「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」とは何か、その文脈とは特集:ハイパーコンバージドインフラの課題と可能性(2)

「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」の利用が広がりつつあります。過去1、2年で製品は大きく進化してきました。この進化を踏まえ、HCIとは何かをあらためて分かりやすく解説します。

» 2017年01月19日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 「ハイパーコンバージドインフラ」あるいは「ハイパーコンバージドシステム」と呼ばれるITインフラ製品群が、話題になることが増えてきました。この種の製品は急速な普及が見込まれています。例えば調査会社のガートナーは2016年5月に、HCIが2016年末には20億ドル、2019年には約50億ドルの市場に拡大、将来の主流になるとの予測を出しています。また、IDC Japanは2016年12月に、国内のHCI市場について、2015年の40億円から2020年には289億円に拡大すると予測しにています。

 では、「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」とは何でしょうか。

 「ハードウェアとしてはサーバ(コンピュータ)のみで構成するITインフラシステム。データ管理(ストレージ)機能は、外付けのハードウェア(装置)でなく、サーバで動かすソフトウェアとして実装されている」

 これが最低限の、標準的な定義だと考えられます。

 補足すると、次のようになります。

基本構成要素はサーバ機、ストレージソフトウェア、仮想化ソフトウェア

 HCI製品にはさまざまなバリエーションがありますが、基本構成要素はサーバ機、ストレージソフトウェア、そして仮想化基盤ソフトウェアです。HCIはほとんどの場合仮想化環境を機動的に展開・利用できるようにすることを目的としていますので、仮想化基盤ソフトウェアが導入・構成済みとなっています。

サーバ機の構成は柔軟になってきた

 HCI製品は、物理的には1システムが複数のサーバ機、あるいはブレードサーバでいえば複数のサーバブレードで構成されます。

 以前は2Uサイズのモジュール型サーバ(ブレードサーバのような製品)に、CPUおよび記憶媒体を搭載したコンピュートモジュールを4枚搭載できるような製品が典型的でした。こうしたハードウェア構成は一定の密度を実現できるため、現在でも提供されています。一方、最近ではさまざまな形状のサーバ製品に、CPUおよび記憶媒体の種類および容量を選択して構成できる製品が増えてきました。

ストレージは、単にソフトウェア化されたわけではない

 データ管理、あるいはストレージ機能に関しては、サーバ機内蔵のハードディスクドライブおよびSSDを記憶媒体として用います。ストレージソフトウェアは、各サーバに搭載された記憶媒体をまとめ上げ、あたかもサーバ機が全て単一のストレージに接続しているかのように、共用の領域として提供します。

 HCIの定義において、ストレージが「サーバで動かすソフトウェアとして実装されている」と書きましたが、以前よりソフトウェア形態のストレージ製品は存在していました。これと何が違うのでしょうか。

 これまでの一般的なソフトウェアストレージ製品では、複数のサーバ(コンピュータ)でストレージソフトウェアを動かします。これについては変わりません。

 大きな違いはサーバ機能との接続方法にあります。これまでのソフトウェアストレージでは、基本的にストレージ機能を動かすサーバと仮想マシンを動かすサーバが別であり、これらの間をケーブルで接続し、iSCSIやNFSなどのストレージアクセスプロトコルを使ってデータ通信を行います。一方、HCIに搭載されるストレージソフトウェアは、多くの場合、サーバ機能とのデータの読み書きを直接行います。サーバ上で動く仮想マシンは、同一のサーバ機上の記憶媒体、あるいは他のサーバ機が搭載する記憶媒体に対し、iSCSIやNFSを使わずに、データの読み書きを行います。

 こうした構成では、特に同一サーバ内でストレージI/Oが完結する場合、アクセスプロトコルによる負荷やアクセス競合が考えにくくなるため、SSDのように記憶媒体の高速化が進むほど、有利と考えられるケースが増えてきます。

 このように、ストレージソフトウェアはHCIにおいて一定の重要な役割を果たすため、HCIベンダーでは独自技術を搭載しているケースがよく見られます。

仮想化基盤ソフトウェアにも選択肢

 サーバ仮想化といえば、最も広く利用されているのはVMware vSphereです。このため、HCI製品を展開する全てのベンダーは、vSphereを搭載した製品を持っています。一方、Hyper-Vという選択肢を用意しているベンダーがあり、ニュータニックスのようにKVMベースの独自ハイパーバイザを追加的に提供している企業もあります。

導入および拡張が容易に行える点がポイント

 HCIでは、導入および拡張が短時間で、容易に行えることが重要なポイントです。これに伴って、スモールスタートができ、ITインフラ投資における無駄を減らしやすいメリットが生まれています。

 HCI製品では、サーバ機に仮想化基盤ソフトウェアとストレージソフトウェアが導入・構成済みで納入されます。ハードウェアでは選択肢が増えていると書きましたが、1社が提供する統合製品だということもあり、サイジングは一般的に短時間で行われます。納入されれば、典型的にはネットワーク関連を中心とした設定で、数十分以内に利用を開始できます。拡張についても、ニーズに応じたCPUリソースおよび記憶媒体・容量の製品を追加調達しさえすれば、作業自体は半自動的に実行できるようになっています。

 このため、従来のように、「5年間のニーズを想定して大きめの性能・容量を調達し、結果的に大きな無駄が発生してしまった」といったことを防ぎやすくなります。

 また、特にニュータニックス製品では、独自の運用ツールを提供し、日常の利用や運用を、専門家でなくともやりやすくしています。

企業の社内ITインフラがHCIに至る文脈

 HCIに至る文脈については、「コンバージドインフラの派生形(あるいは発展形)」としての説明ができます。

 日本の場合、サーバ仮想化の普及期に立ち戻るのが適切だと考えます。米国などでは以前より「ストレージ統合」と呼ばれる動きがあり、複数のサーバが利用するデータを、単一のストレージ装置において運用することが行われていました。日本でも一部の企業は同様なことをしていましたが、サーバ仮想化の普及に伴い、こうしたストレージ装置の利用は一般化しました(仮想化していない重要なアプリケーションについても、ストレージ装置は使われています)。

 サーバ仮想化では、複数のサーバ機を仮想マシンが移動する可能性があります。言い方を変えれば、サーバ仮想化では文字通りサーバ機を仮想化し、どのサーバ機でも動くことが、耐障害性、メンテナンス性の点でメリットを生み出しています。一方でサーバ仮想化における安定性能および信頼性の源泉はストレージ装置であるという認識が高まり、性能と機能を備えたストレージ専用装置が広く使われてきました。サーバ仮想化環境が多くの企業における全社ITインフラとして広まるとともに、ストレージ専用装置は広まっていきました。

 一方で、ストレージ専用装置とサーバ機の選定、調達、および仮想化ソフトウェアと組み合わせた環境構築などでは時間とコストが掛かり、また、特にストレージ装置の運用には専門知識が必要とされ、IT要員を豊富に持たない組織にとって負担が大きすぎると言われるようになってきました。

 このニーズに応えるべく登場したのが「コンバージドインフラ(統合インフラ)」でした。ストレージ専用装置を、サーバ機(および場合によってはネットワークスイッチ)と組み合わせて構成し、これに仮想化ソフトウェアを導入した形でユーザー企業に納入する、文字通りの統合インフラシステム製品です。洋服でいえばパターンメイド的な仕組みによって、上記の選定、調達、環境構築のプロセスを短縮し、製品によっては利用者用のポータルを搭載し、さらにサーバ機、ストレージ装置、仮想化ソフトウェアに関する一括サポートを提供するなどで、ユーザー組織が迅速に、なおかつ運用管理を気にすることなく、サーバ仮想化環境を利用できるということをメリットとして訴えました。

 その後、ストレージ専用装置を使った統合インフラシステムでは、スモールスタートがしにくく、機動性や柔軟性に欠けるといった点を突いて登場し、広がってきたのがHCIです。

 1つの背景には、サーバ仮想化環境の運用経験が豊富になるにつれ、仮想化環境を最初に導入した当時ほど、性能要件や可用性要件に余裕を持たせる必要はないとの認識が高まってきていることが考えられます。

 もう1つの背景としてはCPUおよびSSDの進化もあります。サーバCPUの価格性能比は過去数年間で大きく向上し、同一サーバ上で仮想化環境とストレージソフトウェアを同時に動かすのに十分な処理能力が、比較的低コストで得られるようになってきました。

 一方、サーバおよびストレージでフラッシュメモリの利用が広がってきましたが、オールフラッシュストレージの専用装置でも、ハードウェア的には汎用サーバにSSDを搭載したものが大部分を占め、この点では仮想化環境を稼働するサーバにSSDを搭載するのと大差がない状況になっています。

用途は今後も拡大を続ける

 HCIの用途は、今後さらに拡大することが予想されます。最近、ビジネス部門のITにスポットライトが当たりつつあります。ビジネス部門のITには、これまで企業の全社的ITインフラ環境で賄われてこなかったものが多くあります。こうしたITニーズを満たすためのパブリッククラウドの利用も広まってきました。

 ただし、純粋にコスト効率だけを考えれば、パブリッククラウドの料金が高すぎると考えられる場合もあります。こうしたITを社内で運用するために、情報システム部門がインフラを提供する、あるいはユーザー部門が自らITインフラを調達する際、機動的に利用できるITインフラ製品として、HCIが広く使われていく可能性があるのです。

 次回は、HCI製品について具体的に解説します。

特集:ハイパーコンバージドインフラの課題と可能性

ハイパーコンバージドインフラ(HCI)は、企業データセンターにおけるITインフラの主流になると考えられている。なぜなのか。普及にはどのような課題があるのか。本特集では、文字通りHCIのAからZまでを、さまざまな立場の読者に向けて紹介する。




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