東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は多段階契約の落とし穴を解説する。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、分割検収後に既払い金の返還をユーザーがベンダーに求めた裁判例を基に、多段階契約について解説した。
1つのプロジェクトを複数の段階に分け、おのおの個別に契約する「分割検収(多段階契約)」は、ユーザーとベンダー双方にとってメリットがある。しかしプロジェクトが途中で頓挫した場合は、検収や支払いがどこまで行われるべきかについて難しい問題にも発展し得るという内容だった。
今回も前回に続いて多段階契約の問題を取り上げる。プロジェクトが途中で終わった際の支払いについて争われた裁判例だ。今回は、支払いを受ける下請けベンダーに大きな非が見受けられないにもかかわらず、元請けベンダーが後続フェーズの契約をしなかった事例だ。
あるユーザー企業が、インターネットで商品の受注や製品マニュアルのダウンロードをするシステムの構築を元請けベンダーに依頼し、元請けベンダーは作業を下請けベンダーに発注した。下請けベンダーは元請けベンダーに対して、構築を4フェーズに分けた見積を提示し、基本契約とフェーズ1の個別契約を締結して、プロジェクトを開始した。
プロジェクトは順調に進んでいたが、フェーズ2の作業が完了し、支払いもなされた後、元請けベンダーはフェーズ3の契約を結ばず、プロジェクトは中断した。下請けベンダーは、基本契約を結んでおり、フェーズ3以降の契約は当然にあるものと期待していたため、元請けベンダーの債務不履行と不法行為を訴え、残金約1700万円の支払いを求めて訴えを起こした。
下請けベンダーはフェーズ3の作業に一部着手はしていたが、全ての作業を完遂したわけでもない。残金全ての支払いを求めるのはどうかとも思うが、期待していた売り上げが1700万円も減れば、経営への影響は大きかったのだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.