「白瀬は、確かに幾つかのプロジェクトを立て直し、成功に導きました。しかし残念ながら、銀行業務については十分な知見を持ち合わせておらず、ITについても素人です。彼が得意とする製造業ならいざ知らず、箱根銀行の責任者として成果を上げることは難しいかと思います」
「そ、そんな」
別府は困ったように美咲を見つめたが、美咲は小さく首を振るだけだった。白瀬も、少し迷った後、美咲に続いた。
「確かに、今の私には荷が重過ぎるお話です。コンサルタントとしてプロジェクト改善の提言はさせていただけますが、実際にプロジェクトを回すには銀行の業務知識が必須です」
「へっへ。結局、口先だけってことか?」と唇を引きつらせて笑う草津を、白瀬がにらみつけた。
「草津さん。あなた、その口の悪さはワザとですね」
つづく
「コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望」第4話は9月14日掲載です。白瀬と美咲のその他の事件解決譚は、書籍『システムを「外注」するときに読む本』をご覧ください。
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※この連載は、本書制作時に諸所の事由から掲載を見送った「幻の原稿」を、@IT編集部が奇跡的に発掘し、著者と出版社の了承を得て独占掲載するものです
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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