同カンファレンスでは、展示会場も見どころだった。これまでは通信事業者の基盤技術として採用されてきたOpenStackも、ここ数年でエンタープライズでも利用可能なソリューションに落とし込まれ、手の届く存在となりつつある。いくつかのブースを紹介しながら、OpenStackの今を見ていこう。
OpenStack専門のシステムインテグレーターとして豊富な導入実績を誇る米Mirantisは展示会の当日、日本法人の「ミランティス・ジャパン合同会社」の設立を発表した。同時に、伊藤忠テクノソリューションズとの戦略的パートナーシップ締結を発表し、再販や製品・サービストレーニングなどで日本市場の本格的な開拓に一歩踏み出した。
同社では今後、オンデマンドでOpenStackを導入可能な「Mirantis OpenStack Express」、各種導入支援、トレーニングサービスなども提供する予定という。
「ここ数週間さまざまな顧客と話してきたが、OpenStackを今すぐ導入したいというよりも、やらないといけないという使命感を持って前進を始めている企業が多い」。そう述べるブース担当者は、今年前半から後半にかけて、さらにニーズは伸びると予想する。
レッドハットは、IaaS構築ソフトウエア「Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platform」の他、OpenStackへの移行を支援する「RedHat Enterprise Virtualization」やハイブリッドクラウドの運用管理を実現する「Red Hat CloudForms」などを展示していた。Linuxディストリビューターとしての知見と、幅広いベンダーパートナーとの豊富な協業実績をフルに生かし、オープンな環境構築を支援する。
同社の強みの一つに、OpenStackプロジェクトへの貢献も挙げられる。同社では、グローバルで100名単位のエンジニアがOpenStackコミュニティに参加しており、NovaやNeutronのコード開発などを行っている。開発結果は同社製品にフィードバックされる。「コミュニティとパートナー、そしてエンドユーザーの懸け橋となり、今後もオープンソース推進に貢献したい」(ブース担当者)
日本HPは、クラウドの統一ブランドである「HP Helion」を中心に展示をしていた。HP Helionは、OpenStackディストリビューション、PaaS(Cloud Foundry)、IaaS(OpenStack)、パブリック/マネージドクラウド、ストレージなど、ハードウエアからソフトウエアまで幅広いポートフォリオをそろえる。さらに、「OpenStackのとがったエキスパートが集結するプロフェッショナルサービス」(ブース担当者)が利用できるのも、同社の強みだ。
「OpenStackは、いろんな可能性がある。OpenStackという抽象化のレイヤーを1枚入れることで、例えばパブリッククラウドとプライベートクラウドを使い分けるようなハイブリッド型も容易に実現できる。もちろん、大規模導入だけではなく、HP Helionは小さな環境で部分導入し、必要に応じて拡張することも可能だ」(ブース担当者)
データセンターやマネジメントサービス、クラウドサービスなどを提供するKVHは、2014年11月28日に「KVH IaaS」サービスの追加を終了し、自社開発のクラウドOS「Turbine」からOpenStackへ移行を進めるなど、積極的にOpenStackに取り組んでいる。またKVHでは、前述のミランティスのOpenStackにも対応しているという。
2014年7月に提供開始したクラウドサービス「プライベートクラウド Type-S」では、OpenStackとネットワーク仮想化ソフトウエア「MidoNet」を採用。セルフサービスでインフラやネットワークを利用できる他、1つのコントローラーからAPI経由で、SDNを含む仮想環境を管理することが可能だ。
「KVHは、証券取引所向けの超低遅延ネットワークを提供しており、そのミッションクリティカル性をOpenStackでどう実現できるか、目下検討中だ」(ブース担当者)
2014年6月に日本進出し、2014年12月に日立ソリューションズと販売代理店契約したばかりのvArmour Networksは、ソフトウエアベースのデータセンターセキュリティ製品「vArmour」を提供する。vArmourは、データセンター内の各ポイントに設置されたインスタンスを1つの論理的なファイアウオールインスタンスとして統合、管理・制御できる製品だ。
「仮想サーバーごとに導入するタイプの仮想ファイアウオール製品は、VM単位のトラフィックまで見ることはできず、East-Westでのウイルス拡散を防止するのが難しい。vArmourであれば、VM間通信を見ながらポリシーに沿った制御ができ、データセンター全体のセキュリティを向上させることが可能だ」(ブース担当者)
Neutronのプラグインを利用して、L3フォワーディング処理をvArmourが担当するよう書き換えるだけで実現。導入の容易さも魅力の一つだ。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、「RACK」(Real Application Centric Kernel)を展示していた。
RACKは、アプリケーションの処理に必要なリソースを自動で判断してプロビジョニングする、クラウドネイティブなアプリケーションだ。親プロセスはアプリケーションに必要なリソースを自動計算し、処理に必要な子を自動生成・消滅させながら自律的に動く。
「現在多くのアプリケーションはAPI経由でプロビジョニングなどを実行しているが、リソースを確保するまでにNovaやNeutronなどを介する必要がある。RACKを間に挟むことで、こうした煩雑さがなくなる。経済産業省の平成25年度産業技術実用化開発事業費補助金(ソフトウエア制御型クラウドシステム技術開発プロジェクト)を得て開発した」(ブース担当者)
この他、Open Compute Project仕様のサーバーにOpenStackベースの運用ツールを同梱した「Open Cloud Package」も展示。ネットワーク制御はCumulus NetworksのネットワークOS「Cumulus Linux」を採用。同OSを日本で直販できるのは、CTCのみとなる。
システムインテグレーターのTISは、クラウドオーケストレーターの「CloudConductor」を展示していた。同製品は、インフラ/運用設計をパターン化し、パターンの組み合わせから最適なテンプレートを生成、自動でインフラ・運用を構築する。現在はAWSとOpenStackに対応しており、将来的にはマルチクラウド対応を目指すという。
展示では、宮城県登米市での災害時情報共有システムの実証実験を紹介していた。実験では、OpenStack上にあるシステムをCloudConductorで監視し、定期的にバックアップするというシステムを全自動で構築できるか検証。
「障害停止時に同じシステムの再作成、データのリストア、DNSの書き換えなどを自動実行。7分弱のダウンタイムで切り替えることに成功した。次年度は複雑なシステムをどうパターンで吸収するか、バックアップリストアだけではなくリアルタイム性の高いシステムでも実現できるかなどの研究を進める予定だ」(ブース担当者)
コリアー氏が基調講演で述べたように、約5年でコミュニティとともに大きな拡大を遂げたOpenStackは、多くの企業とエコシステムを築いている。展示では、ディストリービューションはもちろん、システムインテグレーションやマネジメントサービス、セキュリティサービス、運用ツール、オーケストレーター、自律型アプリケーションまで、企業の取り組みが多岐にわたって紹介されていた。
基調講演で「非常に難しい」とされた課題「大規模な拡張性」は、どのように解決されていくのか、コミュニティだけではなく多くの企業との連携とともに注目していきたい。
スピーディなビジネス展開が収益向上の鍵となっている今、ITシステム整備にも一層のスピードと柔軟性が求められている。こうした中、オープンソースで自社内にクラウド環境を構築できるOpenStackが注目を集めている。「迅速・柔軟なリソース調達・廃棄」「アプリケーションのポータビリティ」「ベンダー・既存資産にとらわれないオープン性」といった「ビジネスにリニアに連動するシステム整備」を実現し得る技術であるためだ。 ただユーザー企業が増えつつある一方で、さまざまな疑問も噴出している。本特集では日本OpenStackユーザ会の協力も得て、コンセプトから機能セット、使い方、最新情報まで、その全貌を明らかにし、今必要なITインフラの在り方を占う。
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