ピッチセッション最後の登壇者は、エルピクセルの代表取締役社長を務める島原佑基氏だ。同社は、ライフサイエンス研究者向けの画像解析ソフトウエア、システムの開発を行う東大発のベンチャー企業である。研究に必要となる画像データの処理を最新の技術で自動化することにより、研究効率の最大化を図ることを目指している。
近年、一般企業においても、社内外で生み出される大量のデータをどのように扱っていくべきかは一つの課題となっているが、それは「研究の世界においても大きな問題だ」と島原氏は言う。研究に用いられる装置の性能や機能が高度化するのに伴い、そこから生み出されるデータ量も増加の一途をたどっているという。
「研究の過程において、実験から解析のプロセスへと移るためには、実験から得られた生データを整理する必要があります。そのデータ量が増えることによって、処理のために掛かる負荷が増大し、結果的に研究者が“作業者”になっているというのが現実です」(島原氏)
同社では、画像解析技術を用いることで、このデータ処理のプロセスを自動化して効率を上げ、研究者が、機械化ができない、より高度な解析に集中できる環境を作ることを目指しているという。
「こうした課題の解決は、一般企業であれば大手ITベンダーが請け負うことになりますが、研究の世界ではキープレーヤーが不在です。エルピクセルでは、研究分野に特化した形でソリューションを拡充していくことを考えています」(島原氏)
自社開発による事例として、島原氏は、「STAP細胞」問題で注目を浴びた、論文中の「不正画像」を自動検出できる「LP-exam」「LP-exam Cloud」といったサービスを紹介した。
「これまで、研究の世界では性善説に基づいて、論文に不正画像は使われていないという前提で審査が行われていました。しかし、今回の事件は、研究機関のブランドや研究者個人のキャリアだけでなく、研究界全体の信頼を守るためにも、不正の検査体制が必要であることを示しました。LP-examでは、そうしたチェックを高精度かつ低コストで行うことが可能になります」(島原氏)
また、現在推進中の「Project Ai」では、実験で得られた生の画像データから、人工知能が自動的にグラフとして結果をまとめるシステムの構築を目指しているという。これによって、研究者が本来の研究作業に集中できるようになり、より効率や質の高い研究の実現を支援できるという。
「テクノロジを活用した的確な画像診断システムは、今後も発展していくと見ています。この分野に一緒に取り組んでくれるパートナーを求めています」(島原氏)
本稿で紹介した3社は共にデータをいかにして医療現場に生かすかを重視していた。スマートデバイス/センサー、インターネット/公的機関/パートナー、医療機器とデータを収集する入り口は異なれど、そのデータをどのように生かすかという点では、3社とも課題としている点は共通している。それでは、大量のデータ処理に長けるITベンダーとしてはデータを医療現場に生かすソリューションをどのように提供しているのだろうか。次回は、IBMのWatsonを例にITベンダーのヘルスケア/医療に対する取り組みを紹介したい。
IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療で生かされていないのが、現状だ。本特集ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。
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