エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は株式のファンドマネジャーを例にとり、技術や知識の優劣が仕事の優劣に直結するわけではないことを解説する。
エンジニアが社会で生き抜くための考え方やノウハウを伝授する本連載。前回は、MBAや資格は、エンジニアのキャリアアップに役立つのかを辛口に解説した。今回は、エンジニアが知識と技術の差で優位に立つことが成立しにくい世界を理解し、マーケット感覚を持つことの必要性を説く。
最近の報道によると、文部科学省は国立大学の文化系の学部・学科を減らして、理系の定員を増やそうとしているらしい。
筆者は、経済学部を卒業し、近年は大学で文化系の授業を持っていることもあり、大きな声では言いにくいのだが、経済学部や文学部のような文化系の学生よりも、理系の学生の方が、勉強に使う時間とエネルギーが多く、実用的な知識をより多く身に付けていると思っている。
理系の学部や大学院の卒業生が持つ知識と技術を、筆者は貴重なものであると高く評価しているし、正直うらやましくもあるし(特に数学力が)。
読者はすでにご存じだろうが、ここ40年くらい、経済学は数学を多用するようになっている。数学を理解し、駆使できることが、経済学を理解する上で大きなアドバンテージになっているのだ。しかし、理系出身者が今一つ実感を伴って理解していないように思う「残念な」ポイントが一つある。
それは、ひと言で言うなら「マーケット(市場)感覚」とでも言うべき、市場の性質に関する理解だ。
エンジニア読者は、例えば株式投資の世界では、もうけることができる投資家には何が必要とイメージするだろうか。「情報」「分析力」「資金量」といった言葉が頭に浮かんだ方は、たぶん真面目な人だ。
推測するに、エンジニアの世界では技術や知識の優劣がそのまま仕事の優劣に直結することが多いので、投資やビジネスの世界でもそうであるに違いないと思うのだろうし、そうあるべきだとも思うのだろう。しかし、それでは「マーケット感覚」からは距離があると言わざるを得ない。
株式などでお金を運用する場合、お金持ちのエリートが、庶民よりも効率的な資産運用ができるかというと、そうでもない。いわゆる「富裕層」は、金融機関に高い手数料を払っているから気持ちの良いサービスを受けているだけで、運用の効率が良いわけではないのだ。
より知識のある人がよりもうかるかというと、そういうものでもない。
運用会社に勤めて投資信託や年金資金などを運用するファンドマネジャーは、プロフェッショナルだ。彼らは、それなりの学歴を持ち、専門的なトレーニングを受けている人が多い。投資情報に接する機会が多いし、投資分析にも詳しいし、何よりも運用に使える時間が長い。
しかし、ファンドマネジャーの運用成績を調べた多数の研究で得られたのは「ファンドマネジャーの運用成績の平均を取ったら、株式市場全体の平均の投資収益率に少し負けていた」という結果だった。情報や分析力は、少なくとも直接的には運用成績の改善に役立っていないことが分かったのだ。
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