッサまで利用できる。3つ以上の物理プロセッサを持つシステムでは、2物理プロセッサにつき、1ライセンスずつ追加する必要がある。なお「物理プロセッサ数」とは簡単に言えばプロセッサ・ソケットの数であり、1つのプロセッサ中に含まれるコアの数やHyper-Threading機能の有無とは関係ない。例えば4コアのCPUでも8コアのCPUでも、どちらも1物理プロセッサと数える。
DatacenterとStandardエディションでは利用できる仮想化インスタンス権が異なっている。DatacenterエディションではHyper-V上で仮想マシンを何台実行してもよいが、Standardエディションでは1ライセンスあたり2台までに限られる。3台以上の仮想マシンを実行したい場合は、2台ごとにStandardエディションのライセンスを1つ追加する。
以上のようなライセンス体系のため、DatacenterとStandardエディションのどちらを導入するかは、どのくらいの仮想マシンを利用するか(仮想化インスタンスの数)によってのみ決めることになるだろう。両者の価格差は7倍程度と想定されるので、仮想化インスタンス数が14(2×7)を超えるようなら、Datacenterエディションにするとコストを抑えられるだろう。
Windows Server 2012 R2のDatacenterやStandardエディションにアクセスするためには、接続するデバイスごとに「CAL(Client Access License)」が必要だが、これはWindows Server 2012のCALと同じものでよい(Windows Server 2012 R2専用のCALはない)。つまりWindows Server 2012をWindows Server 2012 R2にアップグレードしても、CALはそのまま使える。
Windows Server 2012 R2 Essentialは以前のバージョンと比較すると、仮想化のインスタンス権について少し拡張が行われている。Windows Server 2012 Essentialsには仮想化のインスタンス権は付属していなかったが、Windows Server 2012 R2 EssentialではHyper-V役割をインストールして、その上でさらに1台だけWindows Server 2012 R2 Essentialを実行できる。この変更により、例えばHyper-Vのレプリカやライブ・マイグレーションなどを使った信頼性の高いシステムを構築しやすくなっている。以前はHyper-V上で動作させたければ、別途Hyper-V ServerやWindows Server 2012のHyper-V環境を用意する必要があったからだ。
Windows Server 2012 R2は現行のWindows Server 2012のバージョンアップとなる製品である(バージョン番号はWindows Server 2012の6.2から6.3になる)。機能的にはWindows Server 2012の各機能をリファインしたものだが、有用な機能が多く追加されている。全体的には仮想/クラウド対応の強化(Azure Pack)やネットワーク機能の強化(SDN)、パフォーマンス改善や生産性向上などを特徴とする。
新機能の詳細は以下のページが詳しい。
以下に主要な機能改善点・追加機能などをまとめておく。
機能カテゴリ | 内容 |
---|---|
Hyper-V | ・仮想マシンの世代1/世代2のサポート ・セッション・モードの拡張(USBやスマート・カードを含む各種ローカル・デバイスのサポート) ・共有VHDXファイルのサポート ・仮想マシン実行中の仮想ディスクの動的リサイズ ・仮想マシン実行中のエクスポート ・ストレージQoSのサポート ・SMB 3.0上でのRDMA(Remote Direct Access Memory)を使った高速ライブ・マイグレーションのサポート ・ライブ・マイグレーション圧縮による高速なマイグレーション ・仮想マシンの自動アクティベーション ・レガシー・デバイスの廃止によるパフォーマンス向上(世代2仮想マシン) ・UEFIやVMBUS経由のデバイス・サポート、など ・Linuxゲストの完全サポート(Linuxカーネルにビルトインされた動的メモリや統合サービス機能) ・(制限)Windows Server 2008 R2のHyper-Vの管理やインポートは不可 |
iSCSI関連 | ・iSCSI仮想ディスクとしてVHDX形式の仮想ディスク・ファイルを利用。パフォーマンスや信頼性が向上 ・最大64Tbytesまで利用可能 ・容量固定のほか、容量可変や差分ディスク・タイプも利用可能 ・セッション数や論理ユニット数の制限を拡大(同時に最大544セッションまで接続可) |
SMBプロトコル | ・スケールアウト・ファイル・サーバにおける自動的なクライアントとの負荷分散 ・小規模I/O負荷に対するパフォーマンスの改善 ・クラスタ化した仮想マシンにおけるVHDXファイルの共有(クラスタ共有ボリュームやSMBスケールアウト・ファイル・サーバでのVHDXの利用) ・SMB 3.0を使ったHyper-Vのライブ・マイグレーション ・SMBの使用帯域の制限 ・(機能制限)SMB 1.0は今後廃止に |
ワーク・フォルダ | ・HTTPSベースの新しいフォルダ同期サービス ・個人が所有するPCや端末やデバイスでもサーバ・リソースにアクセスしたり、同期を取ったりできる。いわゆるBYOD(Bring Your Own Devices)サポート |
社内ネットワークへの参加 | ・Windows 8.1を社内のデバイス管理サービスに登録することにより(ドメイン非参加でもよい)、接続を許可したり、拒否したりできる |
Windows展開サービス | ・PowerShellサポートの追加 |
Active Directory | ・AD FSにおけるアクセス制御要素の拡張 |
グループ・ポリシー | ・起動時間を短縮するグループ・ポリシーのクライアント・キャッシュ ・IPv6サポート(プリンターやVPN接続でIPv6アドレスを指定可能に) ・詳細なイベント・ログ(グループ・ポリシー処理時の詳細なログ機能により、障害時の解析作業などが容易になる)、ほか |
DFS名前空間とDFS複製 | ・PowerShellサポートの追加 ・破損データベースの修復 ・ステージング・ファイル・サイズの調整 |
記憶域 | ・記憶域階層のサポート(よく利用するホット・データは高速な半導体ディスクへ、そうでないコールド・データはハードディスクへ、といったファイルの自動分類保存機能) ・デュアル・パリティ方式の仮想ディスク ・SSDを使ったライトバック・キャッシュ |
DHCP | ・クライアントのFQDNなどに基づいたDNS登録のためのDHCPポリシーのサポート ・DNSのPTR登録の許可/拒否オプションのサポート ・PowerShellサポートの追加 |
DNS | ・ゾーン・レベル統計値のサポート ・DNSSECサポートの強化 ・PowerShellサポートの強化 |
フェイルオーバー・クラスタ | ・共有VHDXファイルのサポート ・シャットダウン時の自動マイグレーション ・ネットワーク切断時の自動マイグレーション ・動的Witness(動的なクォーラム監視) ・クラスタ管理を容易にするクラスタ・ダッシュボード |
IPAM | ・役割ベースのアクセス制御 ・仮想アドレス空間の管理 ・外部データベースのサポート |
リモート・デスクトップ | ・セッション・シャドウイング ・VDI用のVHDファイルの重複除去(VDI用の仮想ディスク・ファイルをクラスタ共有ボリュームに保存すると、自動的にデータ重複除去機能が働く) ・クイック再接続(セッション切断からの素早い復帰) ・DirectX 11.1サポート |
IIS 8.5 | ・動的Webサイト・アクティベーション(アクセスのあったWebサイトを必要なときに動的にアクティベーションすることにより、多数のサイトをホストするWebサイト構成でも、必要なリソースを大幅に抑制し、起動時間を短縮できる) ・カスタマイズ可能なIISのログ・フィールド・オプション ・アイドル・ワーカー・プロセスのスワップ・アウト(不要になったワーカー・プロセスを終了させ、その後必要に応じて再起動するよりも高速になる) |
Windows PowerShell 4.0 | ・バージョンは4.0に ・Save-Helpによるヘルプのダウンロード ・DSC(Desired State Configuration)によるサーバ設定の自動化(サーバの構成を素早く目的の状態に設定する機能。DevOPSサポート) |
Windows Server 2012 R2 Essentials | ・ドメインのメンバ・サーバとしての導入のサポート ・OEM構成に基づく実機もしくは仮想マシンへの導入のサポート ・サーバの役割の1つとしても導入可能 ・ユーザー・グループのサポート ・クライアントごとではなく、ユーザーごとのファイル履歴のバックアップ管理 ・Offcie 365統合 |
Windows Server 2012 R2で追加/強化された機能(抜粋) |
Windows Server 2012 R2における変更点を簡単に調べるために、サーバ・マネージャの「役割と機能の追加」ウィザードの画面を次に示しておく。まずは役割の追加画面である(Windows Server 2012の役割や機能については以前の連載記事 参照)。
追加された役割としては、次のものがある。
■Windows Server 2012 R2 Essentialsエクスペリエンス
Windows Server 2012 R2 Essentials相当にする役割である。詳細は後述する。
■ワーク・フォルダ
[ファイル・サービスと記憶域サービス]の下に、[ワーク フォルダー]という役割が追加されている。これは、主にクライアントOSであるWindows 8.1と組み合わせて利用する機能である。ワーク・フォルダを使うと、Windows Server 2012 R2のファイル・サーバ上に置いたファイルを社内から利用するだけでなく、インターネットを介して社外や自宅からでも利用できるようになる。いわゆる「BYOD」を実現するためのものである。SkyDriveのようなインターネット・ストレージ・サービスが持つ機能を提供するものだが、パブリックなサーバではなく自社のサーバを使って実現するので、セキュリティやコスト、ストレージ容量なども自由に設定/管理できる。単にファイル・サーバをインターネット向けに公開するのではなく、ローカルのPC上のコピーと自動的に同期させたり、セキュリティを確保する機能などが含まれる。
次は機能の一覧を見てみよう。
Windows Server 2012のウィザード画面と比較すると、以下のものが追加されている。
■DirectPlay
主にDirectXを使用したゲームで使われる通信機能。デフォルトでは無効だが、互換性のために用意されている
■SMB 1.0/CIFSファイル共有のサポート
Windows XPやWindows Server 2003以前のWindows OSで利用されていたCIFプロトコルの最も基本的なバージョン。現在ではより高度な機能をサポートしたSMB 2.xやSMB 3.0が利用できるため、不要ならオフにできるようになった。
■SMB Bandwidth Limit
SMBで使用するネットワーク帯域を制限する機能。ネットワーク負荷を制限して、多数のシステムで協調して動作できるようにするためのオプション機能。
廃止された機能としては次のものがある。いずれもWindows Server 2012の時点で[非推奨]とされていた機能だ(Windows Server 2012連載の「新しいサーバ・マネージャの使い勝手を計る」参照)。
■UNIXベース・アプリケーション用サブシステム
UNIX互換環境を実現するための機能。TIPS「UNIX互換環境を実現するSUAを利用する」参照。今後は必要なら、Hyper-V上で実際にUNIXやLinuxなどを稼働させることが推奨されている。
■Windowsシステム・リソース・マネージャ
特定のプロセスやユーザーが利用できるリソース(CPUやメモリ)を制限する機能だが、仮想化が一般化し、ホストOSのCPUリソースを管理することの意義がなくなってきたため廃止された。必要ならHyper-Vやネットワーク、SMBサービスなどに組み込まれているリソース管理機能を利用する。
Windows Server 2012にはEssentialsというエディションがあり、主にSOHOやスモール・ビジネス向けに提供されていた。Essentialsはオールインワンのサーバ環境構築用エディションであり、これ1台でActive Directoryを組んでファイル・サーバなどとして利用できるほか、ほかのServer OSエディションにはない、クライアントのバックアップ機能や簡易な統合管理ツール(ダッシュボード)を持つなどの特徴があった。ただし最大25ユーザーまでしかサポートされないという制限がある。あくまでも小規模な組織向けのエディションだ。
Windows Server 2012 R2でも引き続きEssentialsエディションは提供されるが、これとは別に、通常のWindows Server 2012 R2のエディションでも利用できる、追加の「役割」の1つとしても提供されることになった。Windows Server 2012 R2のDatacenterやStandardエディションには最大25ユーザーという制限はなく、それでいてEssentialsの持つ機能やダッシュボード管理ツールなどをそのまま使えるというメリットがある。
今回はリリース間近のWindows Server 2012 R2の新機能をまとめてみた。次回からはそれぞれの新機能を詳しく見ていく。
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