OpenStack活用のキモとなる視点とは〜「OpenStack Days Tokyo 2015」に見るユーザー層の関心事項〜OpenStack最前線〜ユーザ会メンバーが持ち回りで語る「OpenStackのリアル」〜(6)

特集記事と同時に、日本OpenStackユーザ会メンバーが超ホットでディープな最新情報をコラムスタイルで紹介していく@IT特集「OpenStack超入門」。コラム第6回は、ユーザ会会長の中島倫明氏が「OpenStack Days Tokyo 2015」で実施した「クラウドインテグレーション体験ラウンジ」を振り返る。

» 2015年04月03日 05時00分 公開
[中島倫明,日本OpenStackユーザ会]

クラウドを「使う」技術の重要性

 2015年2月上旬に開催された「OpenStack Days Tokyo 2015」では、2日間でのべ3000名の来場者を迎えることができ、近年のOpenStackへの関心の高さをうかがうことができました。

参考リンク

 このイベントの中で「クラウドインテグレーション体験ラウンジ」(以下ラウンジ)という企画を日本OpenStackユーザ会(以下、ユーザ会)で主催しました。これまでのユーザ会の活動は「OpenStack環境を構築する」視点での情報発信を中心に行ってきましたが、このラウンジでは、「OpenStack上にシステムを構築する」ための、いわゆる「クラウドを使う技術」をテーマとしました。今回のコラムではこのラウンジのレポートと、そこから得られたフィードバックを皆さまと共有したいと思います。

ラウンジで取り上げたテーマと傾向

 今回は「クラウドインテグレーション体験ラウンジ」自体が初めての企画ということもあり、以下のように4つのテーマで計15個のシナリオを用意しました。

ALT 「クラウドインテグレーション体験ラウンジ」で実施したシナリオ

 シナリオの作成には、ユーザ会のコアメンバーに協力を依頼しました。短い期間で多くのシナリオを準備する必要があり大変でしたが、OpenStackを知り尽くしたメンバーだけあって、短期間で高水準のコンテンツを作り上げてくれました。これらの教科書はこちらでご確認いただけます

 用意したコンテンツのうち、どのシナリオに興味が集まったかを図1にまとめます。これは当日行ったアンケート結果から抜粋しています。

ALT 図1 「どのシナリオに受講者の興味が集まったか」

 図1を見てみると、多くの方が「基礎編」を選択し、次いで「自動化」となっており、少し予想外でした。実際に開催する前は、「自動化」と「システムデザイン」に人気が集まると思っていたためです。続いて参加者の傾向を見てみると、図2のようになります。ラウンジには「構築する」立場の参加者が多かったようです。

ALT 図2 「参加者のOpenStackとの関わり」

 この2つの結果から考察すると、構築する立場の人もOpenStackをどのように使って良いのかまだよく分かっていない、ということを示しているとも考えられます。

OpenStackを活用するために必要な視点

 OpenStackにとって、基盤部分をしっかり構築して、安定的に運用することは重要ですが、もっと重要なポイントとして、「OpenStack基盤上にいかにシステムを構築していくか?」という点があります。特集第3回、『OpenStackで激変するシステム開発・運用 “抽象化”が実現する「究極の自動化」とは』 にも書きましたが、OpenStackはサーバーの仮想化とは根本的に思想が異なります。

 サーバー仮想化は、「既存のシステムを変えることなく、ハードウエアコストを圧縮できる」ことが最大のメリット・目的であったため、基盤を作る側はシステム全体の構造や運用に踏み込む必要がありませんでした。しかし、OpenStackのようなクラウド基盤は、「抽象化や自動化によってシステムライフサイクルの速度を向上すること」が最大のメリット・目的であり、その結果としてコスト削減が付いてきます。そのため、OpenStackを構築したならば、その上で稼働するシステムの構造や運用を、インフラエンジニアがしっかりと考える必要があります。

 今回の企画は手探りの面もありましたが、実に400名以上の方に来場いただき、一定の成果とフィードバックを得ることができました。用意したリソースが十分ではなく、多くの方が実際にコンテンツに触ることができず、申し訳なかったと反省しております。次回はより多くの方に環境を触っていただけるよう工夫する予定です。ユーザ会の活動でもフィードバックを踏まえて、前述のような「クラウド上でのインテグレーションの重要性」を実感し、理解してもらえるようなコンテンツを提供していければと考えています。ご期待ください。

ALT ラウンジは400名以上が受講。OpenStackに対する関心の高さがうかがえる結果となった

 なお今回、ラウンジのために作成したテキストの元データをこちらのリポジトリに置いてあります。自由に利用・改変いただいて結構ですので、自習教材として、もしくは社内のトレーニング用としてご活用いただければ幸いです(ただし当日に演習環境として準備したOpenStack環境はもう使えなくなっているので、そちらは自前でご用意ください)。コンテンツの修正・拡張などを行ったらプルリクエストしていただけるとうれしいです。

著者プロフィール

中島 倫明(なかじま ともあき)

日本OpenStackユーザ会会長(2012〜)

一般社団法人クラウド利用促進機構 技術アドバイザーを務めつつ、国内でのOpenStack/クラウドの普及・啓蒙・人材育成を行う。普段は伊藤忠テクノソリューションズに勤務し、オープンソースソフトウエア(OSS)を中心としたクラウド技術の企画・開発を主な業務としている。2014年5月『オープンソース・クラウド基盤 OpenStack入門』(共著/監修:中井悦司、KADOKAWA/アスキー・メディアワークス刊)を執筆。


特集:OpenStack超入門

スピーディなビジネス展開が収益向上の鍵となっている今、ITシステム整備にも一層のスピードと柔軟性が求められている。こうした中、オープンソースで自社内にクラウド環境を構築できるOpenStackが注目を集めている。「迅速・柔軟なリソース調達・廃棄」「アプリケーションのポータビリティ」「ベンダー・既存資産にとらわれないオープン性」といった「ビジネスにリニアに連動するシステム整備」を実現し得る技術であるためだ。 ただユーザー企業が増えつつある一方で、さまざまな疑問も噴出している。本特集では日本OpenStackユーザ会の協力も得て、コンセプトから機能セット、使い方、最新情報まで、その全貌を明らかにし、今必要なITインフラの在り方を占う。




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