仕事の価値観はただ考えれば創造できるものではありません。さまざまな体験や大きな感動から生まれることが多いのです。
筆者は、若年層が不調になった際には必ず、休日の過ごし方や現在没頭していること、情熱を抱いているものなどを聞きます。その返答の多くはおよそ次のようなものです。
彼らの多くは、不調になったからそのような状態になっているのではなく、不調になる前からこのような状態であることが多いです。
このような状態では、大きな感動を伴う出来事に出会う機会は少ないでしょう。感動は偶然に起こるものではありません。大きな感動が得られるようなシチュエーションに身を置くことで、必然的に起こり得るものだと思います。
本気になって物事に打ち込む、スポーツに没頭する、長年努力をしなければ成し遂げられないことをする、芸術に触れる、映画を見る、本を読む、大自然に身をゆだねる、人と本音の付き合いをする、家族の暖かさを感じる、何か勉強を始める、新しい世界に飛び込む……。
もちろん仕事を通して感動を得られることも多々あります。没頭するような働き方を一度でもしてみることも大事です。そのような体験の中で、叫びたくなるような一瞬が来ることが多いのです。
仕事を通してこの「大切なものを得られる」からこそ、その人にとって仕事は重要な意味を持ち、人生との連動が図れるのです。
「あなたは何を大切に生きていますか?」
これは若年層に対してだけの問い掛けではありません。また、仕事だけではなく、人生への問いかけでもあります。筆者が行うカウンセリングや研修は、ここに焦点を当てることを重要視しています。
「自分は何のために生きるのか」
一度じっくり、考える日があってもよいのではないでしょうか。
今まで見てきました通り、新型うつの人に対して、「これだけをやればよい」という絶対的な正解はありません。また、小手先の方法論で解決できる問題でもありません。なぜなら、解決にはその人の内面に関わることが必須だからです。今までの歩み、考えや思い、信念や信条、価値観など、人生そのものに関わることが必要です。
本人による気付きも大切です。上司や同僚、家族や友人との関係性の中から気付くこともありますし、産業医や保健師、主治医、カウンセラーなどの専門家によって気付くこともあります。
しかし、気付きさえ得られれば、人は必ず行動を変えられます。ここでいう「気付き」とは、「成長に関わる事柄に、感動を伴って、または心が揺さぶられて、新たに自分を発見すること」です。
人は誰でも、いつでも、気付けるチャンスがあることを信じてください。5回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
エディフィストラーニング マネジメント/ビジネススキル トレーニング担当講師。
外資系コンピュータメーカーなどを経て、1998年に野村総合研究所入社。メンタルヘルス研修の他、カウンセリングや職場復帰支援、カウンセラー養成の実技指導、海外でのメンタルヘルス活動など、多岐にわたる活動を行っている。
日本産業ストレス学会正会員、日本産業カウンセリング学会正会員、日本産業カウンセラー協会正会員(シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)他。
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