この連載では主に公開鍵暗号系の発展について解説してきました。暗号化したままデータを処理したいという要望に対しては、第4回の「準同型暗号」を筆頭に、第5回の「代理人再暗号」や、第7回の「検索可能暗号」などがあります。
鍵自体の高機能化としては、第5回で紹介したIDを公開鍵にできる「IDベース暗号」や、従来はデータに対してアクセス権を付与することで対応していた処理を暗号の機能として実現する第6回の「属性ベース暗号」「関数型暗号」などがありました。
最終回となる今回は、それらの暗号技術と組み合わせて改ざんを防止したり、不正を検知したりする署名やゼロ知識証明を紹介しました。なお、改ざん防止は非常に重要な機能です。そのため、共通鍵暗号でも暗号化と認証を最初から組み合わせた「認証付き暗号(AEAD:Authenticated Encryption with Associated Data)」や「改ざん検知暗号」なども研究されています。
また、複数の要素技術を組み合わせてプロトコルを構成していると、それが正しいのか確認するのが難しくなります。そこで、プロトコルを組み合わせて使ったときの正しさを保証するために「汎用的結合可能性(UC:Universal Composability)」という枠組みが考えられています。あるいは、プロトコルの安全性を計算機で証明する「形式手法(Formal Method)」と呼ばれるアプローチも研究されています。これらのアプローチについても、機会があれば紹介しましょう。
この連載で扱った楕円曲線、ペアリング、格子などの概念は、高度な数学理論や、安全性の定義のような抽象的なものも多く、なかなか難しいものです。連載の中では全てを詳しく説明することはしませんでしたが、この連載が読者の皆さまにとって、暗号についての理解に結び付くきっかけとなれば幸いです。
属性ベース暗号や関数型暗号についてより詳しく学びたい人のために、Web上で閲覧できるものや書籍として入手できる参考文献を紹介します。
サイボウズ・ラボ株式会社にてセキュリティとインフラ周りの研究開発に携わる。「数論アルゴリズムとその応用」研究部会(JANT)幹事。
近著に「応用数理ハンドブック」(朝倉書店、2013:だ円曲線暗号、ペアリング暗号の項目担当)、「クラウドを支えるこれからの暗号技術」(秀和システム、2015)がある。
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