箱根銀行はここ数年、システム開発プロジェクトが失敗し続けている。「与信管理システム」はALMが接続不良、「ネットバンキングシステム」は相次ぐ要件変更でプロマネがダウン。トラブルの元凶はシステム部の草津係長にあると読んだ、ITコンサルタントの白瀬と江里口が調査を進めると、とんでもない事実が!!!――書籍『システムを「外注」するときに読む本』のスピンアウトストーリー、最終回は江里口が何かを飛ばします。
仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)。連載「コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望」は、本書制作時に諸般の事由から掲載を見送った「幻の原稿」を、@IT編集部が奇跡的に発掘し、著者と出版社の了承を得て独占掲載するものです。
「箱根銀行」の与信管理システム構築プロジェクトが頓挫した。
調査に乗り出したITコンサルタントの「白瀬智裕」と「江里口美咲」は、箱根銀行 システム部の草津係長が故意にプロジェクトをかき回し、開発会社「ゴールウェイテクノロジー」がプロジェクトから撤退するように勧めていたことを突き止めた。
「自分は箱根銀行を退職するので後はよろしく」と開き直る草津に、白瀬は疑問をぶつけた。「草津さん。その口の悪さはワザとですね?」
「草津さん。その口の悪さはワザとですね? あなたはネットバンキングでも与信管理でも、ベンダーをののしり続けてプロジェクトを混乱させた。それだけじゃない。与信管理ではわざとALM接続の要件をいい加減に設定して、ゴールウェイを追い出した」
白瀬智裕は箱根銀行の草津システム係長に、たたきつけるように言葉をぶつけた。
「あなたは、最初から意図的にプロジェクトをつぶしたんだ」
「はっ、何の話だか分からないね」と、小ばかにしたように草津は首を左右に振った。
「とぼけるな! あなたは『外部ベンダー接続機能』では詳細なインタフェース要件を定義していながら、『ALM接続(※)』についてはわざと何も定義せず、ベンダーにもろくに説明しなかった。当然、ベンダーはALMに接続するための機能を作らない。あなたはそれを知りながらしばらく放置し、もう間に合わない段階になってから、『ALM接続は必須だ』なんて言い出した。そうやってベンダーを責め立て追い出したんだ。違うか!」
白瀬の大きな声が室内に響き渡った。
「へ、変な言いがかりはやめてもらおう。一体、何の証拠があってそんなことを」と動揺する草津に、江里口美咲が話し掛けた。
「草津さん。ご転職、そしてご結婚おめでとうございます」
「一体、何なんです?」と首を傾げる草津に、白瀬が再び話し始めた。
「実は私、昨日もこちらにお邪魔しましてね。赤倉課長に伺いましたよ、あなた経理部の女性社員と婚約されているそうですね。そして、彼女はゴールウェイへの支払いと返還業務を担当している。そうですね?」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.