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» 2015年10月26日 05時00分 公開

インターネット黎明期からエンタープライズITの主導権争いに至るまで、そしてIT活用の今後は――@IT 15周年企画「編集長対談」(3/3 ページ)

[唐沢正和,ヒューマン・データ・ラボラトリ]
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エンタープライズITの主導権争い

内野 そうですね。もはやエンタープライズITは、業務の効率化だけを目指すものではなく、企業が収益・ブランドを向上させる“攻めの手段”としての認識がますます深まっていると思います。

新野 だからこそ、情報システム部門の役割も変わらざるを得ない。

内野 これからは、ビジネスの観点を持っていないと、システム開発・運用そのものが難しくなることは確実と言えるでしょうね。

新野 ここには二つの動きがあると思いますね。一つは、かつてお金の計算に注力していた情報システム部門の人たちが、ビジネスの現場に出ていって、ITの力を使ってビジネスをエンカレッジできるようになったこと。もう一つは、かつて「ITは難しい」と思っていたマーケティング部門や企画部門の人たちが、クラウド化されて簡単になったテクノロジを使って、情報システム部門に頼らなくてもビジネスをエンカレッジできるようになったことです。

 この両方の動きが出てきて、企業文化によってせめぎ合っているのが現状です。例えばビッグデータの領域では、マーケティング部門が情報システム部門に頼まなくても、顧客アンケートを行うことができ、たとえ大量のデータが集まったとしても簡単なレポーティングツールを使って自力で集計して、顧客にアプローチできるようになった。

 ただ、このことは、今までのように情報システム部門でも対応できることであり、どちらがビジネスの主導権を握っていくのかが、これからの企業の新たな命題になるのではないでしょうか。

内野 そうしたせめぎ合いは、クラウドの領域でも見受けられますね。例えばビジネス部門は「必要なサービスを、必要なときにすぐ用意してほしい」と望みますが、SaaSなどパブリッククラウドを使えば実際に素早く手に入ってしまう。このことが、「なかなかリクエストに応えてくれない」といったイメージもある情報システム部門の存在意義を脅かし得るものにもなっている。実際にSaaSを中心に、ビジネス部門主導で導入してしまうケースも多くあります。

 しかしパブリッククラウドは標準化されたサービスである以上、必ずしも自社の要件にマッチしないこともある。こうした中で、「うちはパブリッククラウドには負けたくない」「社内のサービスプロバイダーとして存在感を発揮していきたい」と考えている情シスの方の意見もよく聞きますし、プライベートクラウドやOpenStackが注目されている背景もそうしたところにあると思います。今後、こうした主導権争いはどうなっていくと見ていますか。

新野 私は開発者寄りなので、テクノロジを分かっている人が、ビジネスも理解してサービスを使いこなす方が、仕組み的にもコスト的にも良いものができると考えています。その理由は、まずテクノロジを分かっていた方が、目利きとして優秀になれること。もう一つは、ビジネス部門の人がテクノロジを理解するのに比べて、情報システム部門の人がビジネスを理解する方が早くて効率的だと思います。

 現在は、一人のエンジニアが数千台のサーバーを管理できる時代なので、絶対数としてはインフラエンジニアの人数が減っていくことは間違いありません。その中を生き残るためには、絶対数は少ないが確実に必要とされるインフラエンジニアになるか、ビジネス側でさまざまなニーズに応えていくアプリケーションエンジニアになるかを、自分の持つスキルと市場環境を理解した上で選んでいくことが重要になります。

 グローバルで見ると、サーバーのインフラ管理業務は、その場で故障したハードウエアを取り換えること以外は、世界中どこにいてもできる仕事になりつつあります。問題が発生したときの切り替えや原因究明などは、リモートで全て行うことができてしまう。そのため、インフラエンジニアは、グローバルを相手にした競争を強いられることになると思います。これに対して、アプリケーションエンジニアは、ビジネスの現場にいた方が開発しやすいので、インフラエンジニアよりも比較的ローカリティが重要になる要素は高いといえます。

今後のエンタープライズITの鍵となるのは

内野 この15年間を振り返って、テクノロジの大きな変化をどう見ていますか。

新野 やはり複雑な技術は廃れていくのだと実感しています。例えば、XMLではなくREST、EJBではなくPOJO(Plain Old Java Object)といったように、技術的に優れたものであっても、結果としては、よりシンプルなテクノロジに置き換わっていっている。

内野 先ほど話に出たSDSやSDNも、言ってみれば一皮かぶせてシンプルに使えるようにするテクノロジです。「本当にやりたいこと」を阻害するような、テクノロジ側の事情に縛られた複雑性はいらないということかもしれませんね。今後も複雑なものは淘汰されていくことになると思いますか。

新野 長い期間で見れば、これからも広く使われるシンプルなテクノロジが主流になっていくのは間違いないでしょう。また、きっちりうまく作り込まれたテクノロジよりも、多少ラフでも扱いやすいテクノロジの方が生き残っていく可能性が高いと思っています。

内野 今後、エンタープライズITのインフラはどう変わっていくと思いますか。

新野 これを予想するのはなかなか難しい。今の流れで順調に進化していくのであれば、機械学習や人工知能が重要なキーワードになると思っています。テクノロジと同じように、ビジネスも難しいものは淘汰されていく可能性がある。日本企業は、例外処理や属人処理が多くて、カスタマイズが必要なERPが導入しにくいと言われていた。

 しかし、ビジネスを効率的に回していくには、例外処理や属人処理はできるだけ排除し、標準的なビジネスプロセスを維持する必要があり、日本でも徐々にプレーンなERPの導入が進みつつあります。このトレンドから見ても、コアのコンピタンス以外は、ビジネスもシンプル化されていき、機械学習や人工知能によって自動化できるのかもしれません。

内野 そのように標準化が進むと、コア部分での差別化を一層突き詰めて考えていく必要がありますね。

新野 例えば、メディアであれば、より良い記事を生み出して、それを優れた提案でお金に変えるというコア業務以外は、広告掲載や経理などは特別な業務ではないので、ほとんど自動化できるように思えます。

 特に、音声認識やセンサー技術の発展によって、さまざまな情報を機械が自動で収集できるようになりました。これに伴い、機械が学習するためのソース(情報現)の量も桁違いに大きくなってきているので、オフィスのビジネスシーンでも自動化される業務が増えてくるかもしれません。

内野 これを突き詰めていくと、将来的には、コアのビジネスを考える人以外は、全て機械に置き換わり、ほとんどの業務が自動化されていく可能性もあります。その意味で、今後の情報システム部門は、自社のコアコンピタンスをしっかりと認識し、コアビジネスの成長にいかに貢献できるか、そのためにテクノロジをどう取り入れ、使っていくかを考える力が強く求められますね。また、そうした使われ方こそがテクノロジ本来の役割ともいえると思います。

 一方で情報システム部門の人だけではなく、ビジネス部門の人たちも、コアビジネスに寄り添った業務に注力していかないと生き残れなくなるように感じますね。IT活用の在り方についても見直すべき側面はあると思います。例えば、業務の状況に応じてスピーディーかつ柔軟に調達/拡張/廃棄できるクラウドのような環境が身近にありながら、IT投資に対する意思決定や決済の承認スピードが遅いために、テクノロジのメリットを生かしきれていない例も目立ちます。ほとんどのビジネスをITが支えている以上、現場層に限らず、管理層、経営層も、従来型のビジネスプロセスや商慣習を見直してみるべき部分はあるのではないかと思いますね。

 では、こうした将来のエンタープライズITの姿も見据えて、最後に新野さんから読者にメッセージを。

新野 エンタープライズITの領域は、すでにビジネス全域に広がっており、あらゆるシーンでソフトウエアが利用されています。そして、その役割は、一企業にとどまらず、社会や世界にとっても重要なものになりつつある。例えば、ソフトウエアを活用して、飢餓やエネルギーの問題を解決することも可能になってきた。そう考えると、エンタープライズITに関わる仕事をしているのは、とても誇れることではないかと思います。

 特に、ソフトウエアエンジニアのこれからの可能性は、今まで以上に大きく広がっていくはずです。一方、エンタープライズITの情報を伝えるメディア側には、ソフトウエアがビジネスを主導する時代の中で、これからも本当に価値のある情報を提供し続けていってほしいと思っています。

内野 テクノロジ系のWebメディアは数多くありますが、一般に、コンテンツ配信の量とスピードが重視されがちな傾向も強いため、情報が荒れがちな状況にもあると思います。そうした中で、@ITは丁寧に作り込んだ記事を通じて、的確な情報を提供するよう努め続けてきました。今後もこの姿勢を崩さずに、良質なコンテンツを読者に届けていきたいと思います。

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