今回は、ユーザーの協力義務違反が問われた裁判を解説する。まずは、判決文を読んでいただこう。
建築現場の足場などの資材リース業を営むユーザー企業は、リース物件の管理を行うシステムの刷新を行うこととなった。現行システムではリース物件が滅失した場合のデータ管理を適切に処理できないという問題を解決するためだった。
ユーザー企業は、この開発をあるソフトウェアベンダーに依頼したが、開発したシステムは正しく動作しなかった。原因は旧システムから新システムに移行されたデータに多数の不整合があったためだった(このデータ不整合は旧システムにおいても存在していたもので、ベンダーの作成したプログラムやベンダーの作業によって発生したものではない)。
これが原因で、システムの開発は当初の納期から大幅に遅れることとなり、ユーザーはベンダーの債務履行遅滞を理由に契約を解除し、支払済の費用に相当する約2000万円の返還を求めてベンダーを提訴した。
情報を追加すると、不整合データは旧システムから存在しており、その発生はベンダーの責任ではなかった。そして、ベンダーは開発着手以前から、不整合データの存在は承知していた。しかし、ユーザーから不整合データに関する詳細な情報は提供されず、ベンダーは不整合データの除去に関する策を講じなかった。
ベンダーは、「不整合データを抽出し、修正する」などの対策はユーザーの責任で行われるべきものと考えたのである(実際に裁判でベンダーがこの言葉を使ったかは不明だが、不整合データに関する十分な情報を提供しなかったのはユーザーの協力義務違反だという論である)。
これをユーザー側から見たら、どうだろうか。
ユーザー企業は、ITに関する知識がほとんどない素人である。旧システムも自身で構築したわけではない。データの不整合があることは承知していたが、それがどのような形で旧システムに格納されているのかは分からず、不整合データを抽出して修正しろといわれても、何をすればよいのか全く分からなかった。
ユーザーは、「その辺りも含めてベンダーがやってくれるだろう」という期待があったと思われる。しかしベンダーはそこまでの作業は請け負っていない。
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