プロトタイプは作ってもらいましたが、発注は別の会社にします。あ、試作品のコピーは頂きましたからね――契約をにおわせて契約前作業を強要したクライアント。開発会社は泣き寝入りするしかないのか???
「コンサルは見た!」とは
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
広告代理店「北上エージェンシー」から、AIで折り込みチラシを自動作成するシステム開発の引き合いを受けたソフトウェア開発企業「マッキンリーテクノロジー」の技術営業、日高達郎。正式受注を獲得するために無償でプロトタイプを作り提案し続けたがきたが、北上の技術部長 生駒の要求は増すばかり。
やっと受注にこぎ着けるかと思ったある日、生駒の口から衝撃の発言が……!
2017年7月――。
「ウ、ウチと契約しないばかりか、開発を『アルプスソフトウェア』に任せる……そ、そんなことが許されるとお思いですか!!!」――マッキンリーテクノロジーの技術営業、日高達郎は、からからに乾いた喉から絞り出すように声を張り上げた。
アルプスソフトウェアはマッキンリーと同等規模のITベンダーで、最近AIシステムの開発に力を入れている。
日高の厳しい言葉に、北上エージェンシーの生駒健司は動じる様子はない。
「許されるも何も、御社と弊社の間には何の約束もありませんから……」
「カラー印刷と画面に対応すれば、ウチと契約すると仰ったじゃないですか! それで契約締結の日付まで決めた」――日高は激高したが、生駒は口を「へ」の字にしたまま落ち着いて答えた。
「それは、私のその時点の『考え』を申したまでで、弊社としての正式な回答ではありませんよ。とにかく、御社との間に契約があったわけでもありませんから、債権も債務もない。約束なんて存在しないんです。全ては御社の『営業行為』という理解です」
「そ、そんな……」――日高は目の前の光景が大きくゆがむのを感じた。
こんな理不尽なことが許されるのか。こちらに再三、契約をにおわせて開発を進めさせておきながら、めどが立った途端に「これは営業行為だから金は払えない、お前たちはもう用済みだから引き取ってくれ」と言っている。
(まさか……)――日高の胸に新たな不安がよぎった。
「そ、そうなりますと、われわれが作ったプログラムや設計書は、ウチの経験も入れた形で作った『AIの学習ノウハウ』は……」
「もちろん、引き取っていただいて結構です。まあ、われわれもコピーは取っていますが」
日高は、自分の顔が、これまでになく熱くなるのを感じた――「冗談じゃない! それじゃあ、だまし取られたようなもんだ!」
日高の荒い言葉に生駒も声を荒らげて対抗した。
「別に特許権を持っているものでもないでしょう。設計もプログラムも学習ノウハウも御社のエンジニアにウチの知恵や経験を教え込んで作ったものだ。著作権だって御社にあるわけじゃない!」
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