「長時間労働はエラい神話」はもう止めよう――テクノロジを活用して、効率を“往生際悪く”追求する働き方私は「諦めない」(1/2 ページ)

長時間労働が常態化しているIT業界。しかし今後は「120%」の労働力で働ける人は少なくなっていくだろう。親の介護や子育てなどの制限があっても、自身の体力が落ちても、オフィスのそばに住まなくても、希望の働き方を実現するためにはどうしたら良いのか――そのポイントは「テクノロジの活用」と「諦めない」にあった。

» 2016年02月02日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]

 日本は今、世界に例を見ないスピードで「超」高齢化社会に突き進んでいる。人口構成ピラミッドが逆三角形に向かい、労働人口が減っていく中、「社員が同じ時間に出社し、同じオフィスで仕事をする」という高度成長期に培われたこれまでの働き方を続けていくことは果たして現実的だろうか。そもそも、生産性の低さを残業時間で補う働き方はナンセンスではないか。子育てや親の介護も、これまでの仕事も諦めたくない人が両立を可能にする、新しい働き方はないだろうか――。

 2016年1月15日に開催された「第4回ITACHIBA会議」は、こうした課題を踏まえ、「70歳まで幸せに働く方法と、幸せに働ける企業経営を考える」をテーマに掲げ、場所や時間にとらわれない新しい働き方を探る場となった。

インターネットとツールが可能にしたテレワーク

 ITを駆使した在宅勤務やリモートワークというと、ワークライフバランスを重視したいと考える従業員目線で語られることが多い。だが実は、成長を続けたい会社にとってこそ重要になる可能性がある。優れた能力を持つ従業員を雇えるかどうかは企業にとって成長の鍵だ。業務内容にもよるが、「就業形態が合わない」という理由だけで優秀な人材に去られると、競争力を損なうことになりかねない。

 そこで会議の前半は、主に経営者の目線から、ITを駆使した新しい働き方とその課題が語られた。

田澤由利氏

 まず登場したのは、「テレワーク歴24年」というテレワークマネジメント 代表取締役の田澤由利氏だ。田澤氏は、「理想のテレワーク環境を作ろう」という思いから起業し、テレワークの啓発活動を進める傍ら、「柔軟な働き方は経営者にいかにメリットがあるか、を自ら実証している」と話す。

 田澤氏は「毎日朝から晩まで会社に来てくれる人しか雇えない会社は、今後大変なことになる」と指摘。「従来は会社に行かないと仕事のための道具がないし、仲間がいなければ仕事にならなかったが、今や道具も仲間もクラウド上に置き、使える時代。発想の転換で仕事のやり方を変えれば、優秀な人も来てくれる」(田澤氏)

三浦デニース氏

 続いて、マークロジック 代表取締役 日本法人代表の三浦デニース氏が登場。二人のお子さんを持つワーキングマザーであり、日米どちらの企業でも働いた経験のある三浦氏は、「本質はオフィスで過ごす『時間』ではなく『クオリティ』だ」と述べた。そして、クオリティを上げるには働く時間や場所の「柔軟性」がポイントであり、柔軟な働き方とより良いワークバランスを実現する鍵は「テクノロジーだ」と続けた。

 例えば、Wi-Fiやクラウドサービス、Skype、WebEx。三浦氏が家族と共に来日した2011年当時は、シリコンバレーでは当たり前だったWi-Fiなどの環境が、日本では整備されていなかった。「主にセキュリティ上のリスクを懸念してのことだが、生産性を上げていくにはこれらの技術をどう取り入れるかが鍵になる。サイバーセキュリティリスクと生産性のバランスを考えなくてはならない」(三浦氏)

山口勝幸氏

 さらに、ChatWork(チャットワーク)の常務取締役COO、山口勝幸氏は「日本人は、子育てや介護といった理由で働き方を諦めている人が多い」と述べた。ChatWork社が目指すのは、その働き方を変えることによって、仕事を諦める人を減らすことだ。

 同社は、男性社員にも育休制度を設けた出産立ち会い制度、里帰り支援、社員のパートナーの誕生日を祝うバースデー制度など、ユニークな福利厚生制度を設けている。いったいなぜか。

 「顧客満足度を上げるには、社員が生き生きしていなければならない。だから、社員にどんどん投資していく。よく『モノ、カネ、ヒト』というけれど、モノはクラウドで何とかなるし、カネもベンチャーキャピタルから調達できる。大事なのはヒト。だからわが社は『ヒト、ヒト、ヒト』として、とヒトに投資している」(山口氏)。こうした制度によって「家族にも『いい会社だね、頑張れ』と応援してもらえる」こともポイントだという。

テレワークの「孤独感」を解消し、目標共有を可能にする方法は?

 サイボウズ 社長室フェローの野水克也氏が進行役を務めたパネルディスカッションでは、テレワークが抱える課題も掘り下げられた。

バーチャルオフィス 通常の仕事は「島」で、仲間と一緒にいたい時は「フリーアドレス」スペースで行える

 テレワーク消極派には、障害として「オフィスにいないと不安、という意識がある」と田澤氏は述べる。これは日本人の風土、文化によるものも大きそうで、「自由にさせてもらう方が力が出る」(三浦氏)という米国流とは違う部分だ。

 田澤氏のテレワークマネジメントは、この不安を解消するためにテレワーク用ソリューションに日本のオフィス特有の「島」を再現した。ある種「ベタ」なインタフェースも相まって「特に50代、60代に受けがいい」(田澤氏)そうだ。

 ChatWork社はもともと「移動しない」働き方を実践している。「皆で会議室に移動して、遅刻した人を待って、といったやり方ではなく、自席でライブフォンを使って、スキマ時間を使って会議を行う。参加できなかった人は記録された内容を後から見ればいい。会議のために複数の人の時間をがっつり抑えるのは、ストレスフリーの正反対」(山口氏)

ネット越しで姿の見えない従業員、評価はどうする?

野水克也氏と前半の登壇者

 マネジメント側にとっては、「評価」も課題だ。リモートワーク導入消極派は「姿が見えないと、従業員がちゃんと仕事をしているのか分からない」と主張しがちだが、登壇者たちは、どのように評価を行っているのだろうか?

 三浦氏は「週に1度はリアルに会って話し合い、目標と成果の擦り合わせを行っている」と言う。「互いの期待値に違いがあるとうまくいかない。そこをしっかり確認することが大事」(三浦氏)

 一方田澤氏は「サボっていないか見張るというよりも、過剰労働を避けることの方が大切。だから、ある程度労働状況は把握しないといけないと思っている。また、うちは『時間当たりの生産性』を評価の軸にしている。だから、成果だけでなく、分母となる労働時間の把握も必要」と述べた。

 ChatWork社は「いつどれだけ働いたかを帳面に付けるような管理はしていない。社員は皆『チャットワーク』を使っているので、今何をしているのか、顧客と何を話しているのか、どのくらい頑張っているか、みんな見える。自由と見える化がセットになっている」(山口氏)そうだ。基本的には性善説だという。

 最後に田澤氏は、「テレワークは『自由』というわけではない。柔軟に働けるということ」だと強調した。

 また山口氏は「諦めないことが大事。今、自分はいっぱいいっぱいまで仕事をやっていると思うかもしれないけれど、まだまだ改善できる余地はある。ツールや制度を活用し、往生際悪く(効率性を)追求していくことが大事だし、われわれもそれを応援していく」と述べた。

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