契約期間が過ぎても、納品したプログラムやHTMLファイルを複製して使い続けるユーザー。ベンダーはこれを阻止できるのか?――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は「制作物の著作権」を考察する。
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IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する本連載、今回は「著作権」を考察する。
著作権については、過去にも本連載で「プログラムや設計書、画面デザインなどが著作権法で定める著作物として認められるためには、作成者独自の工夫や創意が必須である」と解説した。
今回はこの著作物の定義について、より分かりやすい判例を紹介する。あるユーザー企業(以降、ユーザー)がベンダーに依頼して作成したHTMLが著作物に当たるかどうかを争った裁判だ。
HTMLファイルは、作成者が一生懸命に頭を悩ませて作り上げるものであり、全く同じものは他には存在しない。
その一方、他のプログラミング言語に比べると使用する単語や文法が限定的であり、誰が作っても同じようなものになりやすい。これを「著作物」としてしまうと、HTMLの作成者は、何を書いても「あれは自分が作ったものに類似している」「これは自分のものをコピーしているに違いない」と著作権侵害を主張され、開発ができなくなってしまうという弊害も予測される。
HTMLファイルの著作権を、裁判所はどのように判断したのだろうか。判決文を見ていこう。
通販業者であるユーザーが、自社の通販サイト開発をベンダーに委託した。
開発ベンダーはユーザーに対し、当該サイトのプログラムを使用することを契約期間に限り許諾していたが、ユーザーはこの契約期間を過ぎても、プログラムを複製して使用し続けた。ベンダーは、このプログラムのうちHTMLファイルについては、ベンダー社員の創作であり、ユーザーが使用することは著作権侵害にあたるとして、ユーザーに不法行為に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起した。
私は開発者だったころ、顧客向けサイトの画面をHTMLで作成したことが何度もある。顧客企業のイメージに合った色やデザインを考えながら、利用者が使いやすく操作ミスが起こりにくいHTMLファイルを書く作業は、楽しくはあるが、いろいろと頭を悩ませるものでもあった。
そこには確かに自分で考えた「工夫」があったし、自分なりに「文法」も駆使した。そのころの私だったら「HTMLも立派な著作物として認めてほしい」と考えていただろう。
しかし、世の中のWebサイトのソースを見ると、どれも、どこかで見たことのある単語が一定の規約に沿って書かれているものだ。その表現範囲が非常に狭いことはすぐに分かる。「今日は雨が降っている」と、無数の方法で表現できる「小説」とは比べものにならない狭さである。
どんなに一生懸命に苦しんで作っても、出来上がりは似たり寄ったり――HTMLファイルとは、どれもそういうものだ。これは著作物として認められるのだろうか。
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