AHVの比率が15%に達したとしても、未だに大多数のユーザーはVMware vSphereでNutanixを使っていることになる。ヴイエムウェアは「VMware VSAN」というソフトウェアストレージ製品を提供開始し、一定の成功を収めている。また、同社もVMware vSphereとVSANを、ハイパーコンバージドインフラのためのソフトウェアとして提供している。
もし、ヴイエムウェアを信頼している企業で、「AHVなど使う用途はない」という場合、ヴイエムウェアのソフトウェアで構成されるハイパーコンバージドインフラではなく、ニュータニックスの製品を選ぶ必要はどこにあるのか。この素朴な疑問を、ニュータニックスの会長兼CEOであるDheeraj Pandey(ディーラジ・パンディ)氏に投げ掛けてみた。
Pandey氏はまず、同社の製品のメリットがストレージソフトウェアだけでなく、運用フレームワークの「Prism」にもあると反論する。Prismは、ヴイエムウェアでいえば「vRealize Operations」に相当するような、仮想化環境の可視化やパフォーマンス管理、キャパシティ管理の機能を、使いやすいツールとして提供している。
ニュータニックスは今回のカンファレンスで、運用担当者が全くvCenterに触ることなく、日常の運用を完結できる機能を提供すると発表している。
Pandey氏は続けて、一般企業には多様な環境が併存しているという事実があり、vSphereは、これに対応する共通基盤になり切れていないと主張する。
「vSphereをどれだけ広範に活用していたとしても、隣にはHyper-V環境があったり、物理サーバが残っていたりするものだ」(Pandey氏)。単一の技術に全てをまとめ切れないところに、一般企業における運用担当者の悩みの1つがある。
例えば、どうしても物理サーバで動かしたいデータベースがあったとする。これをヴイエムウェアのハイパーコンバージドインフラで取り込めるか。
ニュータニックスは、今回のカンファレンスにおける発表で、2016年7月に提供開始の4.7リリースが、「Acropolis Block Services(ABS)」というブロックストレージインターフェースを搭載すると発表した。これを使って、データベースのストレージをNutanix上に移行できるとする。仕方なく物理サーバに残すソフトウェアのために、専用ストレージ製品を調達し、専門家による運用を依頼する必要はない、Nutanixに統合することで、高いパフォーマンスと可用性を提供できると、ニュータニックスは主張する。
ABSは、汎用のブロックストレージインターフェースであり、ブロックストレージを必要とする全てのアプリケーションに対応できるという。ニュータニックスでは既に、「Acropolis File Services(AFS)」と呼ぶファイルストレージインターフェースを提供開始している。現在は、容量拡張が自動的に行えないなどの制限があり、用途をデスクトップ仮想化におけるユーザーディレクトリなどの用途に限定しているようだ。
ABSとAFSが本格的に使えるようになれば、仮想マシンだけでなく、あらゆるデータをNutanixのソフトウェアストレージに集約できることになる。
また、Pandey氏は、「日本では事業継続が今でも課題になっているはずだ」と言い、ディザスタリカバリ(DR)でvSphereを対向で使わずとも、ESXiの仮想マシンをAHV形式で遠隔バックアップでき、コスト効率の良い対策が可能になるなど、「vSphereの運用に柔軟な選択肢を提供できる」と強調した。
Pandey氏が主張するように、管理プラットフォーム「Prism」は、ストレージソフトウェアと並んで、Nutanixの大きな特徴だ。Prismでは、検索を用いた直感的な運用管理もユニークで、注目できる。例えば複数の仮想化環境を混在運用している場合、仮想マシン形式ごとに検索・リストする、特定の仮想マシン名で検索し、トラブルシューティングをすることもできる。
PrismはESXi上の仮想マシンのみを対象とした場合でも、vRealize Operationsに似た機能を使える。だが、複数の仮想化環境、そして場合によっては物理環境、コンテナ環境が混在する状態で、これらを横並びに管理する際、上記の統合的で直感的な運用が生きてくるといえそうだ。
Prismは、ニュータニックスにとって、自社製品を差別化する上で最も重要な機能だ。上記のように、物理環境、複数の仮想化環境、コンテナ環境といった多様な環境を、運用担当者が社内ユーザーに対してサービスとして提供するために必須のツールになるということが、Prismで同社が掲げるゴールだ。
だが、今回のカンファレンスでは、マイクロソフトの提携で、Microsoft Cloud Platform System(CPS)を7月に提供開始すると発表した。また、OpenStackからNutanixを管理できる環境が整ったとしている。これらは、Nutanixが、他の管理フレームワーク/管理ツールから管理される対象になるという発表だ。前出のPotti氏はこれについて、意図的にオーディエンス(対象顧客)を広げるための戦略だと説明している。
これは、VMware vSphereについて同社が実行してきたやり方と似ている。vSphereでは、vCentterを活用して仮想マシンの払い出しなどができる環境を保ちながら、Nutanixで取得した情報に基づいて、パフォーマンス管理やトラブルシューティングなどが直感的にできる環境を提供してきた。
そして今回、運用担当者がvCenterに触ることなく、ESXi仮想マシンに関する一条的な運用作業が、全てPrismから行えるような機能を、近い将来に提供すると発表した。
つまり、ESXiに関しては、まず相手の懐に飛び込んで管理対象となり、その後に主導権をとって自社の管理ツールで完結する運用を実現するというやり方を選択している。Potti氏はこれと同様に、Hyper-V/AzureやOpenStackでも、最終的にはPrismから全ての運用ができるようにすることを目指すと話している。その先にあるのは、社内ITインフラ/プライベートクラウドとパブリッククラウドにまたがる、統合運用ツールあるいはオーケストレーションツールとしての役割だ。
ニュータニックスは、今後どのように製品を進化させていくか。具体的に見えているのは下記のような点だ。
まず、サーバ、ストレージに続き、ネットワークの機能を充実させる。当初実現するのはネットワーク接続の可視化機能。トップ・オブ・ラック・スイッチから取得した情報を、Nutanixで把握している仮想マシン単位のネットワーク情報と関連付け、物理、仮想双方の接続状況について、ダイアグラムとして分かりやすく表示する。この画面で問題を把握し、スイッチの管理画面を立ち上げてトラブルシューティングを実施するという一連の作業を、簡素化するという。
ネットワーク関連ではその後、「オートスケーリング、NFV(ネットワーク機能仮想化)、マイクロセグメンテーションなどの機能を、段階的に提供していく」と、Potti氏は話す。。同氏は、マイクロセグメンテーションについては、「Open vSwitch上でACLを適用することで、VMware NSXよりもシンプルな仕組みが作れる」と話していたが、VXLANなどのプロトコルによるカプセル化(ネットワーク仮想化)も検討しているようだ。NFVについては、他社のソフトウェアネットワーク製品との連携を推進していく。
また、パブリッククラウドの運用管理機能を強化する。Prismでは、オンプレミスの環境に加え、主要パブリッククラウド事業者にユーザーが展開する環境を、一括管理できるように進化させていく。
Pandey氏は、例えばAWSが独自のAPIを提供していることを批判。「これでは容易に他の環境へ移行できず、ユーザーの自由が阻害される。パブリッククラウドは、標準のAPIを採用すべきだ」と話す。一方で同氏はニュータニックス自身のツールにより、「多様なクラウド サービスのAPIを抽象化し、ユーザー企業がクラウド間で、臨機応変にアプリケーションを移動できるような環境を作りたい」と話した。ただし、これには「10年くらいかかるかもしれない」という。
プレジデントのSudheesh Nair(サディーシュ・ネア)氏の表現はもっと直接的であり、挑戦的だ。同氏は米アマゾンおよびAWSに敬意を抱いている一方、AWSがフルスタックのクラウドサービスに成長し、ユーザーをロックインする傾向を強めていると話す。「AWSをやっつけるためには、(他社との)エコシステムを通じて、(オープンな形で)AWSよりも優れたものを作っていく必要がある」としている。
Nair氏の言う、エコシステムを通じたオープンなフルスタックサービスも、いつ実現するかは分からない。だが、ニュータニックスが他社の力を借りながら、インフラより高いレイヤーの機能も提供しようとしていることは明らかだ。
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