まず日々のシチュエーションを変えることだ。そこから感動が生まれ、価値観の創造につながるだろう――新型うつ解説連載記事、最終回は筆者、見波さんから読者への熱いメッセージをお届けする。
新型うつへの対応として、これまで、新型うつに関する職場での問題性、病態の理解、効果的な対応、企業での取り組みなどに触れてきましたが、筆者がカウンセリングや職場復帰支援を通じて、特に重要と思えるものが「仕事の価値観の創造」です。
極論を言えば、新型うつから快復し、順調に職場復帰が進んでいる人の多くは、仕事の価値観を創造できている人であり、順調にいかないケースは仕事の価値観の創造まで行き着いていないことがほとんどです。
仕事の価値観の創造ができると、「アドヒアランス」(積極的に治療に参加すること)を高めて疾病と決別しやすくなり、「レジリエンス」(精神的回復力)を高めるので、人生を肯定的に捉え長期的視点が生まれ、「ワークエンゲイジメント」(仕事への積極的な関与)状態で働けるようになります。
この3つのステップを進めるための土台として、仕事の価値観を創造することが大切です。具体的に見ていきましょう。
仕事の価値観の創造とは、その人がその会社にいる意味、その仕事をする意味、その職場で働くことの意味、人生の中での仕事をする意味を作り上げることです。
その意味は、人それぞれ違います。10人いれば10人の価値観、100人いれば100人の価値観があります。しかし、価値観を創造できていない人もいます。価値観が明確になっておらずおぼろげな人もいます。また、意識に上がっている人、無意識な人もいます。価値観は、さまざまな経験や体験によって変わることもあります。
若年層の仕事に関する価値観として、経済的な価値観、仕事上の価値観、他者との関係性の価値観の一例を見てみましょう。
さまざまな価値観は、その人にとって大切な意味となり、どのような価値観であれ、その人にとって大切であればあるほど、大きければ大きいほど働く土台となります。
ただ単に、「入社試験にたまたま受かったからその会社にいる」「上司が仕事を指示するからやる」ような状態では目の前のやっている仕事だけが全てになってしまい、目の前のストレスしか見えない状態になります。
仕事や職場でうまく適応できている若年層の多くは、将来に対する視点があります。「今は、この知識や技術を覚える時期」「数年後にはこのような役割を担いたい」「10年後にはこんなミッションを果たしたい」と、明確な意識ではなくておぼろげでも何かしらの期待や抱負を持っていることが多いのです。
しかし新型うつ傾向の人は、今起こっている事柄しか見えていないことが多く、将来に対しての期待やビジョンなどがない場合がほとんどといっても過言ではないと思います。だからこそ、目の前のストレスが大きく感じられ、周囲には些細(ささい)に思えることも、本人には耐えられない出来事となってしまいます。
仕事に対する意味を感じ、将来的な視野がある人は、目先の出来事に一喜一憂することはありません。もちろんストレスは感じますが、見ているのは常に先の「自分はこうなりたい」という将来の姿なので、目先の不平や不満は取るに足らないものとなることが多いのです。
新型うつになりやすい人は、過去と今しか見えておらず、適応できている人は、今と未来を見ている人といえるでしょう。
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