世界がフラットなら、楽園から世界を変えられるんじゃないか? 「Re:charge」プロジェクトの挑戦イベントレポート(2/4 ページ)

» 2013年12月24日 19時40分 公開
[原田美穂,@IT]

Re:chargeプロジェクトとは

 宮古島には、実はそうしたアイデアを個人で実現して生活しているIターン、UターンのIT人材が少なからず存在する。彼らが業務を追行するのに障害がない程度に通信環境も整備されている。ただ、組織的なものではない。

 それでも少なからず、こうした宮古島の若いIT人材による共同プロジェクトが面白い形を作り出している。過去の記事「『宮古島トライアスロン大会』配送最適化 実証実験レポート:iPhone+GPS+HTML5が支えたトライアスロン大会」を思い出してほしい。ここで活躍したインタラクティブリサーチ 福永勇二氏も、実はIターン技術者だ。

 福永氏は言う。「もともとは東京で開発の仕事をしていました。そこで経験や人脈を広げたこともありますが、そうした方々から受注した仕事を受け持っています。IT系の技術動向の動きは早いですが、その多くはオンラインで収集できる。業界の人たちはオンラインでのコミュニケーションスキルも高い。だから、宮古島に活動拠点を移して不便だと感じたことはありません」

 例えば、現物や機密情報の図面を手渡しで……、などという業務をするには遠隔地は非常に不利な条件だ。それゆえに、「物流の動脈」からはずれた地方では、大きな産業が育ちにくい構図が、久しく続いていた。地理的制約が、実ビジネスに与える影響が大きいのだ。

 だが、通信回線とPC、電源があれば作業ができるWeb制作やシステム開発案件の場合は、そもそもノマドワークがしやすい。現にフリーランスで活躍する技術者・デザイナーもいるだろう。

 それであれば、体系的に業務を受けられる状況を作り、安定した仕事と豊かな時間を提供できる場を用意すればよい、というのが志水氏の考えだ。

 Re:chargeプロジェクトでは、宮古島の使われていない公共施設を借りてコ

ワーキングスペースを作ろうと活動を続けている。

 「この海岸で青い海を眺めながらコードを書いたら、絶対にはかどるでしょう? いいアイデアも出てくるはず。市街地で通勤地獄と戦いながら徹夜や残業、コンビニ弁当で疲弊するより、この海辺でコードを書いて、地元のおばあちゃんの作った夕飯を食べて過ごせたら、ずっと生産的なはずなんです」(志水氏)

「この海辺でコードを書いて」の実践例。志水氏のビジネス上のパートナーでもあるタービン・インタラクティブ クリエイティブディレクター 坂根正樹氏が即席で見せてくれた

賛同する地元商工会議所

 こうした地域の取り組みでは、地元側の協力がなければ進まない。地元の商工会議所には幸い、先に言及したIターン、UターンのIT技術者が複数在籍している。彼ら自身は若手であり、ともすると部外者の意見はなかなか出しにくいかもしれない。そうした中、ITに精通しており、かつ地元商工会議所の中で精力的に活動している根路銘康文氏が仲介役を買って出た。根路銘氏は地元で不動産メンテナンスなどの事業を営む人物だが、実は古くから「UNIXユーザ会」のメンバーで、IT技術系の業界での活動暦は長いという。自身でジョークRFCを作成するほどの事情通だ。

 根路銘氏がRe:chargeの活動に賛同したことで、志水氏のコワーキングスペース構想は大きく前進する。根路銘氏は、設立準備のために足しげく寄り合いに参加する志水氏と地元商工会議所メンバーや行政とのハブとして貢献する関係にあるようだ。

 地元商工会議所青年部には、代替わりした若い経営者が多数集まる。どの地域も同様だが、島外で一定の経験を積んだ上で地元に戻り、経営を継いだ若い経営者は野心的だ。観光産業を中心として発展してきたこの島で何ができるのか、月次で寄り合いに集まっては、議論をする。IT産業に関わる人材も少なくないが、それだけではない。自動車関連、観光関連、建築関連など、さまざまな業界の人材が集まる。

 ある若い経営者はこう言った。

 「宮古は車で一時間ほどで一周できる島。観光客も多く、レンタカーの需要も多い。また、海は透明度が高いことも観光資源の1つだ。観光資源を重視した街づくりにEVのようなエコカーの導入は必須だと考えている。そのため自動車会社などと、そうしたプランニングについて折衝しに行くこともある」

 現に、宮古島には給電ステーションが整備されている。彼は東京のある企業に勤めたことがあり、国際的な商談などの現場も経験したことがある。大企業との折衝の経験があるからこそというわけだ。

担当が宿泊した宿の玄関にも給電設備が整備されていた

 こうした、勢いのある若手と例えば市役所の担当者、市政を検討する議員などとを橋渡しし、プランを形にするための地道な取り組みに、ハブとしての根路銘氏は貢献している。この交流が、次の世代を育てる、と根路銘氏はいう。

 根路銘氏は、若手メンバーや名古屋など「内地」のRe:chargeプロジェクト賛同者らの「寄り合い」でも活躍する。イベント当日の夜は現地の宴会作法である「オトーリ」の音頭を取り、参加者の交流を深めた。「オトーリ」は、参加者全員が各席をまわり酌をすることで全員が必ず会話できる仕組みだ。過去の経験や業種、拠点を超えたアイデア交換が宮古島のとある居酒屋の座敷一間で繰り広げられた。

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