自動運転トラクターに学ぶ、「運用自動化」と「運用自律化」の本質自動化/自律化が実現するのは、人の「代替」ではなく「アシスト」(3/3 ページ)

» 2016年03月11日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]
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「サービス提供者」としてのIT運用に欠かせない効率化、AI活用の可能性も

 セミナーの最後には、3人の講演者と@IT編集長 内野宏信による「運用自動化・自律化にまつわる疑問、全てを聞こう、答えよう」と題するパネルディスカッションが行われた。

photo 白熱した議論が交わされたパネルディスカッションの様子

 まず「可視化」や「効率化」「プロセス整備」といった自動化がもたらすメリット、「スピード向上」「伸縮性」といったクラウドのメリットを整理した上で、「ハイブリッドクラウド環境の運用管理のポイント」を確認した。

 加藤氏は「オンプレミス環境では問題が発生しても、いったん止めてメンテナンスすれば済んでいた。しかしハイブリッドクラウド環境ではシステムの影響範囲が広がり、勝手に止めるわけにはいかない。状況を把握し、影響範囲を確認する必要がある。可視化がやはり重要なポイントになる」と述べた。

 これを受けて渥美氏も「特にパブリッククラウドでは、『監視』は難なくこなせるが、『管理』が問題になるだろう。そもそも、ハイブリッドクラウド環境の在り方自体が固まらなければ、管理手法もふわふわしたままだ。現時点で唯一取り組めることはセルフポータルであり、それに向け、プロセスと運用の仕組みを作っておくことが必要だろう」と答えた。

 渥美氏がセルフポータルを重視すべきと考える理由は、「運用担当に『サービスを提供する』という意識が芽生える」からだ。「セルフポータルによって、エンドユーザーがボタンを押すだけでサービスを利用できるようになるだけでなく、サービスを作った側と使う側のコミュニケーションツールになる。セルフポータルを介して『もっとこうしてほしい』といったコミュニケーションが生まれれば、意識の改革や次のサービスにつながる」(渥美氏)

 ユーザーに対するサービス提供者という意識が生まれれば、どれだけ安いコストでサービスを提供できるかという視点にもつながる。限られた人手で増えるタスクをこなすには「効率化は必然であり、そのためにはどう考えてもツールは必要だ」(加藤氏)

 人手不足はIT業界だけに限らない。菅原氏によると農業もそうだし、建設業界もそうだという。「だからこそ、効率化が求められている。機械は単純作業を行い、人が判断するまでのアシストを行い、人が間違えることがあればそれを補っていく役割を果たす」(同氏)

 では、機械が人を補い、自動化を進める上で、昨今注目を集める「人工知能/AI(Artificial Intelligence)」はどんな役割を果たせるだろうか。

 加藤氏は「初めての障害が起きたときにAIを活用し、過去の現象に基づいて『こういう状況ならば、原因はこれではないか』と導き出せることに期待している」とした。そして「JP1ではどうなるかはまだ断言できないが、ツールも一緒に成長していくことが、運用の自動化・自律化につながるだろう」と述べた。

 渥美氏は「自動化は、今まで裏方のイメージの強かったIT運用が、前に出て行くチャンスになるかもしれない」と述べた。その鍵を握るのはコミュニケーションだ。「ある会社では、運用、企画、設計の全ての現場担当者が、ビジネスの方向性を理解し、それを見据えて取り組んでいる。うまくいっている会社に共通しているのは、IT運用担当者とビジネス部門や社外との交流が活発で、積極的に情報収集に取り組んでいることだ」(渥美氏)

 「運用の自律化」という方向性を打ち出しているJP1は、その中で、どんな役割を果たしていくのだろうか。加藤氏は「国産ならではの強みを生かし、しっかり品質管理をしていく。『今までの運用管理を変えたくない、今までのものを生かしたい』という日本の顧客のニーズにもしっかり応えていく」と述べ、ツール選択に際しては「プロセスとプロダクトのマッピングをした上で選択し、適材適所で使ってほしい」と呼び掛けた。

 IT運用にオープンソースソフトウェア(OSS)の活用を考える企業も増えている。だが渥美氏は、「OSSを扱えるだけの技術力がある会社ならばその方が安くつくだろうが、それができる企業は限られるだろう。機能に差がほとんどない以上、プロダクトを買うのは『保証』を買うということだ」と述べ、品質や保証といった部分にも目を向けるべきとした。

 加藤氏は、最後に「20年前と今とでは、求められる自動化のレベルが全く違う。とどまっていてはいけない。製品も運用管理の現場も成長していかなくてはならない」と結んだ。

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