ITシステムに、これまでの「静的な運用」ではなく、変化に応える「動的な運用」への変革が求められている。しかしこれを具体的に、どのように実現すれば良いのか。既に実践する他業種やエキスパートの取り組みから、そのヒントと具体策を探る。
企業を取り巻く環境が激変する中、昨今のITシステム運用には、ビジネスニーズに合わせて柔軟かつ迅速に変化に対応しながら、安定的にサービスを提供することが求められている。このような、従来の「静的な運用」とは異なる、変化に合わせた動的な運用を実現するにはどうすれば良いのか。その鍵は、「自動化」と「自律化」にある。
2016年2月19日に開催された@IT主催の運用自動化セミナー「自動運転技術で考える、消える運用管理者、残る運用管理者 “人しかできない”管理ポイントとは?」から、システム運用の自動化/自律化の実現に向けたヒントと具体策を探っていく。
ITシステム運用の自動化を考えるに当たっては、他の分野における「自動化」「自律化」に関する知見が大いに参考になる。そこで本セミナーでは、自動車やドローンなどへの適用で注目されている「自動運転技術」に着目。日立製作所 ソリューション・ビジネス推進本部の菅原敏氏(グローバルエンジニアリング本部部長)が最初のセッションに登壇し、「自動運転技術における具体的課題について」と題して講演。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州で進めている「トラクターの自律運転」に関する実証実験の取り組みを紹介した。
農業が一大輸出産業であるオーストラリアでは、農業も工業の一種と捉えており、農作業の省力化や自動化を取り入れたコスト削減に取り組んでいる。日本と同様に、オーストラリアも農業従事者の高齢化問題に直面しており、作業中の事故も少なくない。実証実験はこの課題を解決するために、「完全な自動化でなくても、作業者の支援のために使えないかという視点で取り組んでいる」という。
今回の実証実験は総務省の委託事業として、農機大手のヤンマーおよび日立造船と協力し、2014年10月から2015年3月にかけて進められたものだ。単にトラクターを無人で走らせるだけではなく、40センチ間隔で立毛する稲を踏まないように走行する「条間走行」と、肥料や農薬散布といった農作業の自動化に取り組んだ。
従来のGPS衛星に加え、準天頂衛星システムの高度測位信号と携帯電話回線を介して日本側と結んで解析、制御する仕組みにより、誤差5センチという高精度での自律走行を実現できたという。
重視したのは、「安全性」と「信頼性」の確保だ。「農作業は、人が作業車と協調して進める。この先も人の介在は必要である以上、安全対策は必須となる」。そこで「データだけで判断するのは困難なため、360度の視野を持つモニターを備え、周囲の状況を可視化した」。加えて、何か問題が起きたとしても暴走せずに停止するアルゴリズムも組み入れた上で実験に取りかかったという。
こうした取り組みからは、「データ解析による自動制御」「状況の可視化」「問題が起きても被害が拡大しないための工夫」など、「自律運転システムも、ITシステムも、本質的な課題はほぼ共通」であることがうかがえるのではないだろうか。ただ、完全自律化に向けては、技術的課題だけではなく、価格とのバランスや作業機器の制御技術に関する標準化、通信環境の整備、さらには法制度の整備や対応など、検討すべきことは多数あるという。
菅原氏は「“完全自動運転”を実現するまでには、法制度やコストとのバランスでかなりの時間がかかるだろう。現段階では作業者の支援システムという位置付けであり、人がすべきことと機械がすべきことの切り分けなど、人と機械の協調が重要なポイントになる」と述べ、セッションを締めくくった。
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