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» 2016年02月02日 05時00分 公開

「長時間労働はエラい神話」はもう止めよう――テクノロジを活用して、効率を“往生際悪く”追求する働き方私は「諦めない」(2/2 ページ)

[高橋睦美,@IT]
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「諦めない働き方」を実践する人々

 後半では、働き手の側からリモートワークやテレワーク、新しい雇用形態について議論が交わされた。

竹下康平氏

 ビーブリッド 代表取締役の竹下康平氏は、「介護とITの組み合わせによって、介護という仕事を何とか楽にしていけないか」という活動に取り組んでいる。

 Facetime経由で参加した津田賀央氏は、東京から長野県富士見町に移住し、ソニーに在籍しながら自分の会社、Route Designも立ち上げたという異色の経歴の持ち主だ。週のうち3日はソニーの仕事をし、残りは自分の会社の仕事や家族との時間に当てる形で、「ダブルワーク」と「テレワーク」の両方に取り組んでいる。

 「よくいろんな人から『どうやれば自分の働き方を変えられるか、どう変えたらいいか』と相談されるが、『自分は何をしたら楽しいのか』『自分のモチベーションは何か』『自分に得意なことは何か、何ができるか』が分かれば、少しずつ変わっていくのではないか。逆に、そこを知らないまま働き方だけ変えても困るだけだろう」(津田氏)

大谷イビサ氏

 TECH.ASCII.jp編集長でITACHIBA実行委員の大谷イビサ氏は、全国津々浦々で取材してきた経験を踏まえ、「リモートワーク」「ダイバーシティ」「クラウドソーシング」「クラウド」、そして「ユーザーコミュニティ」の5つを、新しい働き方のキーワードとして紹介した。

 取材の中で、故郷の北海道でAWSを活用して農業とITを組み合わせた働き方に取り組むエンジニアに出会えた一方で、ツールや制度がありながら、会社の雰囲気や運用、上司や周囲の理解が壁という切ない現実も目の当たりにしたという。

 「長時間労働が文化として根付いている大企業にも、時短、効率化の波が押し寄せている。一方で仕事は増えるばかり。そうした中で、文化とテクノロジーの最適解を探っていかなければならない」(大谷氏)

「ソニー史上初」、ダブルワークとテレワークを実現できた背景は?

 議論の中では、「東京から長野県富士見町に移住し、ソニーに在籍しながら自分の会社、Route Designも立ち上げた」という前述した津田氏の働き方も注目を集めた。「ソニーにそんな制度があったんですか?」という野水氏の問いに対し、津田氏はきっぱりと「ないです。いろんな意味で史上初でした」と答えた。

 「会社も最初はびっくりしていたが、いろいろな巡り合わせや理解もあって実現できた。自らプレゼンテーションして説明し、上司と条件を詰めた。それから、就業規定に『他の会社に雇われないこと』とあるのを逆手に取って、『自分で会社をやるんだからいいだろう』と(笑)」

 この結果津田氏は、正社員とほぼ同じ扱いの年間契約社員という雇用形態で新しい働き方に取り組んでいる。長野に移り住んで感じたのは「圧倒的に働きやすい」ということだ。もともと長時間労働を苦にするタイプではなかったが、空気も食べ物もおいしく、疲れにくさに格段の違いがあるという。「東京を否定はしないけれど、週7日間いる必要はないかもしれない」(津田氏)

 同氏は「自分は人柱」と冗談めかして表現しながら、「今までは、会社を辞めたいわけではないけれど移住したいという人は、会社を辞めざるを得なかった。けれど今は、テレワークによって、離れていてもそれまでの仕事ができる時代になっている」と述べた。

津田賀央氏は、長野からFacetime経由で参加した

「年をとると長時間労働はきついんですよ」

 労働集約型産業の典型とも言われる出版業界。そこで働いてきた大谷氏は、「先日トップから『今年は本気で時短に取り組む』と言われ、驚いた」という。

 時には漫画などでも揶揄(やゆ)されるほど「つらい、つらいといいながら、長時間労働を自慢する」風潮が日本の世の中にはある。出版業界はその典型例だろう。「長時間労働が常態化しており、しかもそれに誇りを持っている。この中でどうやって時短を実現するか、まだ分からない」(大谷氏)

 ただ大谷氏自身は、「結婚して子どもができ、ライフスタイルが変わった。何より年をとってきて体力が続かない。だから今は19時には帰宅し、家族と一緒にご飯を食べて、子どもが寝てから仕事する、という働き方をしている」そうだ。さらに「実は米国とやりとりしていると、向こうも夜中にメールを返してくることが結構ある。夜中に自宅で仕事をするのは、日本も米国も変わらないのではないか」と言う。

 これを受けて野水氏は「どうやって『100%じゃない働き方』を認める社会にしていくかが課題かもしれない。今まで会社は『中途半端な労働力ならいらない』と言ってきた。でも正直、僕も年なんですよ(笑)。今はいいけれど、65歳になってもフルタイムで働けるかどうか」と述べた。

 自分が年をとれば、親も年をとる。介護離職も切実な課題だ。「介護離職によって、30代、40代の人にいきなり会社を抜けられてしまうと、非常にきついことになる」と大谷氏。その一方で、今のお年寄りを見ていると「とても元気で、頭もバキバキ働いている人もいる」と竹下氏は述べ、テレワークを活用し、働き方を変えることで、年をとっても能力を生かせる仕組みを整えていきたいとした。

新しい働き方を要求する前にコミットすべきこと

津田氏に会場の様子を見せるためにスマホを持ち続ける野水氏と後半の登壇者たち

 ここまで紹介されてきた新しい働き方。自分には無縁のもの、と思われるだろうか? 「やってみなければ分からない」と津田氏は言う。

 ポイントは「自分をどう変えるか。自分で自分を変え続け、風土を崩していけるか」ではないかと野水氏。大谷氏も「マネジャーがやってくれるのを待つのではなく、自分で変えていかなければならない」と述べた。

 「今はいろんなテクノロジがあるし、会社を出るという選択肢もある。賃金だけでなく、『働き方』も会社を選ぶ基準の一つになるだろう。働く側も要求するだけではなく、それを認めてくれれば何ができるかを提示することが大事。自分がコミットすることを明確にした上で、このように働かせてほしいと説明するのがスジではないか。それが納得いくものであれば、会社も『やってみろ』となるだろう」(大谷氏)

 最後に大谷氏は、前半で山口氏が述べた「諦めない」という言葉を引き合いに出し、「諦めないことが大事。まず上司に相談するなど、小さいところからスタートしてみてはどうだろう。マネジャー側も『今までの常識はこうだから』で諦めずに、考え方や制度を変えていかないと、優秀な人がどんどん辞めてしまうという危機感を持つべきでは」と述べた。

 確かに、働き方は一朝一夕には変わらないかもしれない。だが津田氏のように、きちんと説明し、自分のスキルを生かした新しい働き方を実践し始めている人は確実に増えている。諦めず、そうした先例に続くことの可能性を感じたイベントとなった。

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