同じ「データベースのクラウド移行」、なのに違う!? AWSとオラクルの「戦略の違い」を理解するDatabase Watch(2017年5月版)(2/2 ページ)

» 2017年06月14日 05時00分 公開
[加山恵美@IT]
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オラクルは「Oracle Databaseのクラウド適応とSIとの協業」で顧客を後押しする方針

 Auroraがクラウドでの利用を前提にしてこれまでのRDBを再構築したのに対し、古くからオンプレミス型商用RDBの典型であるOracle Databaseはどうでしょう。

 Oracle Databaseの最新版(2017年5月時点)「Oracle Database 12c Release 2(以下、12.2)」は、まず2016年9月にOracle Cloud上で利用できるようになり、続いてアプライアンスのOracle Exadataが登場、そして2017年3月には、オンプレミス向けに展開されました。12.2ではインメモリデータベースの機能強化やビッグデータへの対応の他に、クラウドへの最適化も当然強化されています。

余談ですが、新機能や新バージョンがクラウドサービス上で先行展開されるのは、マイクロソフト(Microsoft Azure上で)のSQL Serverも同じです。データベースベンダーが提供するクラウドを使うメリットとして、「データベースの最新機能をいち早く利用できること」ともいえるようになってきました。



photo オラクル データベースサーバ技術担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのアンディ・メンデルソン氏

 Oracleのデータベース・サーバー技術担当 エグゼクティブ・バイスプレジデント アンディ・メンデルソン氏は、オラクルが重視することとして「顧客がこれまで行った投資を保護すること」を強調します。オンプレミスで長らくOracle Databaseを稼働させている顧客が多く存在するからこそ、顧客のビジネスを支えるシステム資産を保護しながらも、安全かつスムーズにクラウドのメリットを享受できるような開発、サービス施策を練っています。

 Oracle Databaseでクラウドを意識させる機能の中心となるのが「マルチテナント」です。マルチテナントは、データベースを「プラガブルデータベース(PDB)」と呼ばれる小さく複数の単位にして仮想化し、「コンテナデータベース(CDB)」に統合して運用するアーキテクチャのことです。データベースの移動やクローニングなどを容易にするこの仕組みによって、クラウドへの移行、クラウド間の移動などを想定した運用効率や利便性の向上に寄与しています。

 12.2ではこのマルチテナントの仕組みが強化されました。1つのCDBに接続できるPDBが前バージョンである12.1の256個から4096個まで増え、CDBでCPU、I/Oリソース、メモリを共有しながらも、PDBごとにリソースの優先順位を設定できるようになりました。より大規模な環境への拡張に対応できると同時に、用途に応じてより細かく管理していくことも可能になったことになります。

 また12.2では、PDB間でメタデータやデータを共有できる「アプリケーションコンテナ」が導入され、PDBの一括管理や改修が容易になりました。例えば、SaaS(Software as a Service)の運用管理工数削減に寄与します。

 他にも、PDBを「システム停止なしで、オンラインのまま実行可能」とする機能が増えました。例えば、オンラインのままクローンを作成できる「PDB ホットクローン」、本番環境のコピーとして作成したテスト環境のPDBを、本番環境のPDBと同じになるようにリフレッシュする「PDB リフレッシュ」などが挙げられます。併せて、ダウンタイムなしでPDBを別のコンテナに再配置する機能なども備わりました。

 このようにOracle Databaseへの機能拡張を振り返ると、どうしても細かい話が多くなってしまいます。しかし最近のオラクルを見ていると、こういった細かい機能の話というよりは、「顧客の変革をいかに支援するか」「クラウドを顧客に届けるエコシステムをいかに作り上げるか」といったように、企業単位・ビジネス目線での変革を提案する取り組みが目立っているように感じています。

 単にクラウド化といっても、プライベートクラウド、パブリッククラウド、さらには、オンプレミスと併用するハイブリッドクラウド、他のクラウドとも連携させるマルチクラウドまで、さまざまな選択肢があります。例えば顧客のデータセンターで稼働させるプライベートクラウドであれば、データベース特化型アプライアンス「Exadata Database Machine」をベースにしてプライベートクラウド環境を構築する選択肢があります。こちらは、ハードウェアを購入し、システム管理も資産管理も顧客が行う、従来型のスタイルです。一方、同じプライベートクラウド(ちなみに同社は、プライベートクラウドではなく「プライベートとパブリックの中間、パブリッククラウドの新形態」と説明しています)でも、「Exadata Cloud Machine」や「Oracle Cloud Machine」と呼ばれるオラクル独自のサービスも用意されています。名称は似ていますが、サービス形態が大きく違うので少し注意が必要です。

 Exadata Cloud Machineは、顧客のデータセンターへサーバを設置し、Exadataベースのデータベース機能と(Oracle Cloudと同じ)クラウド環境を構築する“構築後のシステム構成”は、Exadata Database Machineとほぼ同等です。しかし、ハードウェアとソフトウェアは「貸与」という扱いとなり、ハードウェアの運用管理もオラクルが行う──つまり、「サービス」として提供されるのが大きな違いです。

 また、オラクルが提供するパブリッククラウドであれば、まず「Oracle Cloud」があり、「DaaS(Data as a Service)」、Oracle Databaseの機能をサービスとして提供する「Database Cloud Service」、Exadataの機能をサービスとして提供する「Exadata Cloud Services」など、顧客のニーズに合わせたラインアップが数多く用意されています。もちろん、他社のパブリッククラウド上でOracle Databaseを稼働させる選択肢もあります。

 最後に、日本ではパートナーとの協業を推進していることもポイントになりそうです。近年、日本オラクルはパートナーとの協業を発表する機会が増えています。例えば2016年7月には富士通と、2017年2月にはNECと戦略的提携を行いました。この他、日本オラクルは新たなパートナープログラム「Oracle Cloud Managed Service Provider(MSP)プログラム」などによって、パートナーとの連携姿勢を強化しています。こうした施策により、オラクルはパートナー経由で顧客がOracle Cloudを使う機会を増やそうとしています。「独自のシステムやSI(システムインテグレーター)を通じて開発した」「海外にデータを出せない機密情報がある」など、クラウドへ移行しにくい“さまざま事情”が多いとされる日本企業向けならではと思える手厚い施策と言えそうです。



 さて、AWSはクラウドを使うための機能を「サービス」として1つ1つ開発し、豊富に取りそろえているのが強みです。そして、こうしたサービス群を組み合わせて、AWSに最適なデータベース「Aurora」を作り上げました。こういったスピードの速さはAWSの何より強力な武器。これからも改良を加えて鍛えられていくことでしょう。

 一方のオラクルは、2017年現在もオンプレミスでOracle Databaseを利用する顧客を多く抱えています。当然、ミッションクリティカル領域で利用する顧客も多く、開発済みアプリケーションやハードウェア資産も既に多数あることでしょう。だからこそ、「クラウドとオンプレミスを行き来できる(クラウドへの一方通行ではない)」「オンプレミスとクラウドの“中間”的サービスも用意する」などの戦略が評価ポイントとなります。

 つまり両社は、立場も、顧客から期待されることも少し異なると言えます。そのために、アプローチもかなり違うように見えるわけですね。しかし、共通点もあります。それは「クラウドで、データベースを最適な状態で使えるようにする」ことです。併せて、「変革を望む企業へ、適切なソリューションで支援する姿勢」もそうかもしれません。

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