「し、しかしベンダーは、『自分たちは○○ができない』なんてわざわざ言わんでしょう。素人のわれわれに、ベンダーの弱みなんて見抜けるわけがない」
別府の言葉を聞いた美咲は、大きく息を吐いていったん気を落ち着かせてから話を続けた。
「プロジェクトを組成するときに、ベンダーにメンバーの『スキルマップ』と『スキル育成計画』を出させるんです」
「スキルマップと育成計画?」
「プロジェクトを実施するのに必要なスキル――業務知識やプロジェクト管理能力からデータベースやプログラミングスキルまで、とにかく必要なもの全てと、メンバーにその時点で当該スキルがあるかどうかを書き出すんです。これが『スキルマップ』。そして、スキルの足りないメンバーは、いつまでにどのようにスキルアップさせるかを書かせます。これが『育成計画』です」
「どのように?」
「『研修を受けさせる』でも『OJT』でもいいです。業務知識は『ユーザーに講習会を開いてもらう』のもいいでしょう」
「それを作れば、確かにベンダーの弱みは分かりますね。しかしベンダーが正直に作りますか?」
別府は半信半疑な様子だった。
「ユーザーに『スキル育成計画を作ってほしい』と言われれば、ベンダーは『このユーザーには虚勢を張らずに済む』と考えるんです。むしろ、ないスキルをあるように見せかけることを危険に思うでしょう」
「なるほど。そうかも知れませんね」
「大切なことは、ベンダーの弱みを共有して一緒に解決しようという姿勢を見せ続けることです。ベンダーが本当にユーザーを信頼するまで」
「ベンダーの信頼をユーザーが獲得するという発想は、確かになかったです……」
「『あなた方はプロだから、後はよろしく』なんてやり方は、全くの逆効果ということです。別府部長、この点においては、あなたより草津の方が正解に近かった。少なくとも彼は、ベンダーを盲信なんてしなかったから」
「分かりました。早速、大江戸の担当者を呼んで話してみましょう」
「ええ。それがいいです。『とにかくお互いの弱みを早いところ出し尽くしましょう』って言い方をすれば、ベンダーも虚勢を張ってできないことをできるなんて言わないはずです」
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