本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。今回は、FinTechの潮流の中で、特に注目を浴びているキーワード「ブロックチェーン」についてのセミナーの模様を紹介する。その応用分野は狭義の「金融」にとどまらない。流通やヘルスケア、音楽、ゲーム、さらには「契約」全般など、幅広い可能性を秘めたブロックチェーンの可能性を探る。
「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を足した造語である「FinTech」。その旗印の下、IT技術によって金融に関わるさまざまな業務や処理を利便化し、ビジネスの拡大を図る動きが国内金融業界から大きな注目を浴びている。大手銀行からスタートアップまで「FinTech」という言葉を用い、新しいビジネスを展開するニュースが相次いでいる。言葉が氾濫する一方で、必要な技術について理解し、どのように生かすべきか戦略を立てられている企業は、まだ多くないのではないだろうか。本特集では金融業界がFinTechでビジネスを拡大するために必要な技術要件を浮き彫りにし、一つ一つ解説していく。
今回は、ブロックチェーンの可能性を探るセミナーの模様を紹介する。
金融とITの融合によって新たなサービスを生み出そうとする「FinTech(フィンテック)」の潮流の中で、特に注目を浴びているキーワードが「ブロックチェーン」だ。
ホットな分野は何でもそうだが、ブロックチェーンとは何かを考えたとき、人によってさまざまな解釈が考えられる。最大公約数的に表現するならば「暗号化と分散ネットワーク技術を活用し、書き換えや改ざんが不可能な形で何らかの記録(例えば元帳/台帳など)を共有する仕組み」と表現できるだろう。
ブロックチェーンというと、仮想通貨/暗号通貨の「ビットコイン」で利用されたことが最も知られており、その流れから金融分野での活用に大いに期待が寄せられている。しかし、分散型ネットワークで改ざんが不可能な形で情報を共有できるという特質を考えれば、もっと広い範囲への応用が可能だ。
2015年12月18日に開催された「ブロックチェーンサミット」では、金融にとどまらないブロックチェーンの可能性が紹介された。その一部を紹介しよう。
サミット最初の講演では、ブロックチェーンユニバーシティーのプレジデントを務めるロバート・シュベンカー氏がブロックチェーンの概要と最近の動向を解説した。
ブロックチェーンユニバーシティーは米国に設置された組織で、ブロックチェーン技術に関する情報提供と実践的な教育、ハッカソンなどを開催し、この技術を活用して新たなサービスを生み出そうとしているスタートアップ企業を支援している。シュベンカー氏は、そこでの経験を踏まえ、ブロックチェーンが金融業界だけではなく、さまざまな分野にインパクトを及ぼし得る技術であり、それ故に多くの注目と資金を集めていると説明した。
シュベンカー氏はブロックチェーンを「ある種のデータベース。それも、変更不可能な形でデータを保持するデータベースだ」と表現する。主な特徴は4つある。まず、「公開レジャーシステム」により二重支払いの防止機能を備えていること。そして、取引内容の認証をはじめ、システム全体を取り巻くセキュリティが確立されていること。三つめはリアルタイムの決済が可能なこと。そして最後は、リスクの分散が可能なことだ。
ブロックチェーン技術の中でも重要な要素が、分散し、互いに検証し合うことによって内容を保証する「レジャー」(Ledger、元帳/台帳)だ。このレジャーも、大きく二種類に分けられる。誰でも利用可能でオープンな「非許可制」のものと、クローズドな「許可制」だ。
ブロックチェーン技術を実装したサービスはいろいろあるが、最も有名なのはビットコインだろう。シュベンカー氏は「現在のインターネットではTCP/IPやHTTP、TLS/SSLといったさまざまなプロトコルが使われているが、『失われたリンク』がある。それはマネープロトコルだ。ビットコインはインターネットにおけるマネープロトコルだ」と述べた。
この流れを汲み、ブロックチェーン技術は金融分野において活用が最も進んでいる。スペインのサンタンデール銀行は、「分散型レジャーを活用することで、グローバル全体でインフラにまつわるコストを200億ドルも削減できる」と考え、この分野に注目しているという。米連邦準備銀行も例外ではなく、ブロックチェーン技術に高い関心を寄せている。
だが活躍の場はそれだけにとどまらない。グローバルな送金システム、サプライチェーンなど幅広い応用が考えられる。シュベンカー氏が紹介したブロックチェーン注目スタートアップの一つ、CHAIN社は、エンタープライズマーケット向けにブロックチェーン技術の開発ツール(SDK)やSaaSを提供し、さまざまなアプリケーションに組み込めるよう試みている。これを活用すれば、例えば、ギフトカードやマイレージといった、自社サービスに付属する何らかのデジタル的な「価値」をやり取りする際にブロックチェーンを利用できるかもしれない。
シュベンカー氏はさらに、世界最大級の家電企業、フィリップスが、健康状態をブロックチェーンに記録するといった形でヘルスケア分野での応用を検討している他、SCM(サプライチェーンマネジメント)、音楽など、いわゆる「Fin」以外の舞台にもブロックチェーン活躍の場は広がるだろうと述べている。そして、黎明期であるにもかかわらず多くの企業が注目するこの技術を理解し、さまざまなビジネスアイデアを試してほしいと呼び掛けた。
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