──ブロックチェーン技術の将来像をどう見ていますか?
石井氏 AIも、ロボティクスも、IoTも、自動化を実現しようとしています。それらは学習データに依存して動きます。大きな問題は、全てクラウドで処理しようとすると、帯域幅を多く使ってしまうことです。その結果、レイテンシ(遅延時間)も大きくなります。冒頭でも説明しましたがブロックチェーンはリアルタイム性に弱い。しかし世の中は自動車やロボットなどをリアルタイムに自動的に動かす方向を目指しています。
そこでクラウドとデバイスの中間に計算能力がある「フォグコンピューティング」を設置する考え方が出てきています。クラウドとフォグ、デバイスのそれぞれにAI的なものが入り、それぞれでデータの監査が必要になることを考えると、ブロックチェーンベースのフォグコンピューティングが必要になるのではないでしょうか。
──デバイスも、フォグもみんなブロックチェーンで監査可能になる。そうなると、ブロックチェーンは重要なインフラになります。
石井氏 そうです。私が考えているイメージでは、OSのファイルシステムやTCP/IPのように、ブロックチェーンが上位層を支えるインフラ機能の位置付けになります。監査可能なデータを管理するインフラです。
ただし、ブロックチェーン以外の技術で同じことができる可能性はあります。Googleの子会社DeepMindは、英国の医療機関向けに個人情報をリアルタイムに追跡できる「Verifiable Data」を実現するシステムの開発を進めています。Verifiable Dataはブロックチェーンのアイデアを参考にしているが、ブロックチェーンではないとDeepMindが述べています。
──耐改ざん性があるデータインフラのニーズは必ずあるだろう、ということですね。それはブロックチェーン以外の技術になるかもしれないけれども。
──機械学習には多くのデータが必要です。また現状、大量のデータを持っているのは巨大企業です。この現状についてどう考えていますか?
石井氏 今は、多くのデータを押さえた方が企業として優位に立てるという考え方があります。大手ECサイトで買い物をすると、データは運営会社に残ります。しかしこれはユーザーの立場から見た場合、フェアではありません。そのため、ブロックチェーンを使い、個人でデータを管理する方法が、今後登場するのではないかと考えています。
──データの民主化や、データ市場のような世界が実現すると、自分のデータがお金を生んでくれるようになるかもしれませんね。
石井氏 私たちはWebを閲覧したり、スマートフォンを持ち歩いたりしています。そこで集まったデータをGoogleのような会社が収集することで、多くの人が無料でさまざまなサービスを使っています。ブロックチェーンが広がることで、その形式自体が変わってくると思います。
データをユーザー側で管理して、そのデータを「企業が使ってもいいよ」と許可して預ける。データを預かった会社は、そのデータを活用して、分析したり、新しいサービスを開発したりする。ユーザーはデータの利用料を企業から毎月もらっていきます。
──銀行が利息を払ってくれるようなイメージですね。
石井氏 そうです。持っている人が少ない種類のデータだと利率が上がる。そうした世界が考えられます。
──長期的な話として、どのような方向性を目指していますか?
石井氏 人類は、「移動」の問題を普遍的に解決しようとしていると思っています。これまで馬車を作り、鉄道を作り、自動車や飛行機などを作ってきました。そして私たちは、それに対して対価を払って移動している。移動の究極の姿を考えると、人を乗せて自律的に飛ぶ有人ドローンで、目的地まで移動できるような姿が考えられます。メールやファイルを送るような気軽さで自分を送る。自律的に飛ぶ有人ドローンを、飛行機に乗るぐらいの感覚で使えるようになる。
このビジョンを実現するにはAI、ロボティクスが欠かせません。そしてその技術を確立するには、データに信頼性を与える仕組みが必要です。そういうビジョンから逆算して、現在ブロックチェーンに取り組んでいます。今すぐビジネスになるかと聞かれると、そこは分かりませんが(笑)。
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