本連載は、Linuxのコマンドについて、基本書式からオプション、具体的な実行例までを紹介していきます。今回は、テキストファイルをフィルター処理で編集する「sed」コマンドです。
本連載は、Linuxのコマンドについて、基本書式からオプション、具体的な実行例までを紹介していきます。テキストファイルをフィルター処理で編集する「sed」コマンドです。
連載第53回、第54回、第55回、第56回、第57回に続き、sedの応用を説明します。
「sed」は「Stream EDitor」の略です。「sed スクリプトコマンド ファイル名」で、指定したファイルをスクリプトコマンドに従って行単位に処理し、標準出力へ出力します。ファイル名を省略した場合は、標準入力からのデータを処理します。
sedコマンドを利用する場合、パイプとリダイレクトを活用することが一般的です。
sed [オプション]
sed [オプション] スクリプトコマンド 入力ファイル
※[ ]は省略可能な引数を示しています
短いオプション | 長いオプション | 意味 |
---|---|---|
-r | --regexp-extended | スクリプトで拡張正規表現を使用する |
-e スクリプト | --expression=スクリプト | スクリプト(コマンド)を追加する |
-f スクリプトファイル | --file=スクリプトファイル | 実行するコマンドとしてスクリプトファイルの内容を追加する |
-i | --in-place | ファイルを直接編集する |
-i拡張子 | --in-place=拡張子 | ファイルを直接編集し、指定した拡張子でバックアップする(「-i」と「拡張子」の間には空白を入れない) |
--follow-symlinks | -iで処理する際にシンボリックリンクをたどる | |
-n | --quiet,--silent | 出力コマンド以外の出力を行わない(デフォルトでは処理しなかった行はそのまま出力される) |
-l 文字数 | --line-length=文字数 | lコマンドの出力行を折り返す長さを指定する(「-l」と「文字数」の間には空白を入れる) |
-s | --separate | 複数の入力ファイルを一続きのストリームとして扱わずに個別のファイルとして扱う |
-u | --unbuffered | 入力ファイルからデータをごく少量ずつ取り込み、頻繁に出力バッファを掃き出す |
-z | --null-data | NUL文字で行を分割する(通常は改行で分割) |
--posix | 全てのGNU拡張を無効にする | |
sedでは、「アドレス」と「コマンド」の組み合わせで処理を指定します。
アドレスには行番号や正規表現による指定が可能で、省略した場合は全ての行が処理の対象となります。
コマンド | 意味 |
---|---|
= | 現在の行番号を出力する |
a テキスト | テキストの追加。指定した位置の後ろに[テキスト]を挿入する(挿入するテキストに改行を含める場合は、改行の前にバックスラッシュを置く) |
i テキスト | テキストの挿入。指定した位置の後ろに[テキスト]を挿入する(挿入するテキストに改行を含める場合は、改行の前にバックスラッシュを置く) |
c テキスト | 選択した行を[テキスト]で置換する(挿入するテキストに改行を含める場合は、改行の前にバックスラッシュを置く) |
q | これ以上入力を処理せずに終了する(未出力分があれば、出力してから終了する) |
Q | これ以上入力も出力もせずに終了する |
d | 指定した行を削除する |
p | 処理した内容を出力する(「-n」オプション指定時は「p」コマンドがないと何も出力されなくなる) |
s/置換前/置換後/ | [置換前]で指定した文字列にマッチした部分を[置換後]に置き換える。複数マッチした場合は先頭のみ置換、全てを置換したい場合は、「s/置換前/置換後/g」のように「g」オプションを指定する |
y/元の文字列/対象文字列/ | [元の文字列]にあるものを、対象文字列の同じ位置にある文字に置換する(「tr」コマンドのように使用できる) |
# | コメント(スクリプト中、「#」以降がコメントとなる) |
sedコマンドは、「テキストを1行読み込み、sコマンドなどで編集操作を行い、出力する」という処理を行ごとに繰り返すことで、ファイルを編集します。一連の操作を行うsedコマンド内部の場所を「パターンスペース」と呼びます。
sedは、この「パターンスペース」とは別に、処理中のデータを一時的に保存しておく場所を備えています。これを「ホールドスペース」と呼びます。
パターンスペースとホールドスペースは独立していますが、sedのコマンドによって内容をやりとりできます。
例えば「h」コマンドで、現在のパターンスペースの内容を、ホールドスペースにコピーします。ただし、ホールドスペースにデータがあった場合は上書きします。上書きではなく、追加したい場合は「H」コマンドを使用します。
以下にホールドスペースとパターンスペースについて利用できるsedのコマンドを示しました。コマンドの処理は全て行単位です。
コマンド | 意味 |
---|---|
h | 現在のパターンスペースの内容を、ホールドスペースに上書きコピーする |
H | 現在のパターンスペースの内容を、ホールドスペースに追加する |
g | ホールドスペースに保存した内容を、パターンスペースに上書きコピーする |
G | ホールドスペースに保存した内容を、パターンスペースに追加する |
x | パターンスペースの内容とホールドスペースの内容を交換する |
ホールドスペースを使った処理を試してみましょう。処理内容は、/etc/shellsの内容のうち、末尾がshとなっている行のみ、「/bin/bash -> /bin/baSH」のよう置き換えるというものです(※1)。
※1 ホールドスペースを使わず、sコマンドでも処理できる。「sed -ne 's/\(.*\)sh$/& -> \1SH/p'」と書けばよい。\(〜\)」は文字列の一部を取り出すために使用した。「&」は置換対象となった箇所全体という意味だ(第57回)。
末尾がshとなっている行を探し出したいため、パターン指定は「/sh$/」としました。さらに、複数の処理を行いたいので、「{ }」記号でコマンドをグループ化しています。
以下のスクリプトでは読みやすくするためインデントしました。#記号以降はコメントです。
/sh$/{ #末尾がshだった場合 { 〜 } の処理を行う h #読み込んだ内容をホールドスペースに保存(上書きコピー) s/$/ -> / #末尾に「 -> 」を追加する x #パターンスペースとホールドスペースの内容を交換する s/sh/SH/ #shをSHに置換する(※2) H #パターンスペースの内容をホールドスペースに追加する x #パターンスペースとホールドスペースの内容を交換する s/\n// #改行を除去する p #出力する }
※2 このスクリプトを、/etc/shells以外に適用すると、意図した通りの結果にはならない。例えば、「shshsh」という行が、「SHshsh」に置換されてしまう。これを避けるためには、「行末のshをSHに置換」となるように厳密に指定しなければならない。具体的には「s/sh$/SH/」のように指定する。
「sedは1行ずつ順次処理するエディタだ」ということを意識するとスクリプトを組立てやすいでしょう。「置換や出力の処理はパターンスペースに対して行う」という点に注意してください。ホールドスペースに対しては置換や出力の処理ができません。
各コマンドを実行した後のパターンスペースの内容とホールドスペースの内容は以下のようになります。ここでは「/bin/bash」という行を読んだ時を想定しています。
コマンド | 処理の意味 | パターンスペースの内容 | ホールドスペースの内容 |
---|---|---|---|
(1行読み込む) | /bin/bash | (※3) | |
h | ホールドスペースにコピー | /bin/bash | /bin/bash |
s | 置換 | /bin/bash -> | /bin/bash |
x | 交換 | /bin/bash | /bin/bash -> |
s | 置換 | /bin/baSH | /bin/bash -> |
H | ホールドスペースに追加 | /bin/baSH | /bin/bash -> 改行/bin/baSh |
x | 交換 | /bin/bash -> 改行/bin/baSH | /bin/baSH |
s | 置換 | /bin/bash -> /bin/baSH | /bin/baSH |
p | 出力 | /bin/bash -> /bin/baSH | /bin/baSH |
※3 最初は空だが、それ以降は直前に保存した内容となる。
スクリプトを1行で短く書くことができるので、画面1ではコマンドラインに直接入力しました。コマンドとコマンドの区切りには「;」記号を使用しています。なお、スクリプトファイルで処理する場合は、「-e」オプションを使わず「-n」オプションと「-f」オプションを使用してください(第54回)。
cat /etc/shells | sed -ne '/sh$/{h;s/$/ -> /;x;s/sh/SH/;H;x;s/\n//;p}'
(/etc/shellsの内容を読み込み、行末の「sh」を「SH」に置き換える)
先ほど示したsedのスクリプトには改善の余地があります。処理の順番を変えることで、「x」コマンド(パターンスペースとホールドスペースの交換)を1回減らすことができます。
sedはあくまでも1行単位で処理していることと、HコマンドとGコマンドは、常に文字列の後に追加していること(リダイレクト記号の「>>」相当)に注意してください。
画面2ではスクリプトファイルを読み込まず、コマンドラインで直接入力しています。
/sh$/{ #末尾がshだった場合 { 〜 } の処理を行う h #読み込んだ内容をホールドスペースに保存(上書きコピー) s/sh/SH/ #shをSHに置換する(※2) x #パターンスペースとホールドスペースの内容を交換する s/$/ -> / #末尾に「 -> 」を追加する G #ホールドスペースの内容をパターンスペースに追加する s/\n// #改行を除去する p #出力する }
cat /etc/shells | sed -ne '/sh$/{h;s/sh/SH/;x;s/$/ -> /;G;s/\n//;p}'
(/etc/shellsの内容を読み込み、行末の「sh」を「SH」に置き換える)
西村 めぐみ(にしむら めぐみ)
PC-9801NからのDOSユーザー。PC-486DX時代にDOS版UNIX-like toolsを経てLinuxへ。1992年より生産管理のパッケージソフトウェアの開発およびサポート業務を担当。著書に『図解でわかるLinux』『らぶらぶLinuxシリーズ』『Accessではじめるデータベース超入門[改訂2版]』『macOSコマンド入門』など。2011年より、地方自治体の在宅就業支援事業にてPC基礎およびMicrosoft Office関連の教材作成およびeラーニング指導を担当。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.