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» 2017年12月12日 05時00分 公開

微細化の限界は超えられる?――IoT時代の主役「Arm」のCEOが考えるテクノロジーの未来Go AbekawaのGo Global!〜Simon Segars編(2/3 ページ)

[取材・文:阿部川久広(Go Abekawa),@IT]

マイクロプロセッサ、Armとの出会い

阿部川 サイモンさんのキャリアやライフスタイルについてお伺いします。英国エセックスのお生まれで、サセックス大学で電子工学を学ばれました。具体的にはどのようなことをされていましたか?

サイモン氏 「ホームコンピュータ」という概念が登場した時代で、私はまだ十代の後半でした。プログラミングだけではなく、コンピュータ全般に対して魅かれていました。中でも、ソフトウェアを作ることに熱中しました。電子工学を学んでいる学生でもプログラミングができる人間はそれほど多くありませんでした。研究室では組み込み型のプログラミング、例えば交通信号機のコントロールなどの簡単なものをプログラミングしていました。電子工学とコンピュータの間でさまざまなことを学んでいたと言っていいと思います。

 コンピュータがどうすれば動作するのかを考える過程で、マイクロプロセッサに興味が広がってきました。機会があってインターンとして「STC」という会社に入りました。当時、STCは大規模なテレコム会社で、ファイバーオプティックスのプロジェクトにたくさんの投資をしていました。そこで本当の意味でのエンジニアリングを学ぶことができたと思います。その後、ある業界紙の記事で「Arm」という企業が設立されたことを知りました。「この会社に入れば、英国でマイクロプロセッサを作る仕事に就ける」と思い、直接会社に手紙を書いて面接を受けて採用されました。

阿部川 そこであなたは16番目のArmの社員となるわけですね。

サイモン氏 はい。いわゆる典型的なスタートアップ企業であり、全社員が1人でさまざまなことを同時にこなすような忙しさでしたが、私にとってはとてもよい環境でした。毎日の業務を楽しんでやっていました。スタートアップ企業に勤められて、とても良かったと思います。

阿部川 1992年にはアップルから「Newton」が発売されます。私はこのときアップルに勤めておりました。Newtonの中には「Arm6」が搭載されていましたよね。

サイモン氏 当時の上司がコードネームで新製品の名前を呼んで、興奮して話してくれたのを覚えています。私は直接このプロジェクトに関わっていなかったのですが、画期的な製品の登場ということでオフィスには新品のNewtonがありました。実は今でも私のオフィスにはNewtonが置いてあります(笑)

阿部川 マンチェスター大学に行かれたのはその後ですか?

サイモン氏 はい。仕事をしながら毎日就業後に勉強し、マイクロプロセッサの消費電力に関するプロジェクトを手伝いました。Armの最初のアーキテクチャを開発した、同大学のスティーブ・ファーバー(Steve Furber)教授が指導してくれました。休みのときに集中してカリキュラムを勉強し、1996年に修士号を修得できました。

未来を予測できるArmの強みとは?

阿部川 マイクロプロセッサに関してお聞きします。Armは基本的に製造機能を持たない企業ですから、将来プロセッサに何が必要か、あるいは要求されるかなどを事前に十分調査して予測し、長期的な計画をもって設計図を開発しなければならないと思います。例えば「Arm7」は多くの携帯電話に採用されました。これは、その時点で、未来を予測できていたのでしょうか? あるいはどうやって未来を予測するのですか?

サイモン氏 Armでは「特定の課題に対して具体的な解決策を見つける」というプロセスを何年もの間繰り返し、積み重ねることでより進化した製品を作り続けています。ある製品がその後、どのような実用例に適応されていくかを予測する力があります。

 現在開発中の製品を、チップレベルまで実現させるには今後1年、製品として出荷できるのは恐らくその2年後ぐらいになるでしょう。製品に何が必要となるかを予測できなければ良い製品は作れません。パートナー企業が常にベストを尽くして一緒に仕事をしてくれることもArmの強みです。

回路の微細化の限界を超える方法

阿部川 「回路を微細化する余地はあと1桁しかない」といわれています。この限界を超える方法として、例えば回路を三次元化する、シリコン以外の素材を使う、あるいは量子コンピュータ用プロセッサを作るなど、何かお考えになっていますか?

サイモン氏 おっしゃった全ての可能性があるでしょう。従来型のトランジスタアーキテクチャには限界が来るのは確かだと思います。しかし現在でも、プロセッサのサイズがどんどん小さくなっていっていることは本当に驚くべきことです。

 一般的な回路の微細化(scaling)がどんどん難しくなっているのは事実です。10年から15年前までは半導体素子の製造技術が微細化を可能にしていましたし、その技術と素材の組み合わせがプロセッサの進歩を支えてきました。

 現在は、素材の果たす役割が大きくなっているのも事実です。将来的には、非シリコンのトランジスタやカーボンナノチューブなど、今は存在していないような素材が登場するでしょう。また、3Dトランジスタに関してはArmもとても関心のある分野です。一部の高性能なメモリでは同様の技術が使われていますし、それ以外にもさまざまな可能性があると思います。

 こうした技術を組み合わせれば、実現できることが格段に多くなるでしょう。今よりも微細化する方法はあるでしょうし、それを模索することは業界内でも大きな議論の焦点になっています。技術的に微細化が手詰まりになることがそれほど早くやってくるとは思いませんが、近年のデータセンターの進歩やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)への要求を考えると、今とは違った分野や形式への余地がまだあると思います。

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