マッシュアップもIoTへ――「下手な芸人より面白い」「狂気を感じる」「絶句した」な12作品が集まった #MA11 決勝戦まとめMAは開発者のM-1になったのか(3/3 ページ)

» 2015年12月25日 05時00分 公開
[柴田克己@IT]
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寝返りブロックくずし

 かつて誰も見たことがない、寝ながら(「寝っ転がりながら」ではなく「睡眠を取りながら」)プレーする「寝ゲー」という新たなジャンルを切り開くゲーム作品として、審査員、そして会場の観客を絶句させたのが「寝返りブロックくずし」である。

 デバイスとしては、近年量販店でも比較的容易に手に入る、シリコン製キーボード(柔らかいキーボード)2台を使用。プレーする際には、これを敷布団の上に載っけて、その上に寝る。それだけ。画面には「ブロックくずし」の画面が表示され、横になった身体によって押し下げられたキーの位置によってボールを返す「ラケット」が移動する。睡眠中に寝返りを打つと、それに合わせてラケットも動くというわけだ。ブロックを崩すボールは常に射出され続けるが、狙って打ち返すことなどできるわけがなく(寝てるから)、クリアできているかどうかは、翌朝、目覚めたときのお楽しみである。

 ゲーム部分はenchant.jsを利用して作成。キーボードで押されたキーの判別は、Raspberry Piを接続して別途行っている。キーボードの上で「寝る」ため、複数のキーが押下されることになるが、その取得のためにlibusbを使ってRubyプログラムで情報を取得し、node.jsサーバーを経由してsocket.ioでブラウザーに渡すという、ずいぶんと手間の掛かることを惜しげもなく行っている。

 開発者の湯村翼氏いわく「(寝返りの頻度など)睡眠状態のログを取ることで、ヘルスケアに活用できる」とのことだが、ただひたすらにプレーヤーが寝ているゲーム中の映像を見てしまうと、「別に無理に活用しなくてもいいんじゃない?」という気もしてくる。技術力の結構な無駄遣いをしている点も評価され、「寝返りブロックくずし」は、見事「おばかアプリ部門賞」に輝いた。

 湯村氏の受賞コメントは下記の通り。

 「他の作品にも多かったですが、僕もAPIはあまり使わず、ネタ勝負でおばかアプリ部門賞を狙っていたので、受賞できたのは本当に良かったです。もともとゲームの部分はなく、キーボード含め安いデバイスで何かヘルスケアに役立つものはできないかを追究していました。楽しめる要素を加えたいということで、今回はブロック崩しを取り入れてみましたが、他のゲームを寝ながらできないか模索中です」

PINCH by tsukuba@deep

 日々の生活で繰り返される「洗濯」。洗い終わった洗濯物を干すときに必ず使う「洗濯ばさみ」を、センサーやネットワークの技術で「少しだけ賢く」したら、もっと便利になるのではないか。そんな発想から生まれたのがインテリジェント洗濯ばさみ「PINCH」だ。

 洗濯ばさみの先端にフォトリフレクター(光センサー)を内蔵させることで、衣類を干すときに“接近”を感知すると自動的に「開き」、衣類が内側に入ると「挟む」動作を自動的に行うことを可能にしている。また、気象予報APIで取得したデータを使うことにより、複数の洗濯ばさみを組み合わせて動作させて、晴れるときには衣類を大きく広げ、逆に雨が降りそうな場合には、衣類を閉じてカーテンを展開することで、洗濯物を雨から守るといったこともできるようになっている。取り込み時には、専用のセンサーが付いたカゴを下に置くことで、乾いた洗濯物を自動でリリースすることも可能だという。

 将来的には、洗濯物が十分に乾いたときや、盗まれた場合にスマートフォンに通知できるような仕組みも検討しているそうだ。

Openness-adjustable Headset:開放度を調整可能なヘッドセット

 1人で音楽を楽しみたいときに使う「ヘッドセット(ヘッドホン)」。このヘッドセットには、大きく分けてオープン型(開放型)と、クローズ型(密閉型)があり、それぞれに利点と弱点がある。例えば、クローズ型では外部の音を遮断できるため音楽に没入できる利点がある一方、外出時などに利用していると他の人の声や車の接近音などが聞こえづらく、コミュニケーションや交通安全上の問題を引き起こす可能性もある。

 であれば、状況によって「オープン」「クローズ」を使い分けたいところだが、この特長は基本的にヘッドセットの物理的な構造によって実現されており、普通は変えることができない。「Openness-adjustable Headset」は、オープンかクローズかを、その時の状況に応じてボタンやタイマーで切り替えることが可能なヘッドセットだ。

 オープンとクローズを切り替えられると、どんなことが可能になるのか。開発者が示した例をいくつか挙げてみると「音楽鑑賞時、サビに入るとヘッドセットが開放/密閉されて没入感や爽快感を向上する」「カフェなどで仕事をする際、最初はオープンにしておいて周りの雰囲気を楽しみながら脳を活性化させ、作業に集中し始めるとだんだんヘッドセットがクローズされてきて集中度を高められる」「あらかじめ登録した、興味があるキーワードや音楽を音声認識すると自動的に開いて聞き耳を立てられる」「あらかじめ登録した、聞きたくないキーワードや音楽を音声認識すると自動的に閉じる」といったものがある。

 なお、このヘッドセットはデザイン上、まるで自動車のガルウィングドアのように、周囲の人に分かりやすい形で、オープンとクローズが切り替わる。つまり、他者とのコミュニケーションの中で、このヘッドセットを使うことで、相手との話題に「関心があるかないか」をノンバーバルに表明することが可能なデバイスでもあるのだ。

 開発者は、この作品について「インターネット接続された、拡張された耳の蓋である」と表現している。さまざまなカラーリングが施されたコンセプトモデルが作り込まれた完成度の高さや、他者とのコミュニケーションにおける接点として「耳」に着目したユニークさ、楽曲認識や音声認識APIとのマッシュアップも評価され、同作品は「Mashup部門賞」を受賞した。

Mashup Awardsの「次の10年」を予感させる優秀作品

 12作品のプレゼンテーションの後、最優秀賞1作品と優秀賞4作品が発表された。受賞作品は以下の通り。

【最優秀賞】

  • 参式電子弓

【優秀賞】

  • ビビビコントローラー
  • CliMix[クライミックス]
  • Spectee
  • PINCH by tsukuba@deep

 副賞として、最優秀賞には賞金200万円、優秀賞の4作品には各30万円が贈られた。最優秀賞に選出された「参式電子弓」は、これまで一般的だった「スマートフォン」や「VRゴーグル」のようなデジタルデバイスではなく、「弓」というアナログな器具を使って、現実世界と仮想世界とのつながりを演出した発想と、それを実現するためのこだわりが高く評価されての受賞となった。

 Mashup Awards運営委員長の麻生要一氏は次のように総評した。

 「昨年のMA10では『次の10年』を予感させる「MA11」にしたいと宣言し、この1年やってきました。APIを解放してハッカソンで組み合わせるという文化が日本にも根付いてきてすごくうれしく思っています。今年も8月から22回ものハッカソンを開催し、500名以上の開発者に参加していただきました。今年、特徴的だったのは、学生部門とCIVICTECH部門が過去最高の作品応募数だったことです。若い世代にもハッカソン文化が根付き始めたこと。技術で遊ぶだけだったハッカソンという文化が社会的な価値を持つようになり始めていることです。

 ファイナルステージには完成度の高い作品が残り、プレゼンテーション後の最終審査もだいぶ盛り上がり、審査員からは『下手な芸人より面白い』『(良い意味で?)狂気を感じる』『マッシュアップの意味が変わってきている』などのコメントがありました。ファイナルステージ進出の12作品のうち7作品がハードウエアデバイスを使った、いわゆる『IoT』なものでした。『MAに応募される作品は開発者が作りたいものなので、開発者の興味がソフトウエアからハードウエア/IoTに移ってきている時代の転換点を象徴している』という審査員コメントが象徴的です。今日から始まるMA12でも、広い意味でのマッシュアップ作品で『下手な芸人より面白い』プレゼンテーションを期待しております。ありがとうございました」

 来年のMAでは、どんな作品が飛び出して、われわれを楽しませ、驚かせてくれるのかに期待したい。

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