「こうした方がいい」「ああした方がいい」と会社への希望を日々口にしていた淳子さんに上司が言い放った言葉とは?――言葉の宝物を紹介する本連載、最終回は淳子さんが「変わる」きっかけになった言葉だ。
人材育成歴30年の田中淳子さんが、人生の先輩たちから頂いた言葉の数々。時に励まし、時に慰め、時に彼女を勇気付けてきた言葉をエンジニアの皆さんにもお裾分けする本連載。前回は、淳子さんが体験した「忘れられない上司の言葉」を2つ紹介した。今回も淳子さんに影響を与えた上司の言葉だ。
数年前に大ヒットした書籍「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」(ティナ・シーリグ、阪急コミュニケーションズ、2010)に、こんな文章がある。
人間は2つのタイプに分かれることが分かってきました。自分のやりたいことを誰かに許可されるのを待っている人たちと、自分自身で許可する人たちです。
この1節を読んで、20年も前の出来事を思い出した。
私が30代のころのことだ。勤め先の経営者ががらりと代わり、経営も組織も大きく変化した。しかし私はその変化になかなかついていけなかった。上司たちが何を言っているのかもよく分からなかったし、自分たちが求められていることも腹落ちしていなかった。
同じ状態だったのは、私だけではなかったのだろう。変化に対して抵抗を示す人、新しいやり方に戸惑う人、新しい組織に馴染もうとする人――組織全体が混沌(こんとん)としていた。
古株社員としての自負があったのだろう。血気盛んだった30代の私は、何か問題があるたびに「これって、こういうふうになっている方が良いと思うんですよね」「こうあるべきではないのでしょうか?」と口にしていた。上司に対してもよく文句を言っていた。あるべき論を口にし、言い方も結構キツかった(だろうと思う。そのときは自覚していなかったが)。そのため、あちこちで人とぶつかった。
ある日上司に呼ばれて会議室に行くと、上司はホワイトボードに絵や文字を書きながらこんなことを話し始めた。
「会社には、こうした方がいい、ああした方がいいと評論する人、つまり『評論家』と、こうした方がいいと思ったことを主体的に行動に移す人の2種類がいます。大きな会社には、こっちがたくさんいます」
そう言って「評論家」という文字に下線を引いた。
「でもね、うちみたいな立ち上がったばかりの少人数の会社には、こっちの人は要らないんだよね」
今度は「評論家」という文字の上に大きく「×」を書き、こう続けた。
「淳子さんはこの部署に長くいるけれど、他の仕事を経験するのも悪くない。例えば営業をやってみるのはどうだろう? ちょっと考えてみて」
ずっと人材開発のコンテンツ開発や講師をしてきた私に「営業へ行け」と言うのは、かなり唐突な話であった。「今のままだったらあなたは要らない。他の仕事をしてよく考えろ」というメッセージだと受け取った。戦力外通告である。
仕事に就いて10年、こう淡々と「あなたはここには不要」というニュアンスのことを言われたのは初めてだったので、私は衝撃を受けた。
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