箱根銀行の与信管理システムはバグだらけだった。粗い要件定義書、荒ぶるユーザー担当者、銀行業務に明るくないシステム開発会社、プロジェクト失敗の原因はどこにあったのか?――ITコンサルタント白瀬と江里口は事件を解決できるのか?
仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)。連載「コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望」は、本書制作時に諸般の事由から掲載を見送った「幻の原稿」を、@IT編集部が奇跡的に発掘し、著者と出版社の了承を得て独占掲載するものです。
白瀬智裕がコンサルティングを担当する「箱根銀行」で、トラブルが発生した。開発会社「ゴールウェイテクノロジー」に発注した与信管理システムがバグだらけで使いものにならないのだ。
特に大きいのがALMシステムとの接続不具合。「監督官庁と約束した2018年1月までに何がなんでもシステムを完成させないと損害賠償を請求する」と、箱根銀行 システム部の草津係長は激高する。
問題解決の糸口をつかむために、白瀬は問題のシステムを見せてもらうことにした。
「これが問題のシステムですか」
打ち合わせの後、白瀬は別府部長に頼んで、出来かけの与信管理システムを見せてもらうことにした。対応したのは情報システム部の赤倉課長だ。
「なかなかきれいな画面ですね」
与信先の登録や与信枠の設定のボタンが並ぶメニューなどの画面はほぼ完成しており、一見すると何の問題もないように思える。
「見た目はね。でも、ちょっと動かすとすぐに止まっちゃうのよ」と、赤倉はため息をつきながら答えた。
白瀬は続いて、画面右下にあるボタンを指さして「この『外部データ取り込み』というのは?」と尋ねた。
「ああ、外部の情報ベンダーから融資先企業のランクを取り込むの」
「ランク?」
「経営の安全性を示すランクよ。情報ベンダーは、企業の財務状況などを分析して、その会社を格付けしているでしょ。『A』とか『B+』とか。銀行はその情報を取り込んで、融資枠決定の判断材料にしてるのよ。箱根銀行の取引実績とも掛け合わせてね」
白瀬が外部データ取り込みのボタンを押すと、外部情報ベンダーから、その時点での企業情報が取り込まれ、程なく正常終了した。ALMシステムへのデータ受け渡しと違って、スマートな操作だった。
「こっちの通信機能は、ちゃんとできているんですね」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.