阿部川 これは「お仕事だからね」って(笑)。
お子さんは2人、8歳と6歳で、まだ多少手が掛かる年齢ですね。日本と米国では環境が違うと思いますが、育児で工夫してることはありますか?
中尾氏 私は出張が多いので、分担することをあらかじめきちんと決めておくのが重要です。今週も私が1週間いないので、子どもの送り迎えから宿題の手伝いまで、全部うちの夫がやっているんです……。
阿部川 旦那さんお1人で? ご両親に預けたりしないで?
中尾氏 できないんですよ。私の両親は日本にいますし、彼の両親は台湾なので。だから私が出張に行っている間は彼が1人で頑張るしかなくて。もうシングルダディになってますよ(笑)。
もちろん、抜けるところは手を抜いて、助けを求められるところは求める、アウトソースできることはそういう方法を取るといったことも必要です。どうしてもどちらかが家に居ないといけないようなときは、家で仕事することもあります。会社にはそういう点の柔軟性があって、理解もあります。
阿部川 ご主人はエンジニアなんですよね。お子さんが大学生になって「エンジニアになりたい、IT業界に行きたい」と言ったら、どういうアドバイスをしますか?
中尾氏 「無報酬でもいいからインターンしてきなさい」って言うと思いますね。
「何かが好き」でも、「その会社でする仕事が好きかどうか」は違うと思うんです。だから、インターンできるならすべきで、経験してから自分で決めた方がいいと思います。
私も大学院時代、経験をさせてもらうためだけに「押し掛けインターン」みたいなことを結構したんです。やってみて分かったことはたくさんありました。
阿部川 グローバルで活躍する、あるいは競争力を持って業界で活躍するためにエンジニアに必要な素養ってありますか?
中尾氏 デザインセンスやビジネスセンスを兼ねそなえると、どんどんキャリアが伸びていくのかな、と感じます。
阿部川 ゲーム業界にいる20代や30代の若いエンジニアは、どういうことを考えればいいと思われますか? やっぱりマネジメントは学ぶべき、とか。
中尾氏 それは「どういうキャリアを積んで行きたいか」「何がしたいか」によりますよね。
向き不向きは別として、「マネジメントをしたいのか」と。特にエンジニアは、何らかの形で楽しめないと仕事ってできないと思うんです。だから挑戦していきたければそうするべきだし、得意分野を徹底的に磨き、マネジメントは他の人にやってもらいたいと思うのであれば、そうすべきだと。
阿部川 「ちゃんと自分の気持ちと話をする」ということですね。
中尾氏 自分の気持ちを分かっていないと、「本当はこんなことしたくなかった」という瞬間も出てくると思うんです。もしそう感じたら、「転職しようかな」「ちょっと違う勉強をしてみようかな」と考えることも大事です。
阿部川 Kabamに日本人のエンジニアはいますか?
中尾氏 日系米国人のエンジニアはいますが、日本から来た日本人のエンジニアはいないかも。日本人を採用しないわけではなくて、たまたまですけれど。エンジニアはいろいろな国の方がいますから。
阿部川 最近はエンジニアの国籍がある意味ナンセンスになってますよね。とてもいいことだと思います。
日米双方の会社で働いたことのある中尾さんにお聞きしたいんですけれど、日米で「働く」ことに違いはありますか?
中尾氏 昔から言われている「米国では、はっきり言わないとダメ」というのは、今でもそうだと思います。
米国は自分を表に出していくことを子どものころからたたき込まれる文化の国なので。「言わなくても分かってあげよう」という日本の文化とは全く違うんです。だから米国で働くのであれば、自分の意見をはっきり言わないといけない。はっきりでなくても、最低「言わなくちゃいけない」のです。
アイデアを出し合って1番いい方法を探るスタイルでは、会話をしないとダメなんです。すごくいいアイデアがあっても、シャイだとか、英語が苦手だとかで話ができなのはダメ。
英語が下手でも、米国人は気にしてないんです。意味が分かればそんなのどうでもいいという人の方が多いです。
特に若いころは、フレッシュなアイデアがどんどん出てくるじゃないですか。そういうアイデアを聞きたい仕事仲間はたくさんいますから、積極的に話していくといい。そうすべきじゃないかな、と思います。
1週間のアジア出張の最後に、指定のインタビュー時刻に間にあわせるため、わざわざ北京から日本へ、そして羽田から麹町へと、文字通り世界を飛び回って中尾さんは来てくれた。大変有り難く、名誉なことだと思った。「出張はいつものことなので……」と、小さな旅行バッグ1つで現れてくれた彼女は、エネルギッシュな笑顔を見せた。
彼女がゲーム業界で長く仕事をしている理由は、テクノロジーとエンタテインメントが親和性を持ち、「人を楽しませることができる」業界だからだ。
「もし息子がゲーム業界に進みたいと言ったら? それが本心からのもので、リサーチやインターンなど努力の後に出した結論であれば、もろ手を挙げて賛成するわ。でも華やかなイメージだけを見ていたり単なる思い付きだったりしたら、真っ向から反対するけど」と答えた彼女は、「タイガーマザー」ならぬ「なでしこマザー」の、優しいだけではない隠れた強さを一瞬だけ見せてくれた。
アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。
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