エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は「疲れ」がもたらすマイナス効果と、オリジナルの疲れ対策法を解説する。
エンジニアが社会で生き抜くための考え方やノウハウを伝授する本連載。今回は「疲れ」がもたらすビジネス上の障害と「疲れた」とオフィスで言うことのマイナス効果、そして疲れてしまった場合の対策を解説する。
近年、オフィスの会話や同僚とのメールのやりとりで気になっていることがある。朝でも昼でも、会うなり「お疲れさまです」と声を掛けられたり、メールの文頭にいきなり「お疲れさまです」と書かれたりすることだ。
オフィスマナー的に「お疲れさま」は便利な言葉だ。「ご苦労さま」は目下から目上に使ってはいけないことになっているし、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」のように時刻によって使い分ける面倒もない。
読者のオフィスでも、「お疲れさま」がやたらに飛び交っているのではないだろうか。エンジニアには言葉選びも簡潔にしたい合理主義者が少なくないので、あいさつにおける「お疲れさま比率」が相当に高かろうと推測するのだが、いかがだろうか。
朝出社して顔を合わせるなり「お疲れさまです!」と声を張り上げられると、まだ何もしていないのに疲れているわけはなかろう、と違和感を覚える。あるいは、そんなに自分は疲れているように見えるのか、とがっかりする。
それよりも腹が立つのは、いかにも「こう言っておけば無難なのだ」と安心して、何も考えずにあいさつしようとする、心のこもらない様子だ。メールでも同様だ。
夜の退社時に「今日はたくさん仕事をされましたね」という意味で、「お疲れさまでした」というのはあっていい。しかし、何も考えずに朝から晩まで「お疲れさま」と言えばいいと思うのは、単純過ぎではないか。
加えて疑問に思うのだが、「疲れる」ということは、「さま」を付けるほど立派なことなのだろうか。
残念ながら「お元気さま」というあいさつはないが、「こんにちは。お元気そうですね」「いえ、あなたこそ元気そうですよ」とでも言い合う方が、ずっとポジティブだし、お互いの励ましになる。
ビジネスの場で「疲れている」ことは、さまざまな障害をもたらす。大きな問題は、頭が十分働かないことと、印象が悪化すること、そして周りにも疲れを伝染させてしまうことの三つだろう。
ビジネスの発想の多くは、先に答えの候補がひらめき、これが適切なのか否かを論理的に確認する思考プロセスから生まれる。論理的積み上げは他人への説明用であって、実際の仕事では、一つ一つ積み上げていては効率が悪い。
しかし疲れていると、答えの候補を次々に思いつくプロセスが起動しにくくなる。「こうだから、こうなるはずだ。だから……」と、検算に使うような思考になり、ステップが一つ進むたびに場合分けが増えて、ついには前に進めなくなる。これは避けたい状況だ。
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