スポンサー賞の「弥生賞」を受賞したのは、AMATELUSが開発した「SwipeVideo」だ。「SwipeVideo」は、複数のカメラで被写体を撮影した動画を作成したり、その動画をスワイプ操作で別アングルへスムーズに切り替えて再生したりできる。
従来の360度動画は、風景を見渡す動画に適している。だがさまざまアングルから人を中心としたモノを見る動画には適していなかった。SwipeVideoは、その弱点を克服し、スワイプ操作によって、どのアングルからでも人が中心にいる動画を作成することができる。その意味から、SwipeVideoが実現している動画作成/再生方法は、360度動画に次ぐ第4世代の動画再生手法ともいわれている。
バレットタイム撮影は、映画『マトリックス』で採用されて有名になった動画作成技法で、SwipeVideoは、この技法を応用して人を中心にした動画を作成することができる。こうした特徴から、SwipeVideoは主に3つの分野で活用できると考えられている。1つ目は、映画などのエンターテインメント分野。2つ目はスポーツ分野で、ゴルフの練習や、ボクシング、柔道といった競技などに適しているとされている。3つ目は技術分野で、美容室での髪のカット訓練など技術研修での活用が有望とされている。
AMATELUSはSwipeVideoを3つの販売形態で法人向けに提供している。1つ目はクラウドサービスによる従量課金モデル。2つ目はローカル配信システムで、手元のPCから特定のスマートフォンだけに配信できる。3つ目は自社クラウド組み込みライセンスモデルで、自社サーバを活用したい企業向けに、角川アスキー総合研究所がフルサポート込みで提供している。
スワイプ動画は、既にヤフーが同様の疑似3D動画サービスを提供しているが、同じスペックサイズの動画で比較すると、SwipeVideoの方が、解像度が約3倍以上、通信データが約8分の1となっているという。
SwipeVideoの性能の秘密は、独自に開発したストリーミング方式にある。従来の方式は、全ての動画をあらかじめダウンロードして、そこから表示する動画を選択して再生するため、通信量が膨大になる。そのため通信量を少なくするためには解像度を下げるしかなかった。一方SwipeVideoは、スワイプの際に必要な動画を1本だけ受信すればいいため、通信量を少なく抑えながら、高い解像度の動画を再生できるという。
スワイプ動画の技術でもう1つ重要になるのが、スワイプの切り替え時間だ。スワイプの切り替えは0.05秒程度にできなければ、スムーズなスワイプを実現できない。SwipeVideoは、独自開発のストリーミング方式によりこの問題をクリアしている。また接続できる動画の数はこれまで最大20台程度にすぎなかったが、SwipeVideoは最大6万5536台まで画質を落とさず、しかも通信量を増やすことなく接続することができるという。
AlpacaDBが提供する「アルパカアルゴ」は、金融トレーディングの勝ちパターンをディープラーニングを活用してアルゴリズム化するサービスだ。
金融トレーダーは、株価の値動きやボリューム、企業の基礎情報、ニュース、投資家レポートなど、膨大な情報を収集、分析して投資判断を下している。もしこれらの情報をAIを使って効率的に分析できれば、金融トレーダーにとって大きな助けになるはずだ。
アルパカアルゴは、トレーディングの勝ちパターンをディープラーニングを使って学習し、投資アルゴリズムを作成するサービス。金融トレーダーが画面上の過去チャートから、勝ちパターンと考える範囲を選択すると、アルパカアルゴのディープラーニングエンジンがそれを認識し、パターンに対応した投資アルゴリズムを作成する。アルゴリズムに合致した状況が発生すると、アルパカアルゴがトレーダーに通知するか、証券会社のシステムに接続して自動で取引する。
2016年3月にサービスを開始して以来、わずか1年で3万以上のアルゴリズムが作成され、現在もクラウドで株価の値動きを監視している。現在、アルパカアルゴは米国の証券会社FXCMと提携してサービスを提供しており、その実取引総額は既に1億ドルを突破している。2017年2月には日本でも松井証券との提携を発表している。今後は、こうしたAIツールをコンシューマー向けに提供する計画だという。
アルパカアルゴは、Azureで稼働しており、Azure N-Seriesを使って、アルゴリズム作成の超高速を実現している。またアルパカアルゴは、3万のアルゴリズムに対応する大量の金融時系列データをデリバリーするために、独自開発したデータベース「MarketStoreDB」を使っている。このデータベースは、Azureの高速インスタンス「DV2シリーズ」で作動しており、データ書き込みで339MB/s、データ読み取りで530MB/sを達成しているという。
AlpacaDBは、トレーダーのアイデアをAI化して再現性を付与し、カスタマイズを加えることによって、さらに精度の高いアルゴリズムを作成できると考えている。そうしたAIモデルを実現するエンタープライズ向けの開発プロジェクト「Alpaca Algo Pro」に取り組んでいるという。
運送業界の業務効率向上を目指してCBcloudが開発した「軽town」は、個人事業主として活動する軽貨物ドライバーと荷主をインターネットでマッチングするサービスだ。
全体の6分の5を中小零細企業が占めるトラック運送業界は、属人的なピラミッド構造による配車効率の悪さや高齢化の進行、ドライバー報酬の低下、労働力不足などの課題を抱えている。一方、EC市場の拡大に伴って、配送ニーズは高まっており、即時配送や配送の個別化も進みつつある。CBcloudは、こうしたミスマッチを解消する目的で軽townを開発したという。
軽townは、全国の配送依頼と全国のドライバーをつなぐ透明性の高いプラットフォームで、軽貨物輸送の新たなマーケットプレースとしての役割を果たす。これによって中抜きを実現できるため、配送のタイムロスをなくしたり、配送コストを削減したりすることができる。またドライバーにとっては報酬水準が上がるというメリットがあるという。
配送依頼は、スマートフォンで行うことができ、その方法はシンプルだ。まず依頼者は、希望配送日と配送ルートを設定して、依頼情報を送信する。その情報を見て、ドライバーが希望価格を設定してエントリーする。依頼者は、ドライバー名と希望価格、評価が表示された一覧を見てドライバーを選択し、配送の依頼をする。そして、配送終了後に依頼者がドライバーをレビューするという流れになる。
このマーケットプレースの試みによって、依頼者とドライバーは「選び、選ばれる」関係になる。良い評価が付けられることで、配送依頼が増えるためドライバーの報酬もアップする。一方依頼者は、好きなときに必要な台数だけ配送車を手配することが可能になり、大幅なコストダウンを実現できる。軽townは、98%のマッチング率、15分以内の配車を実現しているという。
CBcloudは今後、若手ドライバーを育成し、B2Cへの展開を図り、徒歩や自転車を使った配送もプラットフォームに組み込むことを計画している。またアジアへの進出も考えているという。さらに、運送に関わるあらゆるデータをAzureに収集し、AIやディープラーニングなどの技術を取り入れ、サービスの強化を図っていく。
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