プライベートクラウドで共通プラットフォーム化を推進。収益・ブランドを加速する日産自動車のIS/IT戦略「VITESSE」の内幕ITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(3)(4/4 ページ)

» 2015年06月22日 05時00分 公開
[文:斎藤公二/インタビュー・構成:内野宏信/@IT]
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「テクノロジが好き」であること

編集部 ところで、貴社は新しいテクノロジ、トレンドにも積極的でいらっしゃいますね。例えばSDS(Software Defined Storage)もいち早く採用されたそうですが。

木附氏 新しいテクノロジが出てきたときに少しかじっておいて、その展開をキャッチアップしながら、正式な導入を判断するアプローチをとっていますね。SDSについては、「Redhat Storage(Gluster FS)」を部分的に採用しました。DevOpsについてもオープンソースソフトウエアのツールをとりまとめて、インドのルノー・日産テクノロジー&ビジネスセンター インディアでスピーディなデプロイ/リリースができる環境を作りました。OpenStackも非常に興味を持っていますよ。実際に現在(2015年4月)取り組みを進めていて、面白い見通しが立ち始めているところです。詳しい話はまだ明かすことができませんが。

編集部 Webサービス系企業など、ITとビジネスが分かりやすい形で直結している場合、新しい取り組みに積極的な例が多いですが、メーカー、金融といったいわゆる従来型企業の場合、そうした文化を持つ企業は国内では少ないかと思います。貴社のそうしたモチベーションの源泉はどのようなものなのでしょうか?

木附氏 ほとんどは「今できないことへの不満」からきています。例えば、「開発部門がいろいろと変更をかけてもすぐに本番環境に適用されない」とか、逆に「本番環境に影響が出過ぎてレグレッションテストが大変になる」とか、ビジネスを円滑に推進する上ではさまざまな課題が生じますが、それをいち早く解決していきたいと考えているのです。

 現状への不満があれば、まずはITに携わるいろいろな人から解決手段の情報をもらい、興味を持ったら進んでつまみ食いしてみる。行けそうだと考えたら体系立てて導入のプロセスを作る、ということを繰り返しています。新しいテクノロジのことは常に周囲と話している感じですね。新しいことにはメンバーも喜んで取り組みますよ。

編集部 「テクノロジが好き」であることが根底にあるのでしょうね。

木附氏 好きですし、「ITがビジネスを変える」ということを常に信じて仕事に取り組んでいます。CIOもテクノロジが大好きで情報量については私よりも多いと思います。「こういうことはできないの?」とよく相談されます。実現性については現場の方が詳しいので、「いや、これは難しいでしょう」といったやりとりをよく行っているのですが、とにかくいろいろなところから情報を集めてくるので楽しい半面、こちらも必死です(笑)

パブリッククラウドに負けたくない

編集部 最後に今後の展開を伺いたいのですが、木附さんの視点から見て、競争優位を獲得する上でITに必要なことは何だとお考えですか。

木附氏 一言で言えば、「ITサイドからビジネスにドライブをかけるにはどうすればよいか」を常に考え続けることだと思います。そのためには、まず基本ができていないといけません。つまり、約束したサービスレベルを守って、きちんと安定運用することでユーザーの信頼を得ることが大前提です。その上で必要なものはスピードです。DevOpsも含めて、スピードを上げていくための方策をこれからいろいろと仕込んでいこうと考えています。

 また各種ITサービスについて、今すぐ必要なサービスが欲しいビジネスサイドにしてみれば、「パブリッククラウドを使えばすぐにできるだろう」と思うかもしれませんが、それに対して「セキュリティがどうの」といった話をしても仕方ありません。信頼性、安全性、価格、スピードにおいて、パブリッククラウドと同等以上のものをプライベートクラウドで提供していけばいいのです。

 もちろん、プライベートクラウドだけにこだわるという意味ではありません。パブリックとプライベートを使いながら、うまくアグリゲートしてサービスを提供していくつもりです。ただユーザーの期待に応えていく上で、「パブリッククラウドに負けたくない」とはいつも思っています。

 一方、データ活用も競争優位を獲得する上では重要になってきますので、ビッグデータ分析のためのHadoop環境や分析のインターフェースは標準のものをすでに準備してあります。ただデータの精度や信頼性が低いと良い結果は得られないので、データのガバナンス整備を次の課題と考えています。

ALT 「ITサイドからビジネスにドライブをかけるにはどうすればいいかを常に考え続けることが大切。パブリッククラウドも戦略的には使っていくが、自社にとって重要なシステムについては、信頼性、価格、スピードにおいてパブリッククラウドと同等以上のものをプライベートクラウドで提供していきたい」

編集部 では最後に、次代を担う若手のエンジニアに一言メッセージをいただけますか。

木附氏 “変化を起こす楽しみ”を知ってもらいたいですね。仕事には操業(Operation)と創業(Creation)の2種類あると思いますが、変化を起こすのはまさしく“クリエーション”です。クリエーションとは必ずしも「ゼロから作り上げるもの」ではなく、特にITの世界はいろいろなものの組み合わせで、新しいものがクリエーションできるのです。そういうチャンスを常に探し続けてほしいと思います。あとは、人の話をたくさん聞いてほしいです。身近にいる先輩やベンダーも含めて、自分よりものを知っている人はたくさんいます。インプットは多ければ多いほどいい。さまざまな視点、立場の人の話を聞くことが、自身にとっての大きな糧になるはずです。

 グローバル規模のインフラ標準化を着実に推進し、コスト効率、運用効率ともに向上させ続けている日産自動車グローバルIT本部。その標準化への道のりは決して平坦ではないことがうかがえたが、これを推進できたのも「サービス提供者としての信頼」を、全ユーザーから獲得してきたからこそなのだろう。

 “今できない不満”をどう解決するか、そのためにテクノロジをどう適用し、組み合わせていくか――より良いサービスを目指し、新たなテクノロジをシビアな視点で試行・判断し続ける木附氏のスタンスは、「ビジネスに寄与するIT」が強く求められている現在、ますます重要になっていくといえるのではないだろうか。

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