この日から、「私はいったい何をしたくてここにいるのか?」「そのためにどうするべきなのか?」を、脳が汗をかくくらい徹底的に考えた。
そしてある日、「あ、そうか!」と悟った。
「私は、評論したり文句を言ったりするのではなく、実現するためにどう動けばいいのかを考えなければならないのだ。これが20代と30代の違いだ。目の前のあれこれに愚痴るのではなく、解決策を考え、自ら行動することが期待されているのだ。それができないなら、自分の実力不足だと反省すべきだ。ベテランになるとは、そういうことなんだ」
つきものが落ちたような気分だった。それから少しずつ、「考え方」に加え「行動」も変化した。
気が付けば上司に呼ばれた日から半年以上たっていた。しかし、その後「営業への異動」の話は全く出てこない。「あれはいったいどうなったのだろう?」と上司に尋ねてみた。
「淳子さん、すごく変わったでしょう? 社長も『淳子さん、変わったね』と言っている。皆気づいている。だから、あの話はもういいんだよ」
上司の答えを聞いて、彼があのとき「営業へ行け」と行ったのは、評論が過ぎる私に「頭を冷やせ」と伝えたかったのだと分かった。
それまでの私は、「したいこと」「すべきだと思うこと」「この方が良くなると思うこと」がたくさんあっても、「誰かがそれをやればいいのに」と無意識に考えていた。自分は管理職でもないし、その担当でもない。「経営者がしっかり考えればいい」「上司がちゃんとやればいい」「それは私の役割ではない」――そんなふうに思っていた。
しかし、あのときの上司の言葉が、「あれこれ評論している場合じゃない。自分が動かなければ!」と気付かせてくれた。
冒頭で引用した文章には続きがある。
誰かがチャンスをくれるのを待つのではなく、自分でつかみに行った方が良い面がたくさんあります。
自分でチャンスをつかみに行く。そのために考えて、動く。評論するのではなく、行動に移す。
あのときの上司の言葉は、20年以上たつ今も心に強く刻まれ、自分を振り返るのに役立っている。まさに、言葉のチカラだ。
3年と1カ月、自分が受け取った言葉や誰かの経験として聞いた言葉をモチーフにコラムをつづってきました。これを読んでいる方も、いろいろな人からたくさんのすてきな言葉を受け取っているに違いありません。言葉のチカラ、今回が最終回です。ありがとうございました。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント
1986年 上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで、延べ3万人以上の人材育成に携わり28年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。
日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
著書:「ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方」(日経BP社)「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)など多数。
電子書籍「『「上司はツラいよ』なんて言わせない」(ITmediaのebook)、「田中淳子の人間関係に効く“サプリ”――職場で役立つ30のコミュニケーション術」(ITmediaのebook)
ブログ:田中淳子の“大人の学び”支援隊!
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