担当者がエラくなくても、後ろ盾にエラい人がいればいいでしょ?
なるほどねえ。
こうしたことを全ての未決事項について決めて、スケジュールや解決担当者のスキル、調査・検討に必要な環境なんかも併せて妥当性を確認したら、関係者の合意を得て要件定義工程は完了。
でもさ。じゃあ、何でみんなそうしないの?
以前、IT紛争の調停を一緒にやったエンジニアとその手の話をしたことあるんだけれど、彼が言うには、ベンダーの技術者が不勉強で無責任だって。「要件はお客さんの責任」って風潮が最近は強過ぎるんじゃないかって。
手厳しいねえ。
その人、昔、証券会社の業務系システムを担当していて、最初の開発が終わった後10年間、お客さん先に常駐してたんだって。
ひえー。もう、その会社の社員みたいなもんだね。
そう。社員以上にシステムも業務も知っているし、納期遅延や品質不全が経営にどれほど影響するかも知ってる。
な、何か、システムの主って感じだね。
そうよ。逆に、ユーザーが要件を決めないでグズグズしてると、怒鳴りつけたって話よ。
えー! お客さんをー?
「自分たちのシステム」に対する責任感ね。そういう人は、自らキーマンのところに行って、要件を決めたりもするらしいわ。
お客さんと仲悪くなったりしないの?
ケンカはしても、仲が悪くなる例は少ないわね。そういうベンダーがユーザーと裁判沙汰になった話は聞いたことがないわ。
へー。なんか、アグレッシブ。格好いいね。
「どうしたらいいですか?」「いつまでに決めてくれるんですか?」何て言ってる“アナタ任せ技術者”には考えられないことよね。何か気概を感じるわ。
いいなあ。うちにも、そういう人が来てくれないかなあ。
そうなったら、章介なんか毎日ボコボコでしょうね。
や、やめてよぉ。そんなのヤダ。
今は、システムの開発や運用を海外に任せたり、クラウドを使って自前でシステムを持たないユーザーも増えているから、そういう技術者も随分減ったんじゃないかしら。責任感のある技術者が減ってるみたいで残念だって、その人話してたわ。
お客さんを怒鳴るベンダーかあ。やっぱり本気だからそうなるんだねえ。あっ、塔子もよくウチのパパを怒鳴ってるよね。「それくらい自分で決めてください」とか。
それはお父さまが、秘書の誕生日プレゼントとかネクタイの色とか、くだらないことを聞いてくるからでしょ。
それって、塔子にうちのことを真剣に考えてもらいたいからじゃないかなあ。将来、成兼家のお嫁さんにって考えているんだよ、パパも。
何でそうなるのよ! お父さまって、年齢アタシの倍以上じゃない!
え? そ、そっち……?
「パパじゃなくて、僕のお嫁さんになってほしいんだけどなあ」(章介)。次回は2月7日掲載です。
細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)
約7割が失敗すると言われるコンピューターシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。
細川義洋
東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員
NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダー及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
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