IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「レンタルサーバに保管したデータの保全責任」をめぐる裁判を紹介する。誰もバックアップを取っていたなかったデータが消滅したら、誰が責任を取るべきなのか?
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IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回までは3回に渡って「多段階契約」にまつわる争いを解説した。
今回は、顧客から預かったデータの管理をめぐる裁判例を解説する。
データを格納したサーバを運用するインターネットプロバイダーが、誤って顧客のデータを滅失(めっしつ)させてしまったら、責任はどこまで及ぶのか。
顧客のサーバを運用する立場の読者、顧客の情報を自社のサーバに入れて管理する立場の読者、そして業者にデータを預ける立場の読者にも、是非読んでいただきたい。
まず、事件の概要を紹介しよう。
ある建築業者がインターネットプロバイダーとレンタルサーバ契約を締結した。建築業者はレンタルしたサーバ上に宣伝用のWebサイトを開設し稼働していたが、プロバイダーはサーバを貸しているだけで、Webサイト自体の運用については請け負っていなかった。
ところがある時、プロバイダーが運用上の都合から、Webサイトのデータファイルを別のディレクトリに移し替える作業を行った際、誤ってデータを滅失してしまった。このファイルは、もともと建築業者が自己のPC上で作成し、サーバに転送したものであったが、この時点ではPC上にデータが残っておらず、また、建築業者、プロバイダー共にファイルのバックアップを取っていなかったため、Webサイトは建築業者が再構築する他なかった。この再構築に当たり、プロバイダー側から建築業者側に作業料として仮払金3000万円が支払われたが、結果として建築業者が使った費用は400万円だった。
作業は終了し、Webサイトは再開されたが、建築業者はプロバイダーに対して、その再構築費用と公開中断による逸失利益の損害賠償 約1億円(※)を求めて訴訟を提起した。
「再構築費用の支払い」については双方合意している。プロバイダーは「自社のミスでデータを滅失してしまった以上、仕方がない」との考えだろう。
しかし「逸失利益」については主張が対立している。
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