コスト削減、運用管理負荷低減という根強いニーズを直接的な背景に、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)の企業導入が急速に進んでいる。本特集では、そうしたトレンドを俯瞰するとともに、HCIによって今、企業が目指すべき方向性をあらためて考える。
ITの力で新たな価値を創出するデジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが急速に進展している。多様なニーズが渦巻く中、いち早く価値を開発・改善して「ニーズに応えるスピード」が勝負となる“ソフトウェアの戦い”は日々激化しており、ITを使いこなす者がビジネスを制す“ゲームチェンジ”が起こりつつあるのだ。
だがその一方で、多くの企業は深刻な課題に直面している。ソフトウェアの戦いに参加するためには、まずビジネス展開にスピーディーかつ柔軟に応えられるクラウドネイティブな環境に移行することが不可欠となる。これを受けて、既存システムのクラウド移行に段階的に取り組む企業も着実に増えつつあるが、いまだ大半の企業が、クラウド以前に「仮想環境の運用管理」に悩んでいるという現実があるのだ。
事実、@IT編集部の読者調査「@IT Techno Graphics」でも、「サーバ仮想化導入後の課題」として「仮想環境の運用管理」は毎年上位に入っている。その内訳としても「障害原因の切り分け・特定」「システムのパフォーマンス担保」など、仮想環境の安定運用に手間取っている状況がうかがえる。一方、「運用管理ツールの課題」としては、「利用するのにトレーニングが必要」「複数ベンダーの管理ツールを統合できない」「ユーザーインタフェースが使いにくい」いった声が多く、人的リソース不足、スキル不足に悩む運用管理現場の実態が垣間見える結果となっている。
DXトレンドが進む中、ITを使いこなす先進企業に強い危機感を覚えている企業は多いといわれている。だが先を見据えたDX以前に、「コスト削減」「運用管理負荷低減」といった“目前の課題”をまず解決しなければ、新たな取り組みに踏み出そうにも「その余裕がない」「身動きが取れない」企業が多いのが現実ということだろう。
こうした中で、昨今急速に導入企業数が伸びているのが「ハイパーコンバージドインフラ」(以下、HCI)だ。サーバ、専用ストレージ、ネットワークを組み合わせる従来の3層構造アーキテクチャとは異なり、HCIは「ソフトウェア定義ストレージ」(以下、SDS)を採用し、汎用的なx86サーバにコンピューティング機能とストレージ機能を統合。すぐに使い始められる検証済みの仮想環境として納品される。
システム構成をシンプル化できる他、定型作業の運用自動化機能なども持つことにより、運用管理負荷を大幅に低減できる、コスト削減につながる、インフラ/運用管理の標準化に役立つなど、多数のメリットが注目されている。
中でも大きなポイントとなっているのが、SDSを採用することで“サーバ管理者にとって管理しやすいインフラ”になっている点だ。従来型の3層構造アーキテクチャの場合、SANストレージの運用管理には専門スキルが必要であり、リソースを増設するたびにRAIDの再設計が求められるなど一定の管理負荷も掛かっていた。だがHCIの場合、基本的には専用ストレージの運用管理スキルがなくとも仮想環境全体を管理できる。この点が、人的リソース不足、スキル不足に悩む企業にとって大きなメリットになっているわけだ。
もう1つは、最小限のリソースでスモールスタートして、必要に応じて拡張していくことができる点だ。これによって中小規模の企業にとっても既存の仮想環境を改善するための現実的な選択肢となっている。
ただ、以上のような特長から「簡単・シンプル」とうたわれるHCIだが、導入企業が伸びている半面、現実的に導入を検討するに当たって不安や懸念を抱くユーザーも増えている。中でもSDSの信頼性やパフォーマンス、パックアップやセキュリティなど、主に“専用ストレージ装置を採用していないことに起因する不安や誤解”が目立つようだ。同じ観点で、HCIに向くシステム、向かないシステムの判断基準が知りたいという意見もよく聞かれる。「コンピュート/ストレージリソースを個別に増設したい際に制約があるのでは」「何か問題が起きたときの対応が難しいのでは」といった“一体型”のHCIであるが故の懸念も多い。
運用管理ツールの問題もある。一般に、日本企業の運用管理現場の多くは既存のやり方が変わることを嫌う。無論、業務が多忙なため新しいことを身に付ける余裕がない故でもあるが、HCIの導入においても「既存の運用管理ツールをそのまま使い続けられるのか」「既存の運用プロセスが変わってしまうのではないか」という点を懸念する声が多い。この点で、HCI製品の専用管理ツールと既存の運用管理ツールの統合性などを重視する向きがある一方、既存の運用プロセスにこだわり過ぎることなく、HCIの運用管理性に注目し、GUIの分かりやすさや、各種作業の自動化・標準化を最重視する向きもあるようだ。
この辺りへの対応は、HCI提供ベンダーによって考え方やスタンスが異なる点でもあるため、製品選定の1つのポイントになることだろう。要は一口に「簡単・シンプル」といっても、“製品を導入しさえすれば”全問題を解決できるわけではなく、HCIも例にもれず、まずは自社の状況、求める要件、達成したい目的を明確に把握することが肝要ということだろう。
本特集では、以上のように導入が進む半面、疑問や誤解も浮上しているHCIの正しい理解や有効な選定基準を、複数の有識者やプレイヤーへの取材を通じて明らかにしていく。だが昨今のブームとも呼び得るトレンドにおいて、何より気を付けたいのは「コスト削減」「運用負荷低減」など、HCIを“目先の問題解決手段”としてのみ捉えてしまうことだろう。
冒頭で述べたように、ITとビジネスが直結している今、インフラ運用の在り方はビジネス展開に大きな影響を及ぼす。デジタル時代が本格的に到来し、ニーズの変化にスピーディーかつ柔軟に応えることが生き残りの一大要件となっている今、インフラには「開発者や事業部門など、エンドユーザーの要請に応じて、迅速にITリソースを提供したり、利用停止したりすることができる」ことが求められる。
ITサービスの開発・提供をスピードアップするためにDevOpsを実践するとなれば、CI/CDを実現する上でも開発・テスト環境、本番環境を自動的に配備する仕組みが不可欠となる。もはや従来のように、手作業や属人化した運用スキルだけに頼っているようでは、“勝負に参加し得るインフラ運用”はとうてい実現できない時代が到来しているのだ。
そして全システムを外出しできるわけではなく、全てをパブリッククラウドに頼るわけにもいかない以上、以上のような要件を満たすためには自ずとオンプレミスにプライベートクラウドを持つことが不可欠となる。つまり、「クラウドネイティブな環境への移行が重要だ」と前述したように、本格的なデジタル時代を迎えつつある今、HCIも単なる「既存の仮想環境の置き換え」ではなく、新たな環境に移行する上での第一歩と捉えることが重要なのではないだろうか――これが本特集の企画趣旨だ。
ハイパーバイザーを活用した単なる仮想環境を「プライベートクラウド」と誤解している向きもいまだある中で、本特集では、プライベートクラウドの意義を振り返りつつ、今、不可欠なオンプレミスの要件を明確化。「デジタル時代に向けた攻めのITへの変革」という文脈でHCIに光を当て、「運用効率化だけに終わらないメリット享受」の要点を徹底的に深掘りする。
オンプレミスにクラウドを持つことが不可欠な今、急速に導入が進んでいるハイパーコンバージドインフラだが、認知が高まるにつれ、“誤解”も生じつつあるようだ。それどころかプライベートクラウドそのものに対する誤解も渦巻いている――本特集では、デジタル時代に不可欠なオンプレミスの要件を明確化。ハイパーコンバージドを形容する「簡単・シンプル」という言葉の真意と、「運用効率化だけに終わらないメリット享受」の要点を、徹底的に深掘りする。
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