クラウドコンピューティングという言葉は、2006年に米グーグル(当時)のエリック・シュミット氏によって初めて使われました。クラウドコンピューティングに似た概念や技術はそれ以前からありましたが、近年急速に注目を集めるようになったのは、IT関連技術の急速な発展により、本来の概念通りの利用環境が実現可能になったからでしょう。
まず、クラウドのメリットを整理してみましょう。
コンピューティング資源やサービス(ソフトウェアや保守サービス)を都度調達していたこれまでのIT環境は、その資源を自社で所有することになる、つまり、企業はそれらを資産として計上しなければなりませんでした。固定費として継続的にコストが発生し、資産の減価償却処理なども必要でした。
一方のクラウドサービスでは、ユーザー側では(通常は)資源を持たない、つまり、「買う」ではなく「借りる」という考え方のため、資産として計上する必要がなくなります。企業はこれらのコストを資源としての固定費ではなく、サービスの利用量に応じた「変動費」として扱えるようになります。減価償却などの処理も不要にもなります。
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また、コンピューティング環境の運用管理はクラウド事業者側で行われます。新たに「サービス利用費」は発生しますが、これまで自社に運用管理コストとして掛かっていた「システム開発・構築費」「システム運用管理費」を削減できることになります。
この他、「サービスの購入・選定」の面において、従来は購入のために内容や価格などの調査や比較に時間や手間を要していた工数の大幅な削減なども期待できます。「ハードウェアの機能」の面においても、クラウドサービスはオンデマンドですぐにサービスを使えるので、企画・検討・調達から開発・構築・導入・サービスインまでの時間と手間が大幅に短縮されます。サービスをすぐ投入できる=工数を短縮できる、つまりは「スピード経営」が可能になるということですね。
さらにクラウドサービスは、「耐障害性や事業継続性」の面でも有効です。仮に大きな災害が発生し、自社が被災してしまったとしても、データはクラウド事業者側に残っています。関東と関西、あるいは日本と海外というように、離れた場所に多重化してバックアップを残して、“事業が止まらない”ようにする対策(BCP:事業継続計画/DR:災害復旧対策と呼ばれます)も比較的低コストでできるようになっています。
企業だけでなく、ユーザー(社員)にもさまざまなメリットがあります。業務でのIT依存度が高まると、実は、ユーザー側の運用管理の手間が増えがちです。普段使うアプリケーションのバージョンアップ、業務用ソフトウェアのインストールやアップデートなど、一度は「面倒だ」と思ったことがあることでしょう。
クラウドコンピューティングの技術は、これら“業務外”の管理作業をスッとなくし、「本来の業務に集中できる」環境を提供してくれます。
昨今は、オフィスワーカーのワークスタイルやライフスタイルも多様化しています。クラウドコンピューティングは、社員の在宅勤務やモバイルワーク、ノマドワークなども支援できます。これまで出社しなければできなかったことも、インターネットにつながる端末さえあれば、外出先でも、自宅でも、いつでも、どこでもできるようになります。
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