意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。
本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。
物件駅に止まるとその都市にある店舗や工場、農地などを購入することができる。これらを総称して「物件」といい、年度末(3月終了時)の決算で購入した物件の収益金をもらうことができるのだ (『桃太郎電鉄 タッグマッチ 友情・努力・勝利の巻! 公式パーフェクトガイド』より抜粋)
「桃太郎電鉄」というゲームをご存じですか。子どものころ、皆でプレイした経験のある方も多いのではないでしょうか。さいころを振って日本全国を電車で巡り、設定した年度までの総資産を競うゲームです。
前述のように物件を取得して、そこから得られる収益によって資産を増やしていくことになります。ゲームにおいては収益だけが計上されるのですが、現実の会計においては、収益だけでなく、費用(減価償却費)も計上されます。では、減価償却費とはどのような費用なのでしょうか。今回は、「減価償却」について解説します。
今回は、「桃太郎電鉄」で以下の物件を第1期に買ったとして、話を進めていきます。
取得価額 | 収益率 | |
---|---|---|
白馬のホテル | 10億円 | 2% |
浜松のピアノ工場 | 10億円 | 5% |
鳥取の二十世紀梨園 | 8000万円 | 8% |
「桃太郎電鉄」では、3月末になると上記の取得価額に収益率を掛けた金額だけ、収入があります。収入は、
合計7640万円ですね。
桃太郎電鉄での決算の結果は以下のようになります。
ゲームの世界では、20億8000万円の支出について、価値の減少は認識されません。
現実世界では、資産は買った当時の価値を維持し続けません。ホテルはお客さんが使っていくうちに痛んできてしまいますし、ピアノ工場で使う組立機械も、使用するにつれて、劣化していくでしょう。
しかし、実際に毎年どのくらい劣化するのか把握するのは、なかなか難しいものがあります。ホテルを1年間事業に利用したら、どのくらい価値が下がるのでしょうか。会計上では、決まった計算式に基づき、取得価額のうちの一部を費用とします。価値の減少の認識を「減価償却」と呼び、費用は「減価償却費」と呼びます。企業会計では決算において減価償却を行います。すなわち、減価償却費を計上し、固定資産を同額減少させます。それだけ資産価値が減少していることを決算書に反映させるのです。
それでは、決まった計算式とはどのようなものなのでしょうか。最も有名なのは、「定額法」と「定率法」です。次に2つの方法について、具体的に見てみましょう。
減価償却の代表的な方法である「定額法」では建物などの減価償却費に関して、以下の算式で費用を求めます。
耐用年数とは、使用可能期間のことです。
白馬駅のホテルは、すべて建物、50年使用できると仮定しましょう。すると、減価償却費は、
となります。定額法というだけあって、毎期同じ金額(ここでは2000万円)で減価償却費が計上されていきます。
同じく、こちらも減価償却の代表的な方法である「定率法」では、機械などの減価償却費の計算に関して、以下の算式で費用を求めます。
ここで、一定率は耐用年数を基に決定します。
浜松のピアノ工場は、すべて組立機械であり、8年使用できると仮定しましょう。8年の場合、一定率は0.313です。すると減価償却費は、
となります。
定率法の場合、翌期は異なる減価償却費になります。ここでは無関係ですが、2期目の減価償却費も計算してみましょう。まず、取得価額のうち、まだ減価償却していない金額は、
となりますね。この金額に一定率を乗じます。
となります。
定率法の場合、最初の期に減価償却費がたくさん計上されます。
減価償却されない資産もあります。代表的なものは土地です。土地は、時間が経過しても劣化しないため、減価償却費は計上されません。鳥取の二十世紀梨園はすべて土地、減価償却されないと仮定しましょう。
そうすると、最初の期の減価償却費は、
2000万円+3億1300万円=3億3300万円
となりました。
企業会計による決算の結果は、
赤字決算となってしまいました……。
このように、現実の会計においては、支出した20億円を「減価償却費」として毎期費用計上することになります。そのため、ゲーム内の計算とは異なる結果となります。
最後に2つの代表的な減価償却の方法についておさらいしておきましょう。
新築のマンションを購入する際、減価償却の考え方は有用かもしれません。マンションには耐用年数までしか住めないため、資産価値が毎年目減りしていることになります。利息や税金・修繕費などの諸条件を抜いて考えると、年間100万円で賃貸マンションで暮らすのと、(建物部分)5000万円の新築マンションを50年の耐用年数で購入するのは、同じことだとも考えられます。
車やマンションなど高額の買い物をするときには、それらが未来永劫使用できるわけではないことも念頭に置いておくとよいですね。それではまた。
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
イラスト:Ayumi
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