主要なオープンソースソフトウェアと商用ツールに注目しながら、運用自動化のノウハウ、ポイントを基礎から紹介してきた本特集。今回はクラウドのメリットを生かし切る運用自動化のポイントを、運用管理に深い知見を持つTISの高橋和也氏がリアルな観点から徹底解説する。
システム構成を後から動的に変化させることができるクラウド環境では、運用方法もそれに適したものに変えていくことが求められる。本稿では「従来の環境での運用」と「クラウド環境での運用」の相違点をまとめ、クラウドの特徴を最大限に活用するために押さえておくべき運用自動化のポイントを、実際のサービスやツールの例を交えて紹介する。
まず、クラウド時代の運用はどうあるべきかという本題に入る前に、クラウドの特徴を簡単におさらいしておこう。従来の物理環境や仮想環境と比較したクラウドの特徴として、大まかに以下の4点が挙げられる。
クラウドの大きな特徴の一つが、必要な時に必要な量だけリソースを調達し、不要になれば返却できるという点だ。従来のようにハードウェアを自前で調達する場合、必要なハードウェアの要件を決めて発注を行い、納品されて実際に使えるようになるまでに長期間を要する。しかしクラウドならば、契約さえ済ませていれば必要なリソースを指定するだけですぐに調達することができる。
またハードウェアは一度調達すれば減価償却費やリース料金といった形で、使用状況にかかわらず一定のコストが発生し続けるが、クラウドでは使用量に応じた従量課金が行われることが多い。そのため必要な時に必要なだけリソースを確保し、不要になればすぐに返却することができればコスト削減につながる。
新たなビジネスを立ち上げたり、試験的なサービスを提供して反響を確認するといった場合には、最初は小さく始め、必要に応じて徐々に規模を拡大していくスモールスタートが欠かせない。リソースの確保・開放が柔軟に行えるクラウドはスモールスタートに最適である。
ハードウェアを自前で調達した場合、後からリソースを増強したり設定変更を行ったりする際に、手作業でキッティングや設定変更などの作業を行う必要が出てくる。こうした作業は時間がかかるだけでなく、自動化することが困難だ。
クラウドでは、リソースの調達・破棄や各種設定をAPI経由でプログラムから指示できるため、定型作業をスクリプト化しておけば容易に作業を自動化できる。また、他のシステムと連動させることで、状況に応じて自動的に設定を変更することも可能になる。
特に主要なクラウドではAPI経由で各種操作を行うためのライブラリやツールが充実してきており、自動化のためのハードルは年々下がってきている。各種作業を自動化できれば人的ミスの削減につながり、運用作業の属人化も防ぐことができる。また主要なクラウドサービスでは、手動でインスタンス台数の増減を行うだけでなく、負荷状況に応じて自動的に台数を変動させるオートスケーリングの機能を提供しているものが多い。こうした機能を利用すれば、負荷に応じて自動的にリソースの増強を行うことも容易に実現できる。
運用において、最も自動化が困難な個所はハードウェアの保守である。ハードウェアに何か障害が発生した場合、どうしても手作業による交換などが必要になる。しかしパブリッククラウドの場合は、ハードウェアの保守をクラウド事業者が行うため、運用担当者が手動で行わなければならない作業を削減することができる。また社内でプライベートクラウドを運用する場合でも、ハードウェアの保守を個々のプロジェクトの運用担当者からクラウドの運用担当者に集約することで工数の削減が期待できる。
自前で複数地域のデータセンターを借りて冗長化を行うのは、それなりに規模のあるシステムであればまだしも、小規模なシステムでは予算面で厳しいことが多い。また実際に複数の地域に配置した場合、いざというときに各地に駆けつけられる技術者も確保しておく必要がある。主要なパブリッククラウドでは複数の地域でサービスを提供している他、複数の地域を利用することによって料金が上がることもないため、大規模な災害に備えたBCP対策が容易になる。
以上のようなクラウドの特徴を生かすことで、従来の環境では難しかった、負荷に応じて自動的にサーバー台数を変動させるオートスケーリングや、最初は小規模な構成で始めて徐々に拡張を行うスモールスタートを行うことが可能になる。
しかし従来の運用方式では、システム構成が頻繁に変動することを想定していないことが多い。従来の運用方式をそのままクラウドに持ち込むと、負荷に応じて自動的に台数を増やすことが可能になっても、監視やバックアップといった運用系のシステムには人が手動で更新するまで反映されないということにもなりかねない。クラウドによってもたらされる価値を最大限に活用するためには、各種運用作業の自動化も合わせて行う必要がある。
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