Web制作の現場は過酷、だけど、田舎に戻っても仕事があるかどうか……。そんなことを考えているうちに、また納期が迫り、今日も仕様の手のひら返しで残業? 「フラット化」した世界のノマドワークなら、そんなことを考える必要はないのかもしれない。
2013年10月5日Splasssh in Miyakojimaと題するイベントが開催された。CSS Nightの一環である。場所は沖縄県宮古島だ。宮古島といえば、トライアスロンのサポートを、地元のITエンジニアが手作りかつ最新技術を駆使してサポートしたことで話題になった。@ITでもその時の模様を紹介している。
宮古島が属する沖縄県は、地理的特性や歴史的な背景もあり、北海道と並んで他の都府県とは別に国家予算が配分される地域だ。現に、沖縄本島は、データセンターやコールセンターの誘致が盛んであり、IT産業の一大集積地になりつつある。もちろん、誘致のための税制上の支援策もある。参加企業は一定の条件が整えば税制上の優遇が得られる。
その沖縄県の離島である宮古島は、人口約5万人、島の外周は自動車を使って1時間ほどで回れる小さな島だ。那覇市からは飛行機で45分程度。本島から同程度の距離にある石垣島よりも、ややのんびりとした印象がある。
ここに、島内の(Iターン、Uターンを含む)IT系技術者や地元商工会議所青年部のメンバーが一堂に介した。宮古島トライアスロン支援プロジェクトのコアメンバーもいる。一方、同じ場には、名古屋でWeb制作会社を営む面々も顔をそろえた。
このイベントを企画したのはRe:charge代表 志水哲也氏。志水氏は、リチャージの活動を続ける傍ら、名古屋市内でWebの制作会社「タービン・インタラクティブ」を経営している。大型案件も多数受注する地元では大手の制作会社だ。志水氏は、広告代理店で実績を積んだ後に同社を起業、夫人と二人三脚で経営してきたという。事業は順調に拡大し、多数の案件を抱えるようになった同社では現在、従業員も30人ほど雇用している。
「名古屋の企業がどうして宮古島に?」と思う向きもあるだろうが、ことの始まりには深刻な問題があった。それは、Web制作の多くの現場が抱える問題だ。
志水氏は、このプロジェクト発足の経緯を語る。
事業運営に精力的に取り組み事業が順調に拡大してきたときのことだったという。突然、現場を支えてきてくれたスタッフが辞職の意思を伝えてきたのだ。辞職理由は、業務への「疲れ」だという。その後も、何人かのスタッフが、同様に退職していった。社長として「スタッフへの目配りが足りなかったことを痛感した」という志水氏は、以来、オフィスにはリラックスできるスペースを置き、スタッフの誕生日を皆で祝い、働き甲斐や働きやすさを考えた企業運営にかじを切ったのだという。
その志水氏が宮古島を訪れたのは数年前。航空会社スカイマークエアラインが、名古屋―沖縄便、沖縄―宮古便を低価格で提供するようになったころだという(那覇―宮古間の定期便は2011年9月に就航している)。名古屋からここまでは、沖縄を経由して2時間半程度。東京を訪れるのと時間的には大差がない。
スタッフの労働環境を考えてきた志水氏は、ここで「この海岸を見ながら仕事をして、地元の人たちとのコミュニケーションの輪の中で仕事をしたら、もっと心の余裕が出るんじゃないか」と思い至る。
名古屋のオフィスは市街地中心部にあり、地方都市といえども通勤はそれなりの負荷が掛かる。Web制作の現場は、納期もある、クライアントの要望が難解な場合もある。場合によっては全てのしわ寄せを現場が吸収しなければ完成しないプロジェクトもある。ことによっては連日、徹夜をしても納期には仕上げなければならない。これは、ソフトウェア開発の現場でも同じ状況だろう。
一方、現場業務の多くはPCと通信環境があれば、実はどこでもできる。オンラインで発注し、オンラインで納品する「クラウドソーシング」などの状況が一般的になりつつある現在、製作現場の人間はどこででも業務はできる。そこでノマドワークや自宅勤務といった労働形態が許容され始めているが、志水氏はそれを一歩進めるアイデアを思いつく。
現場スタッフがオンラインで業務を完結できるならば、オフィスや自宅よりも、もっと心地のよい場所で働ける環境を用意できないか? そう考えて立ち上げたプロジェクトがRe:chargeだという。
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